
カスハラ対策を「知っている」で終わらせない。経営者が今日決めたい5つのこと
「カスハラ対策が必要なことは分かった。では、うちの会社では何を決めればよいのだろう」
5日間のシリーズを通じて、義務化の基本から、正当な苦情との違い、現場で使う対応手順まで確認してきました。
最後に必要なのは、学んだ内容を自社の行動に変えることです。
経営者が方針を理解していても、従業員が相談先を知らなければ、困った場面で助けを求められません。担当者を決めても、対応する時間や権限がなければ、仕組みは動きません。
Day5では、自社の不足を確認し、担当者、必要な支援、実施の時期、見直し方を決めるための考え方を整理します。
この記事で押さえておきたい5つのポイント
- 2026年10月1日から、労働者を雇用するすべての事業主に、カスハラ防止のための措置が義務付けられています。
- 経営者は、方針だけでなく、担当者が動ける時間や権限も整える必要があります。
- 自社で行う対応と、外部の支援を受ける対応を整理しましょう。
- 相談件数の少なさだけで、対策が機能しているとは判断できません。
- 法改正を継続的に確認する担当と方法まで決めることが、今後の備えになります。
今日、考えたい問いは「従業員を守るための対応を、誰が、いつ、どのような体制で実行するかを決めているか」です。
1.まず、5日間の内容を自社に当てはめる
これまでの内容を、会社として確認したいことに置き換えると、次のようになります。
| 確認してきた内容 | 自社で答えたいこと |
|---|---|
| Day1:義務化の基本 | 対象となる事業主として、必要な措置を確認しているか。 |
| Day2:会社が整える体制 | 方針、相談窓口、発生後の対応などに不足がないか。 |
| Day3:苦情とカスハラの考え方 | 正当な申し入れを受け止めながら、行き過ぎた言動に対応できるか。 |
| Day4:現場での手順 | 責任者が不在でも、連絡、引き継ぎ、記録、フォローができるか。 |
| Day5:経営者の判断 | 不足を埋める担当者、支援、実施時期、確認方法が決まっているか。 |
答えが曖昧な項目があっても、そこで止まる必要はありません。曖昧な部分を具体的な行動に変えていきましょう。
2.決めたいこと① 会社として守る方針を明確にする
最初に、会社として何を大切にするのかを確認します。
基本となるのは、正当な苦情や改善の申し入れには誠実に対応し、カスハラには毅然と対応して、従業員を保護するという方針です。
「お客様は大切だから、多少のことは我慢してほしい」という伝え方では、従業員がどこまで耐えるべきか迷ってしまいます。
一方で、「苦情はすべて断ってよい」という方針も適切ではありません。申し入れの内容と、その伝え方や行動を分けて確認する必要があります。
経営者の言葉と、日々の対応をそろえる
方針に「従業員を守る」と書いてあっても、実際の相談に対して「それくらい自分で何とかして」と返していれば、相談は上がりにくくなります。
方針の信頼性は、相談を受けたときの行動によって確かめられます。
経営者や管理職自身が、相談を受けた際の対応を理解しているか確認しましょう。
3.決めたいこと② 担当者と、不在時の対応を決める
次に、誰が何を担うかを明らかにします。
小さな会社では、経営者が相談窓口と対応責任者を兼ねることもあるでしょう。その場合も、「社長が全部やる」で終わらせず、具体的な役割を整理します。
- 従業員からの相談を受ける人。
- その場の対応を引き継ぐ人。
- 警察や専門家への相談を判断する人。
- 記録を整理し、適切に保管する人。
- 対応後に従業員の状態を確認する人。
同じ人が複数を担当しても、役割を分けて考えることで、対応漏れを見つけやすくなります。
担当者には、時間と権限も必要
相談を受ける担当者が通常業務で手いっぱいなら、相談への対応が後回しになるおそれがあります。
対応のために業務を調整できるか、どこまで判断できるか、迷ったときに誰へ確認するかも決めてください。
不在時や夜間、単独での訪問業務など、普段と異なる場面で連絡が止まらないかも確認しましょう。
4.決めたいこと③ 自社で担うことと、外部に頼ることを整理する
すべてを社内だけで解決しようとすると、担当者に負担が集中する場合があります。
反対に、外部へ依頼すれば、会社側の対応がすべて不要になるわけでもありません。
現場での安全確保や業務の調整など、会社が担うことと、専門的な助言を受けることを組み合わせましょう。
| 運用の方法 | 活用しやすい点 | 経営者が確認したいこと |
|---|---|---|
| 社内を中心に運用する | 業務や顧客との経緯を把握しやすい。 | 担当者の対応力、時間、不在時の体制、相談のしやすさ。 |
| 外部の相談窓口を活用する | 社内では話しにくい相談の経路を設けやすい。 | 費用、受付時間、情報共有、緊急時の対応範囲。 |
| 社内対応と外部支援を組み合わせる | 現場の対応と、専門的な確認を分担しやすい。 | 誰が何をするか、連絡を引き継ぐ条件、個人情報の取扱い。 |
外部支援を検討するときは、「カスハラ対策を支援します」という名称だけで選ばず、具体的な業務範囲を確認します。
相談受付、研修、規程づくり、個別の法的対応などでは、必要な支援が異なります。
相談内容に合わせて、確認先を選ぶ
- 制度や職場のハラスメント対策については、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)など。
- 労務管理や社内規程の整備については、社会保険労務士など。
- 個別の紛争、警告、契約や損害賠償などの法的対応については、弁護士など。
- 暴力や脅迫など、犯罪に当たり得る言動については、警察。
相談先によって対応範囲や利用条件は異なります。必要な支援を受けられるか、事前に確認しておきましょう。
5.決めたいこと④ 必要な時間と費用を確保する
対策を実行するには、従業員への説明、担当者の学習、記録の整理などに時間が必要です。
必要に応じて、外部相談や研修、記録の管理などに費用がかかる場合もあります。
経営者は、金額の大小だけで判断せず、どの不足を補うための支出かを確認しましょう。
たとえば、相談先が知られていない職場では、機器を購入する前に、方針と連絡方法の説明を整える必要があるかもしれません。
支出額だけでなく、放置した場合の負担も見る
現状の負担を考えるときは、次のような情報が役立ちます。
- 顧客対応に要している時間。
- 責任者や周囲の従業員が応援に使った時間。
- 通常業務の遅れや、ほかの顧客への影響。
- 担当者の心身の負担や、業務調整の必要性。
将来の損失や投資効果を、根拠なく金額に置き換える必要はありません。まずは把握できる負担から整理します。
そのうえで、「誰が対応する時間を確保するか」「どこに専門的な支援が必要か」を判断してください。
6.決めたいこと⑤ 実施時期と、見直す条件を決める
担当者だけ決めても、いつ何を確認するかが曖昧では、通常業務に埋もれてしまいます。
現在不足している対応について、実施する人と確認する時期を具体的にします。すでに義務化されているため、未対応のまま先送りせず、必要な措置を速やかに整えましょう。
| 決める項目 | 書き出したいこと |
|---|---|
| 不足している対応 | 例:責任者が不在のときの連絡方法が決まっていない。 |
| 担当者 | 誰が案を作り、誰が確認・決定するか。 |
| 必要な支援 | 従業員への聞き取り、専門家への確認、作業時間など。 |
| 実施する時期 | いつまでに決め、いつ従業員へ説明するか。 |
| 確認方法 | 従業員が連絡先を確認でき、引き継ぎ方法を説明できるか。 |
| 見直す条件 | 人員変更、連絡先変更、新しい相談、業務変更、法改正など。 |
一つの改善が終わっても、それだけで法令上の対応全体が完了したとは限りません。指針に沿って必要な措置全体を確認し、運用上の不足を補っていきます。
7.「対応できているか」は、何で確かめるのか
マニュアルを作ったことや、研修を行ったことは、取組の記録になります。
ただし、実際に使えているかは、別に確認する必要があります。
- 従業員は、相談先と連絡方法を知っているか。
- 責任者が不在でも、次の行動が分かるか。
- 相談を受けた担当者は、必要な人へ引き継げるか。
- 記録は必要な範囲で共有され、適切に保管されているか。
- 対応後に、従業員の状態を確認しているか。
架空の場面を使って、実際の動きを確かめる方法もあります。
「相談ゼロ」を、そのまま成功の証拠にしない
相談がない理由は、問題が起きていないからかもしれません。一方で、相談先を知らない、相談しても変わらないと思っている、といった可能性もあります。
窓口を周知した後に相談が増えた場合も、それだけで対策が悪化したとは判断できません。
相談件数に加えて、相談しやすさと、その後の対応まで確認することが大切です。
8.未確認のことを、未確認のまま残さない
対策を進める中で、すぐに答えが出ないこともあります。
「この業種では、どこまでサービスを断れるのか」「録音データをどう扱うか」「この働き方は労働者に当たるのか」など、専門的な確認が必要な場合もあるでしょう。
そのときは、「確認が必要」というメモだけで終わらせず、誰がどこへ確認するかを決めます。
また、確認が終わるまでの間も、安全確保や相談の受付など、進められる対応は止めないことが重要です。
サービス提供の中止や利用制限など、相手への影響が大きい対応は、業種ごとの法令や契約、生命・健康への影響、合理的配慮などを踏まえて検討してください。
9.「知らなかった」を繰り返さない情報確認の仕組み
今回のテーマは、「義務化を知らないままで大丈夫なのか」という問いから始まりました。
経営者が、すべての法改正を記憶しておくことは現実的ではありません。だからこそ、必要な変更に気づける仕組みを用意します。
情報を受け取る人と、確認する人を決める
公的機関、業界団体、顧問の専門家などから届く情報を、誰が確認するかを決めましょう。
情報を受け取ったら、次の点を確認します。
- 法律なのか、指針なのか、自治体の条例なのか。
- いつから適用されるのか。
- 自社は対象になるのか。
- 何が義務で、何が推奨される取組なのか。
- 誰が対応し、従業員へどう伝えるのか。
今回の全国の法律による義務と、自治体の条例は分けて確認します。見出しだけで判断せず、公的な資料や専門家に当たる習慣をつくりましょう。
「昔からのやり方」を、見直せる会社にする
長年の経験は、会社の財産です。ただし、その経験を現在の制度や働き方に合わせて更新する必要があります。
「以前は問題にならなかった」「自分の若い頃は我慢した」という考え方だけでは、今の従業員を守る判断にはつながりません。
私が大切だと考えるのは、経験を否定することではなく、経験を今の職場で使える形へ更新することです。
10.一人で事業をする方や、会社員もできること
労働者を雇っていない個人事業主は、今回の雇用する労働者を守るための措置義務と、従業員を雇っている事業主とを分けて考えます。
ただし、自分が被害を受けるリスクや、相手先の従業員に対する自分の言動まで無関係になるわけではありません。
取引条件や連絡方法を分かりやすくする、困った際の相談先を調べておく、やり取りを適切に記録するなど、自分の事業に合った備えを考えましょう。
会社員の方は、自社の相談先と引き継ぎ方法を確認してください。管理職の方は、部下から相談された際に、どのように動くかまで把握することが大切です。
そして、発注する側やサービスを利用する側になったときも、相手の人格を尊重する姿勢を持ちましょう。
よくある質問
Q1.何も整えていなかった場合、何から始めればよいですか?
必要な措置全体を公的資料で確認し、現場の相談先と緊急時の連絡方法を明らかにすることから着手しましょう。担当者と実施時期を決め、方針や発生後の対応など、ほかの必要な措置も速やかに整えてください。
Q2.外部に委託すれば、会社側の担当者は不要になりますか?
外部窓口だけでは、現場の安全確保や業務の調整までできない場合があります。委託範囲を確認し、会社側で連絡を受け、必要な判断や対応を行う人を明らかにしておきましょう。
Q3.研修や機器に、先にお金をかけるべきですか?
必要な対策は職場によって異なります。現状の不足を確認し、その不足を補う方法を選びます。機器や研修を導入しても、相談先や引き継ぎ方法が曖昧なままでは、十分に活用できないおそれがあります。
Q4.カスハラが起きたら、会社は必ず責任を問われますか?
発生したことだけで、会社の責任が一律に決まるわけではありません。事前の措置や発生後の対応など、具体的な事情が問題になります。事案が起きた場合は、必要に応じて専門家に確認してください。
Q5.一度体制を整えれば、その後は何もしなくてよいですか?
人員や業務、相談内容、法令などの変化に合わせた確認が必要です。新しく入った従業員への説明や、連絡先の更新も含め、実際に使える状態を維持しましょう。
まとめ+要約
- 経営者は、従業員を守る方針を、日々の対応と一致させることが大切です。
- 担当者だけでなく、権限、対応時間、不在時の連絡方法まで決めます。
- 社内で担う対応と外部支援を整理し、必要な時間と費用を確保します。
- 実施時期と確認方法を決め、相談から対応後の支援まで機能しているか確かめます。
- 法改正を確認し、自社のルールへ反映する仕組みを継続して運用しましょう。
カスハラ対策は、特別なトラブルが起きた会社だけの課題ではありません。従業員を雇用する事業主として、日頃から整えておく必要がある備えです。
「知らなかった」で止まらず、「今、自社では何が足りないか」を確認する。そのうえで、担当者と次の行動を決めてください。
今日の一歩は、未対応の項目を一つ具体的にし、誰が、いつ確認するかを決めることです。その一歩を、必要な措置全体の整備と継続的な見直しにつなげていきましょう。
自社に必要な備えを、現状から整理してみませんか。
「対応が経営者に集中している」「従業員が安心して相談できるか分からない」「何を外部に相談すべきか整理したい」という方は、顧客対応と社内体制を振り返るところから始めましょう。
経営や事業継続の観点で、課題の整理や備えの検討が必要な方はご相談ください。労務管理、社内規程、個別の紛争などは、社会保険労務士や弁護士など、内容に合った専門家への確認も進めましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されました!」
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」詳細版リーフレット
- 厚生労働省「あかるい職場応援団:カスタマーハラスメントとは」
※本記事は、2026年10月20日時点で確認した公的資料に基づく一般的な情報です。掲載した運用方法や確認項目は、自社の対応を検討するための例です。個別の適用や対応では、最新の法令・指針、業種ごとの規制、契約、自治体の条例などをご確認ください。