
正当な苦情とカスハラはどう違う?お客様の声を大切にしながら従業員を守る判断の基本
「お客様が怒っているけれど、これはカスハラなのだろうか」
「こちらにもミスがある以上、どこまで対応を続けなければいけないのだろう」
カスハラ対策を進めると、現場ではこのような迷いが生まれます。
お客様の声には、商品やサービスを良くするための大切な情報が含まれています。一方で、担当者が暴言や脅しを受け続ける状態を、会社が見過ごすこともできません。
そこで必要なのが、「申し入れの内容」と「その伝え方や行動」を分けて確認することです。
Day1では義務化の基本、Day2では会社が整えるべき体制を確認しました。Day3では、正当な苦情とカスハラをどのように考え、現場での対応につなげるかを整理します。
この記事で押さえておきたい5つのポイント
- 苦情を受けたことや、相手が怒っていることだけで、カスハラとは決まりません。
- 要求の内容と、言動の手段・態様を分け、経緯なども含めて確認します。
- 会社側にミスがあっても、暴力や脅迫まで受け入れる必要はありません。
- カスハラに当たるか結論が出る前でも、安全確保や担当者への支援は必要です。
- 現場の一人に判断を任せず、責任者への引き継ぎと記録を組み合わせましょう。
今日、考えたい問いは「申し入れを適切に確認しながら、担当者が傷つき続ける状況を止められるか」です。
1.「苦情がある」と「カスハラである」は同じではありません
厚生労働省は、顧客などからの苦情がすべてカスハラに当たるわけではないと説明しています。客観的に見て、社会的に許される範囲で行われる正当な申し入れは、カスハラには当たりません。
たとえば、次のような申し入れは、まず内容を確認し、必要な説明や是正につなげることが基本です。
- 購入した商品に不具合があり、交換や修理について説明を求める。
- 請求金額が契約内容と違うため、確認を求める。
- 約束した日時にサービスが提供されず、経緯の説明を求める。
- 案内が分かりにくく、利用方法を改めて説明してほしいと求める。
対応する側が「面倒だ」「厳しいことを言われた」と感じたことだけで、申し入れを退けるのは適切ではありません。
同時に、申し入れの内容に理由があっても、その方法まで常に適切とは限りません。ここを分けて考えることが、判断の出発点になります。
2.要求の内容と、言動の手段・態様を分けて見る
厚生労働省の説明では、社会的に許される範囲を超えているかを考える際、言動の内容と、手段や態様に着目します。
要求の内容に問題がある場合だけでなく、伝え方や行動が行き過ぎている場合もあります。
| 確認する視点 | 確認したいこと |
|---|---|
| 要求の内容 | 何を求めているのか。契約や実際の不具合などと、どのような関係があるか。 |
| 伝え方や行動 | 暴力、脅し、侮辱、執拗な連絡などがないか。 |
| これまでの経緯 | 会社側の説明や対応に、不足や行き違いがなかったか。 |
| 頻度や継続の状況 | 同じ言動が繰り返されているか。どのような状況で続いているか。 |
| 働く人への影響 | 身体や心の苦痛、通常業務への支障などが生じていないか。 |
これは機械的に点数を付けるための表ではありません。業務の内容や相手との関係なども含め、具体的な事情を確認するための整理です。
詳しい考え方は、厚生労働省「あかるい職場応援団」のカスタマーハラスメント解説で確認できます。
3.場面① 商品に不具合があり、交換を求められたら
ここからは、判断の考え方を整理するための架空の場面を使います。実際の相談事例や、法的な結論を示すものではありません。
お客様が商品を持参し、「昨日買ったのに動かない。交換してほしい」と申し出ました。
この段階では、購入状況や不具合、契約条件などを確認して対応を考えます。交換の申し出があったという理由だけで、カスハラと判断することはできません。
まずは、申し入れを具体的にする
担当者は、何が起きているか、いつから使えないのか、何を希望しているかを確認します。そのうえで、自分が判断できる範囲と、責任者への確認が必要な範囲を分けます。
たとえば、次のような伝え方が考えられます。
「状況を確認させてください。商品の状態と購入内容を確認したうえで、対応方法をご案内します」
すぐに結論を出せない場合は、確認する内容と、次に連絡する目安を伝えます。できない約束をして、その後の行き違いを増やさないことも大切です。
途中から暴力や侮辱が始まった場合は、別の対応が必要
不具合への対応が必要であることと、担当者に物を投げたり、人格を否定したりすることは、分けて扱います。
商品の問題は引き続き確認しながら、従業員を危険な場面から離す、責任者が対応するなどの措置を取ります。
会社側の不備を認めることは、従業員への攻撃を認めることではありません。
4.場面② 同じ内容の電話が、何度も続いたら
一度説明した内容について、同じお客様から電話が繰り返される場面もあります。
ただし、「電話の回数が多い」という情報だけでは、状況を十分に判断できません。
- 担当者ごとに説明が変わっていないか。
- 約束した折り返し連絡をしているか。
- 相手が理解できる形で説明できているか。
- 新しい問題や追加の確認事項が生じていないか。
会社側の対応の不一致によって、連絡が増えている可能性もあります。まずは履歴を整理し、説明する担当者や回答内容をそろえましょう。
繰り返しの要求で業務が妨げられている場合
十分に説明しても同じ要求が執拗に続き、担当者や通常業務に支障が出ている場合は、責任者への引き継ぎや、対応方法の見直しを検討します。
その際は、「何回以上なら必ずカスハラ」「何分以上なら必ず電話を切る」と、数字だけで決めないことが大切です。
対応を区切る必要がある場合も、説明の経緯、申し入れの内容、業種ごとの義務などを踏まえ、会社として判断します。
担当者が自分の判断だけで対応を続けたり、突然打ち切ったりしなくて済むよう、事前の手順を整えておきましょう。
5.場面③ 大切な取引先から、行き過ぎた言動を受けたら
カスハラは、一般のお客様との接客だけの問題ではありません。取引先の担当者による言動も対象になり得ます。
たとえば、取引先から納品内容について厳しい指摘を受けたとしても、それだけでカスハラになるわけではありません。契約や品質に関する正当な確認である場合があります。
一方で、指摘の際に、担当者の人格を繰り返し否定したり、脅したりする言動があれば、その内容を別に確認する必要があります。
売上への不安を、従業員だけに背負わせない
小規模な会社では、重要な取引先との関係悪化を心配するのは自然なことです。
ただし、「大事なお客様だから我慢して」と伝えるだけでは、担当者に経営上の不安まで背負わせることになります。
経営者や責任者がやり取りを確認し、窓口の変更、説明内容の整理、相手側の責任者への連絡などを検討しましょう。
取引関係に関わる法的な問題がある場合には、弁護士などに相談します。顧客対応と契約上の問題を、現場の担当者一人で処理させないことが大切です。
6.場面④ 配慮を求める申し出を受けたら
「口頭だけでは分かりにくいので、別の方法で説明してほしい」
「障害のため、この手続きが難しいので相談したい」
このような申し出を受けたとき、通常の手順と違うという理由だけで、過剰な要求と扱わないようにしましょう。
障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、必要な配慮を求める意思表示そのものは、カスハラには当たりません。
必要としていることを確認し、どのような方法で対応できるか、対話を通じて考えることが大切です。
具体的な配慮については、業務や相手の状況などに応じた検討が必要です。担当者だけで難しいと判断せず、責任者と相談できるようにしておきましょう。
7.結論が出るまで、従業員を待たせる必要はありません
判断に迷う場面では、「カスハラと確定しないと助けられない」と考えないことが大切です。
従業員が強い不安を感じている、対応が長引いている、周囲の業務が止まっている。そのような状況があれば、まず応援や引き継ぎを行い、落ち着いて確認できる状態をつくります。
一度きりの言動でも、強い身体的・精神的苦痛によって就業環境が害される場合があります。「何度も続いていないから相談するほどではない」と、本人に我慢させないようにしましょう。
判断と安全確保を分ける
法的にどのように評価するかの確認には、時間がかかることがあります。しかし、暴力などの危険があるときの安全確保は、結論を待つことができません。
危険がある場面では距離を取り、必要に応じて警察への通報などを行います。記録を残すことを優先して、危険な場面にとどまらないでください。
8.現場で使いやすい、3つの伝え方
ここでは、従業員が責任者につなぐための表現例を紹介します。相手の状況や業務に合わせて調整するための例であり、すべての場面に共通する決まり文句ではありません。
① 申し入れの内容を確認する
「ご不便が生じている点を確認させてください。まず、どのような状況だったかお伺いします」
最初から反論や分類をするのではなく、何が問題になっているかを具体的にします。
② 自分の権限を超える場合は、責任者につなぐ
「私の判断だけではお答えできないため、責任者に確認してご案内します」
引き継ぎの際は、申し入れの内容と、それまでの説明を共有します。相手に同じ話を何度もさせることを減らす工夫も必要です。
③ 行き過ぎた言動について、落ち着いて伝える
「お申し出の内容は確認いたします。ただ、従業員への侮辱的な発言はお控えください。ここからは責任者が対応します」
危険が差し迫っている場合に、このような説明を最後まで行う必要はありません。安全を優先し、社内の手順に沿って対応してください。
9.選べる対応と、その注意点を整理する
対応は「受け入れ続けるか、すべて断るか」の二つだけではありません。状況に合わせて、次のような方法を組み合わせます。
| 対応の方法 | 検討する場面 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 説明や確認を続ける | 事実確認や案内が不足している場合。 | 説明する人や内容をそろえ、行き違いを増やさない。 |
| 責任者への交代・複数人での対応 | 担当者の権限を超える場合や、負担が大きい場合。 | 担当者を交代するだけで終わらせず、対応方針も共有する。 |
| 連絡方法や対応の進め方を整理する | 連絡が錯綜している場合や、やり取りが繰り返される場合。 | 相手が利用できる方法や、必要な配慮も確認する。 |
| 警察や弁護士などに相談する | 犯罪に当たり得る言動や、法的な対応が必要な場合。 | 現場の担当者だけで判断や交渉を続けさせない。 |
サービス提供の中止や利用制限などは、業種ごとの法令や契約、相手の生命・健康への影響も確認して検討します。社内の判断基準だけで、法令上必要な対応を省略することはできません。
10.対応を振り返るときは、担当者の失敗探しにしない
トラブルの後には、対応の振り返りが必要です。ただし、担当者を責める場にすると、次から相談が上がらなくなるおそれがあります。
確認したいのは、「なぜうまくできなかったのか」だけではありません。
- 引き継ぐタイミングが分かっていたか。
- 責任者に連絡が取れる状態だったか。
- 契約やサービス内容の説明に、分かりにくい点がなかったか。
- 複数の担当者で案内が食い違っていなかったか。
- 対応後の心身の状態を確認できたか。
会社の説明やサービスに改善点が見つかった場合は、そこも見直します。従業員を守ることと、顧客対応を改善することは、一緒に進められます。
経営上は、対応に要した時間や通常業務への影響も整理すると、窓口の一本化や担当者への支援など、次の対策を検討しやすくなります。
よくある質問
Q1.お客様が怒鳴ったら、その時点で必ずカスハラですか?
言動の内容や程度、経緯、働く人への影響などを踏まえて判断します。声の大きさだけで一律には決められません。ただし、危険や強い負担がある場合は、判断の結論を待たずに応援や安全確保を行いましょう。
Q2.会社側にミスがあれば、強い要求にも応じる必要がありますか?
ミスの確認や必要な是正は行いますが、すべての要求を受け入れることとは別です。暴力や脅迫などへの対応は分け、契約や法令も確認しながら会社として判断してください。
Q3.従業員が「カスハラだ」と言えば、そのまま認定すべきですか?
まず相談を受け止め、心身の状態や安全に配慮します。そのうえで、具体的な言動や経緯を確認します。本人の訴えを軽視することも、確認せずに相手を決めつけることも避けましょう。
Q4.取引を失うかもしれない場合も、経営者が対応すべきですか?
重要な取引先だからこそ、現場の担当者だけに判断を任せないことが大切です。取引への影響と従業員の保護を会社として検討し、必要に応じて相手側の責任者や専門家と連携してください。
Q5.自社のルールで、対応を打ち切る時間を決めてもよいですか?
長時間の対応を防ぐために、責任者へ報告する目安などを設ける方法は考えられます。ただし、その時間を超えたら必ずカスハラになるわけではありません。サービス提供に関する義務や個別の事情も踏まえて運用しましょう。
まとめ+要約
- 正当な苦情を大切にすることと、従業員をカスハラから守ることは両立が必要です。
- 要求の内容と、言動の手段・態様を分け、経緯や就業環境への影響も確認します。
- 会社側のミスがあっても、暴力や脅迫などを受け入れる理由にはなりません。
- カスハラか迷う段階でも、相談、応援、引き継ぎ、安全確保を進めましょう。
- 事案の振り返りは、担当者を責めるためではなく、対応体制を改善するために行います。
今日の一歩として、過去に判断に迷った場面を一つ選び、「申し入れの内容」「実際の言動」「会社側の対応」「担当者への影響」に分けて整理してみてください。個人情報の取扱いに注意しながら、責任者と確認することで、自社に必要な手順が見えてきます。
次回は、現場で使える対応手順のつくり方を考えます
Day4では、初期対応、責任者への連絡、記録、対応後のフォローまでを、小規模な職場で運用できる形に整理します。経営者が不在のときや、一人で顧客対応をする場面も含めて考えていきましょう。
顧客対応の判断が、特定の人に集中していませんか。
「どこで責任者に引き継ぐかが曖昧」「従業員が相談しづらい」「取引先との関係が心配」という場合は、現状の対応と連絡体制を整理することから始めましょう。経営や事業継続の観点で備えを検討したい方はご相談ください。個別の法的判断や紛争対応については、弁護士など適切な専門家への確認が必要です。
参考資料
- 厚生労働省「あかるい職場応援団:カスタマーハラスメントとは」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」詳細版リーフレット
※本記事は、2026年10月20日時点で確認した公的資料に基づく一般的な情報です。掲載した場面は説明のための架空の例であり、個別事案の法的な結論を示すものではありません。実際の対応では、最新の法令・指針、契約、業種ごとの規制、自治体の条例などをご確認ください。