
AI活用の前に、社内業務を棚卸しする簡単な方法
AIを業務に使いたいものの、 どの仕事に使えばよいかわからない方へ。 現在の仕事を見える化し、 改善しやすい業務を見つける方法を解説します。
Executive Summary
- AI導入前に仕事を一覧にします。
- 担当者しか知らない業務も書き出します。
- 時間、回数、負担を記録します。
- 改善しやすい仕事から選びます。
- 棚卸し自体が属人化対策になります。
AIについて考える前に、今の仕事を見えるようにする
「AIで何ができるか」を考えても、 自社で使う場面がなかなか浮かばないことがあります。
その場合は、AIについて考える前に、 現在の業務を見えるようにする必要があります。
本稿では、社内の仕事を一覧にして、 時間、回数、負担、確認のしやすさから、 改善候補を選ぶ方法を紹介します。
完璧な業務マニュアルを作る必要はありません。 まず一週間分の仕事を書き出すだけでも、 AIやパソコンで改善できる部分が見えてきます。
業務を棚卸しすることは、 AIを使うためだけの作業ではありません。 誰が何を担当しているのか、 どこに時間がかかっているのか、 どの仕事が特定の人に集中しているのかを知る機会にもなります。
1.業務の棚卸しが必要な理由
中小企業では、一人が複数の仕事を担当していることが多くあります。
総務を担当しながら経理も行い、 電話対応や採用業務まで受け持っている。 経営者自身が営業、見積もり、請求、発信を行っている。 個人事業主であれば、商品やサービスの提供以外の仕事も、 ほぼすべて自分で行っていることがあります。
このような状態では、 業務の全体像が見えにくくなります。
経営者は「総務の仕事」とまとめて考えていても、 実際には次のような細かな作業があります。
- 勤怠の確認
- 請求書の整理
- 入金状況の確認
- 備品の発注
- 求人応募者への連絡
- 社内からの質問対応
- 会議資料の準備
- 文書やデータの保存
- 郵便物の確認
- 各種申請書の作成
- 取引先への連絡
- 社内のお知らせ作成
仕事を大きな名前だけで捉えていると、 AIやパソコンを使える部分が見つかりません。
例えば「請求業務」という名前だけでは、 どこに時間がかかっているのかわかりません。
実際には、次のような作業に分けられます。
- 売上内容を確認する
- 請求書を作成する
- 宛先や金額を確認する
- 請求書をメールで送る
- 入金日を確認する
- 未入金先を一覧にする
- 確認メールの文章を作る
- 担当者へ対応状況を報告する
このように仕事を細かく分けると、 AIで文章を作れる部分、 表計算ソフトで管理できる部分、 人が判断すべき部分が見えてきます。
「請求業務をAIに任せる」と考えるのではなく、 「未入金先への確認文を作る」 「担当者への報告文をまとめる」といった単位で考えることが大切です。
2.まずは一週間の仕事を書き出す
業務の棚卸しと聞くと、 すべての仕事を細かく調べ、 分厚い業務一覧を作らなければならないと感じるかもしれません。
しかし、最初から完璧にする必要はありません。
まずは一週間、 自分が行った仕事を簡単に記録してください。
紙のノートでも、 表計算ソフトでも、 普段使っているメモでも構いません。
最低限、次の四項目を記録します。
- 何の仕事をしたか
- どのくらいの時間がかかったか
- どのくらいの頻度で行っているか
- 何に困っているか
| 業務 | 頻度 | 1回の時間 | 主な作業 | 困っていること |
|---|---|---|---|---|
| 会議資料の作成 | 毎週 | 90分 | 情報収集、文章作成、確認 | 毎回ゼロから作っている |
| 問い合わせ対応 | 毎日 | 1件15分 | 内容確認、返信文作成 | 似た質問にも毎回答えている |
| 請求書の確認 | 毎月 | 3時間 | 数字確認、入力、送付 | 転記作業が多い |
| SNS投稿 | 週2回 | 30分 | 企画、文章作成、確認 | 内容を考えるのに時間がかかる |
| 日報の集計 | 毎日 | 20分 | 転記、要点整理 | 重要な報告を探しにくい |
| 求人応募者への連絡 | 応募時 | 1件10分 | 日程確認、案内文作成 | 同じ内容を何度も入力している |
| 見積書作成 | 週3回 | 1件30分 | 条件確認、金額入力、説明文作成 | 担当者によって書き方が異なる |
ポイントは、 「担当者名」だけでなく、 「何をしているか」まで書くことです。
例えば、 「田中さんが請求を担当している」だけでは、 改善方法は見つかりません。
次のように、 実際の作業内容まで分けてください。
- 受注内容を確認する
- 金額を表計算ソフトへ入力する
- 請求書を作成する
- メール文を作成する
- 請求書を添付して送る
- 送付済みの記録を残す
同じ情報を何度も入力している作業や、 別の資料へ書き写している作業、 毎回似た文章を作っている作業があれば、 改善候補になります。
4.四つの項目で優先順位を決める
業務を書き出した後は、 どの仕事から改善するかを決めます。
すべてを一度に変えようとすると、 現場の負担が増え、 何が良かったのかわからなくなります。
次の四項目で比べてください。
時間
一回の作業時間だけでなく、 一週間または一か月の合計時間を確認します。
一回10分でも、 毎日20回行っていれば、 大きな時間になります。
反対に、一回3時間かかっても、 年に一度しかない仕事であれば、 最初の改善対象としては優先度が低い場合があります。
回数
毎日、毎週、毎月など、 どのくらい繰り返しているかを確認します。
回数が多い仕事は、 一回あたりの削減時間が少なくても、 年間では大きな差になります。
例えば、一回5分短縮できる作業を、 一日10回、月20日行う場合、 一か月で約1,000分、 およそ16時間40分の削減になります。
負担
作業時間だけでなく、 担当者が感じている負担も確認します。
次のような声がある仕事は、 改善候補です。
- 面倒で後回しにしている
- 毎回同じことを繰り返している
- 間違えないか不安になる
- 担当者が休みにくい
- 締め切り前に残業が発生する
- 人によって仕上がりが変わる
- 引き継ぎが難しい
数字には表れにくくても、 担当者の心理的な負担が大きい仕事はあります。
確認のしやすさ
AIやパソコンで作業した後、 人が正しいか確認できる仕事は試しやすい候補です。
例えば、 社内通知の下書きや会議メモの整理は、 元の情報と見比べて確認できます。
一方で、 正解を判断しにくい仕事や、 一度の間違いが大きな問題につながる仕事は、 最初の対象には向きません。
例えば、契約の最終判断、 税務や労務の判断、 採用や解雇の決定などです。
業務を四つに分類する
四項目を確認したら、 各業務を次のように分類します。
| 分類 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| すぐ試す | 頻度が高く、人が確認しやすい | 定型メール、会議メモ、社内通知 |
| 情報を整理してから試す | 元の資料や手順が整っていない | マニュアル作成、問い合わせ分類 |
| 現在の方法を続ける | 頻度が低く、改善効果が小さい | 年に一度だけ作る文書 |
| 専門家へ相談する | 法令、契約、個人情報などに関わる | 労務判断、契約審査、税務処理 |
5.「人にしかできない仕事」は本当か
業務を見直すと、 「これは人にしかできない」 「うちの仕事は特殊だからAIには無理だ」 という意見が出ることがあります。
確かに、すべてをAIに任せられるわけではありません。
最終判断、交渉、相手への配慮、 責任を伴う承認などは、 人が担うべき仕事です。
しかし、その仕事の前後には、 AIやパソコンが補助できる作業があります。
採用業務の場合
採用するかどうかの最終判断や、 面接で応募者と向き合うことは人の仕事です。
一方で、次の作業は補助できます。
- 求人原稿の下書き
- 応募者への案内文作成
- 面接質問の案出し
- 面接メモの整理
- 採用後の案内資料作成
- よくある質問への回答案作成
営業業務の場合
お客様との信頼関係づくりや、 条件交渉、提案の最終判断は人が行います。
その前後にある次の作業は、 AIで補助できる可能性があります。
- 訪問後のお礼メール作成
- 商談メモの要点整理
- 提案書の構成案作成
- 業種別の説明文の下書き
- 過去の質問の整理
- 次回確認事項の一覧化
総務業務の場合
社員の事情を踏まえた対応や、 例外への判断は人が行う必要があります。
一方で、次の仕事は補助できます。
- 社内通知の下書き
- 研修案内文の作成
- 社内質問の分類
- 手続き案内のわかりやすい書き直し
- 会議内容の整理
- 業務手順書の下書き
「人の仕事をなくす」のではなく、 人が判断や対話に集中できる状態を作ると考えてください。
6.個人事業主は仕事を役割ごとに分けてみる
個人事業主の場合、 社内の部署や担当者がいないため、 業務の棚卸しが不要に感じるかもしれません。
しかし、一人で多くの役割を担っているからこそ、 棚卸しが重要です。
例えば、一人の中に次の役割があります。
- 経営者
- 営業担当者
- 商品やサービスの提供者
- 経理担当者
- 広報担当者
- 問い合わせ担当者
- 事務担当者
一日の仕事を、 役割ごとに分けてみてください。
| 役割 | 主な仕事 | 改善候補 |
|---|---|---|
| 営業 | 問い合わせ返信、提案、見積もり | 返信文や提案構成の下書き |
| 広報 | ブログ、SNS、案内文作成 | 企画案や文章の下書き |
| 経理 | 請求、経費整理、入金確認 | 分類方法や確認手順の整理 |
| 事務 | 日程調整、資料整理、連絡 | 定型文やチェックリスト作成 |
| 経営 | 売上確認、課題整理、計画作成 | 数字の見方や検討項目の整理 |
売上を生む仕事よりも、 事務作業に多くの時間を使っている場合は、 その中に改善候補があります。
7.業務棚卸し表を作ってみる
次の項目を使って、 自社の業務棚卸し表を作ってみましょう。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 業務名 | どのような仕事か |
| 担当者 | 誰が行っているか |
| 頻度 | 毎日、毎週、毎月、不定期など |
| 作業時間 | 一回あたり、または一か月の合計時間 |
| 作業内容 | 読む、探す、入力する、書く、確認するなど |
| 困りごと | 時間、ミス、負担、属人化など |
| 人の判断 | どこで人の確認や判断が必要か |
| 改善候補 | AI、表計算ソフト、業務廃止、書式統一など |
| 優先度 | 高、中、低 |
最初は、すべての業務を埋める必要はありません。
「時間がかかる」 「毎回面倒」 「担当者しかわからない」と感じる仕事を、 まず五つ書き出してください。
その中から、 頻度が高く、 人が結果を確認しやすく、 個人情報や機密情報を扱わない仕事を一つ選びます。
8.棚卸しをすると、AI以外の改善策も見つかる
業務を棚卸しした結果、 すべてをAIで改善する必要はありません。
むしろ、 AIを使わないほうが簡単な場合もあります。
例えば、次のような改善策があります。
- 不要な作業をやめる
- 毎日行っている確認を週一回にする
- 複数の書式を一つに統一する
- 同じ内容の入力を一回にまとめる
- 共有フォルダーの保存場所を決める
- 定型文を用意する
- チェックリストを作る
- 既存の表計算機能を使う
- 現在使っているソフトの設定を見直す
AIを使うことが目的ではありません。
仕事を楽にし、 間違いを減らし、 お客様や本来の業務へ使える時間を増やすことが目的です。
棚卸しをした結果、 「この仕事はそもそも必要ない」とわかれば、 それも大きな成果です。
まとめ+要約
- AI活用の前に、現在の業務を細かく書き出します。
- 最初は一週間の仕事を記録するだけでも始められます。
- 時間、回数、負担、確認のしやすさで業務を比べます。
- 業務全体ではなく、読む、探す、書く、整理するといった作業ごとに改善を考えます。
- 人は判断や対話に集中し、AIには準備や整理を手伝わせます。
次の一手: 一週間だけ、行った仕事の名前と所要時間を記録してください。
よくある質問
Q1.何人くらいで業務の棚卸しをすればよいですか?
最初は、経営者と実務担当者の二人でも構いません。
大切なのは、 経営者が想像している業務と、 現場が実際に行っている作業の違いを確認することです。
一人で行う場合も、 実際に作業している人へ話を聞き、 細かな手順や困りごとを確認してください。
Q2.細かく書き出すと時間がかかりませんか?
最初からすべての業務を細かく整理する必要はありません。
まず一週間、 仕事の名前と所要時間だけを記録してください。
その後、 時間がかかる仕事、 回数が多い仕事、 担当者の負担が大きい仕事だけを詳しくします。
Q3.棚卸しをしても、AIを使えない仕事ばかりだったらどうしますか?
AI以外の改善策が見つかることも、 業務棚卸しの成果です。
作業の廃止、 回数の削減、 書式の統一、 定型文の準備、 保存場所の整理、 現在使っているソフトの見直しなどを検討できます。
AIを使うことではなく、 仕事を楽にすることを目的にしてください。
Q4.担当者が業務を書き出したがらない場合はどうしますか?
業務を減らすためではなく、 担当者の負担を減らし、 休みやすくするために行うことを伝えてください。
棚卸しが人員削減や評価の材料だと思われると、 正確な情報が集まりにくくなります。
「面倒な仕事は何か」 「何度も繰り返していることは何か」と、 困りごとを聞く形で進めると話しやすくなります。
Q5.業務棚卸し表は定期的に見直す必要がありますか?
一度作って終わりではなく、 業務内容や担当者が変わったときに見直します。
最初は三か月に一度、 その後は半年に一度など、 無理のない頻度で確認してください。
新しい作業が増えていないか、 改善した業務が元の方法へ戻っていないかも確認します。