
同一労働同一賃金で社会保険料はどうなる?
Executive Summary
- 同一労働同一賃金と社会保険は別の制度です。
- 同一労働同一賃金だけを理由に、社会保険料が自動的に上がるわけではありません。
- ただし、賃金や労働時間を見直すと社会保険に影響する場合があります。
- 短時間で働く人への社会保険の適用範囲は今後さらに広がります。
- 経営者は時給だけでなく、社会保険料を含めた総人件費で考えることが大切です。
「パートの給料を上げることになったら、 社会保険料まで増えるのではないか?」
同一労働同一賃金について考え始めると、 中小企業の経営者や個人事業主の方が次に気になるのが、 社会保険の問題ではないでしょうか。
給料が上がるだけでも人件費への影響があります。 そこに会社負担の社会保険料まで増えるとなれば、 「一体どこまで負担が増えるのだろう」 と不安になるのも当然です。
ここで最初に整理しておきたいのは、 同一労働同一賃金と社会保険は別の制度である ということです。
同一労働同一賃金の制度があるからといって、 それだけでパート社員全員が社会保険に加入したり、 会社の社会保険料が自動的に上がったりするわけではありません。
ただし、 待遇を見直した結果として賃金が上がったり、 労働時間が増えたりすると、 社会保険の加入条件や保険料に影響する場合があります。
そのため経営者は、 「同一労働同一賃金」と「社会保険」を混ぜて考えるのではなく、 別々の制度として整理したうえで、 最後に会社全体の人件費として考えることが大切です。
同一労働同一賃金になったら、社会保険料も自動的に増える?
結論から言えば、 同一労働同一賃金が適用されることだけを理由に、 社会保険料が自動的に増えるわけではありません。
同一労働同一賃金は、 正社員とパート・有期雇用労働者などの間にある待遇差について、 その違いが不合理ではないかを確認する制度です。
一方、 健康保険や厚生年金などの社会保険については、 労働時間や勤務日数、 会社の規模など、 別の加入条件によって判断されます。
つまり、 会社としては次の二つを分けて考える必要があります。
- 正社員とパートの待遇差は適切か
- その従業員が社会保険の加入条件に当てはまるか
この二つは関係することがありますが、 同じ制度ではありません。
それでも社会保険料に影響する場合があるのはなぜ?
「別の制度なら、 なぜ同一労働同一賃金を考えるときに社会保険まで確認する必要があるのか?」
それは、 待遇を見直した結果として、 従業員の給与や働き方が変わる可能性があるからです。
たとえば、 正社員とパートの仕事内容や責任を確認したところ、 パート社員の待遇を見直す必要があると判断したとします。
その結果、
- 時給を引き上げる
- 新たに手当を支給する
- 勤務時間を増やす
- 契約内容を変更する
- より責任のある仕事を任せる
といった変更が行われることがあります。
このとき、 社会保険の加入条件や保険料を決める基礎となる報酬に影響すれば、 会社と従業員が負担する社会保険料にも影響する場合があります。
そのため、 給与制度を見直すときには、 給与だけを見て終わらせず、 社会保険を含めた人件費全体を確認する ことが重要です。
パートでも社会保険に入る場合があります
「パートは社会保険に入らない」 と思っている経営者の方もいるかもしれません。
しかし、 パートやアルバイトであっても、 一定の条件に当てはまれば健康保険や厚生年金の加入対象になります。
また、 正社員と比べて勤務時間や勤務日数が短い人についても、 一定の条件を満たす短時間労働者は社会保険の加入対象となる場合があります。
2026年8月時点では、 短時間労働者への社会保険適用について、 企業規模などの条件を確認する必要があります。
対象となる企業で働く短時間労働者については、 週の所定労働時間などの条件を満たす場合、 社会保険への加入が必要になります。
そのため、 「パートだから社会保険は関係ない」 と決めつけず、 一人ひとりの契約内容や実際の働き方を確認することが大切です。
社会保険の適用範囲は今後さらに広がります
中小企業の経営者にとって、 もう一つ重要なのが、 短時間労働者への社会保険の適用拡大です。
現在は企業規模による条件がありますが、 今後はこの企業規模要件が段階的に縮小される予定です。
厚生労働省が案内しているスケジュールでは、 社会保険の適用対象となる企業規模が段階的に広がっていきます。
- 2027年10月から:従業員36人以上の企業へ拡大
- 2029年10月から:従業員21人以上の企業へ拡大
- 2032年10月から:従業員11人以上の企業へ拡大
- 2035年10月から:企業規模要件を撤廃予定
つまり、 現在は対象になっていない小規模な会社でも、 将来的には短時間労働者への社会保険適用を考える必要が出てきます。
「うちは小さい会社だからまだ関係ない」 ではなく、 数年先まで考えて人件費や働き方を整理しておくことが大切です。
2026年10月には賃金要件の変更も予定されています
短時間労働者の社会保険加入については、 2026年10月からの変更にも注意が必要です。
これまで短時間労働者の加入条件の一つとして、 月額賃金に関する要件が設けられていました。
厚生労働省では、 この賃金要件について、 2026年10月に撤廃する予定 と案内しています。
この変更によって、 今まで賃金要件によって加入対象になっていなかった人についても、 そのほかの条件を満たせば、 社会保険加入の対象になる可能性があります。
同一労働同一賃金への対応で時給や手当を見直す時期と、 社会保険制度の変更時期が重なるため、 中小企業にとって2026年は、 給与と社会保険を一緒に確認しておきたい年といえます。
「時給を100円上げるだけ」で考えない
たとえば、 パート社員の時給を1,100円から1,200円へ上げるとします。
経営者としては、 「1時間につき100円の人件費増」 と考えたくなるかもしれません。
しかし、 経営判断としては、 もう少し広く考える必要があります。
確認したいのは、 次のような項目です。
- 時給の増加額
- 月間の勤務時間
- 年間の給与増加額
- 社会保険の加入対象になるか
- 会社負担の社会保険料への影響
- 雇用保険などへの影響
- 残業代への影響
- 賞与や手当への影響
つまり、 給与を見直す場合は、 「時給×勤務時間」だけではなく、 会社が最終的に負担する総人件費で考える ことが大切です。
社会保険料が増えることだけを悪いことと考えない
社会保険への加入者が増えれば、 会社側にも保険料負担が発生するため、 経営者としてはコスト増が気になるでしょう。
しかし、 人件費を見るときには、 支出が増える面だけではなく、 採用や定着への影響も考える必要があります。
たとえば、 社会保険に加入できることを理由に、 より長く働きたいと考える人がいるかもしれません。
また、 待遇を改善することで、 採用時に選ばれやすくなったり、 従業員の退職を減らせたりする可能性もあります。
人が辞めるたびに新しい人を募集し、 面接し、 教育することにも費用と時間がかかります。
そのため、 社会保険料を含めた人件費については、 単なる 「負担が増えた」 だけではなく、
- 採用しやすくなるか
- 退職を減らせるか
- 長く働いてもらえるか
- 教育コストを減らせるか
- 人手不足の解消につながるか
といった経営全体への効果も含めて判断するとよいでしょう。
会社負担はいくら増えるのか、先に試算する
人件費について不安を感じる理由の一つは、 「結局いくら増えるのか分からない」 ことです。
分からないままだと、 実際の影響以上に大きな負担に感じてしまうことがあります。
そこで、 給与や働き方を変更する前に、 簡単でもよいので試算をしておくことをおすすめします。
たとえば、 対象となるパート社員ごとに、 次の項目を整理します。
- 現在の時給
- 変更後の時給
- 週の所定労働時間
- 月間の勤務時間
- 現在の月額賃金
- 変更後の月額賃金
- 現在の社会保険加入状況
- 変更後に加入条件へ影響があるか
これを一人ずつ確認すると、 「何となく人件費が大幅に増えそう」 という不安から、 「この人については月にこの程度の影響がありそう」 と具体的に考えられるようになります。
パート本人の手取りにも影響する場合があります
社会保険への加入は、 会社だけの問題ではありません。
従業員本人にも、 保険料の負担が発生します。
そのため、 今まで社会保険に加入していなかったパート社員が加入することになると、 給与の額面が増えたとしても、 本人が 「思っていたより手取りが増えない」 と感じる場合があります。
会社が制度変更をするときには、 給与額だけ伝えるのではなく、 社会保険に加入する可能性がある場合には、 その点も分かりやすく説明することが重要です。
従業員側が制度を理解しないまま変更すると、 「給料が上がったのに手取りが減った」 という誤解につながることもあります。
会社側も従業員側も、 事前に制度を理解したうえで働き方を考えることが大切です。
働く時間を減らせばいい、と安易に考えない
社会保険料の会社負担を避けるために、 「加入対象にならないよう勤務時間を減らしてもらえばいい」 と考える経営者もいるかもしれません。
しかし、 会社側の都合だけで勤務時間を減らすと、 現場の人手不足がさらに深刻になったり、 従業員が退職したりする可能性があります。
また、 本人がより長く働きたいと考えている場合には、 希望する働き方と会社の方針が合わなくなることもあります。
目先の社会保険料だけでなく、 人員配置や採用、 定着まで含めて考えることが重要です。
個人事業主も「自分には関係ない」とは限りません
個人事業主の方の場合、 「法人ではないから社会保険は関係ない」 と思うこともあるかもしれません。
しかし、 個人事業所でも、 業種や常時使用する従業員数などによって、 社会保険の適用事業所になる場合があります。
また、 制度改正によって適用範囲が変わることもあります。
そのため、 従業員を雇用している個人事業主の方も、 自分の事業所がどの制度の対象になっているのかを確認しておくことが大切です。
「法人か個人か」だけで判断せず、 自社の業種、人数、働き方などを確認しましょう。
経営者が今確認しておきたい3つの数字
社会保険について難しい制度をすべて覚える必要はありません。
まずは、 パートやアルバイトごとに、 次の3つを確認してみましょう。
1. 週に何時間働いているか
社会保険の加入を考えるうえで、 労働時間は重要な確認項目です。
契約書上の時間だけでなく、 実際の働き方も含めて確認しておきましょう。
2. 月にいくら給与を支払っているか
現在の給与額だけでなく、 同一労働同一賃金への対応で給与や手当を変更した場合、 どの程度になるのかも確認します。
3. 現在、社会保険に入っているか
「入っていると思っていた」 「対象外だと思っていた」 ではなく、 従業員ごとに現在の加入状況を確認します。
この3つを一覧にするだけでも、 今後確認が必要な従業員が見つけやすくなります。
同一労働同一賃金と社会保険は「一緒に試算する」
制度としては別々ですが、 経営判断をするときには一緒に考える必要があります。
たとえば、 正社員とパートの待遇差を見直した結果、 パート社員の給与を月1万円増やすことになったとします。
その場合、 経営者が確認したいのは、 「給与が年間12万円増える」 ということだけではありません。
社会保険への加入や保険料への影響があれば、 その会社負担も含めて考えます。
一方で、 待遇改善によって退職者が減り、 採用広告費や新人教育の負担を減らせる可能性もあります。
つまり、 「給与はいくら増えるか」ではなく、 「会社全体として人にいくらかかり、 その結果どのような効果があるか」 という視点で考えることが重要です。
まとめ+要約
- 同一労働同一賃金と社会保険は別の制度です。
- 同一労働同一賃金だけを理由に、 社会保険料が自動的に上がるわけではありません。
- ただし、給与や労働時間を見直した結果、 社会保険の加入や保険料に影響する場合があります。
- 短時間労働者への社会保険適用は今後段階的に広がるため、 小規模な会社も将来を見据えた確認が必要です。
- 給与を見直すときは、 時給だけではなく社会保険料を含めた総人件費で考えましょう。
FAQ
Q. パートの時給を上げたら、必ず社会保険に入らなければなりませんか?
時給を上げただけで、 自動的にすべてのパート社員が社会保険に加入するわけではありません。 社会保険の加入は、 労働時間や勤務日数、企業規模などの条件を確認して判断します。 ただし、給与や働き方を変更することで加入条件に影響する場合があるため、 見直しの際にはあわせて確認することが大切です。
Q. 社会保険に加入する人が増えたら、会社の負担も増えますか?
新たに健康保険や厚生年金へ加入する従業員が増えれば、 原則として会社にも保険料負担が発生します。 そのため、 給与制度や働き方を見直す場合は、 給与だけでなく社会保険料を含めた総人件費を事前に試算しておくことをおすすめします。
Q. 小さな会社なら、社会保険の適用拡大は関係ありませんか?
現在は企業規模による条件がありますが、 短時間労働者への社会保険適用については、 今後企業規模要件が段階的に縮小される予定です。 将来的には小規模な会社にも影響する可能性があるため、 今のうちから従業員の労働時間や人件費を整理しておくことが大切です。
Q. 社会保険料を増やしたくないので、パートの勤務時間を減らしても大丈夫ですか?
社会保険料だけを理由に勤務時間を減らすと、 人手不足や従業員の収入減少、 退職につながる可能性があります。 また、契約内容の変更には別の労務上の問題も関係します。 会社側の負担だけでなく、 本人の希望や人員配置なども含めて慎重に判断することが大切です。
📩 「パートの給与を見直したら社会保険料はいくら増えるのか分からない」 「社会保険の適用拡大に自社がどう備えればいいのか整理したい」という方は、 こちらからご相談ください 。
参考資料
-
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html -
厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/ -
厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/tanjikan/ -
日本年金機構「短時間労働者の適用拡大」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
※本記事は、同一労働同一賃金および社会保険制度について、 一般的な理解を深めることを目的とした内容です。 実際の社会保険加入の要否や保険料は、 事業所の種類、従業員数、労働時間、賃金、雇用契約などによって異なります。 給与制度や労働条件の変更を行う場合は、 必要に応じて社会保険労務士、年金事務所、 都道府県労働局などの専門機関へご確認ください。