
サプライチェーンのリスクは小さな会社にも関係する?SCS評価制度に向けて考えたい第一歩
「サプライチェーンのリスク」と聞いて、大きな製造業や海外と取引する会社の話だと思っていませんか。
「うちは少人数で仕事をしている」「商品を作っているわけではない」「ほとんど自分一人で完結している」。そう感じる中小企業の経営者や個人事業主もいるでしょう。
しかし、顧客とメールで連絡し、クラウドに資料を保存し、外部のサービスを使って仕事をしているなら、自社の仕事はすでに社外の仕組みとつながっています。
今回考えたいのは、自社の外で起きた問題が自社に及ぶことと、自社で起きた問題が取引先に及ぶことです。このつながりを理解すると、取引先から情報管理やセキュリティ対策について聞かれる理由も見えてきます。
この記事で考えたいこと
自社は誰と、どの情報やサービスでつながり、そのつながりが止まると何に困るのか。これが、シリーズ初日に経営者として答えたい問いです。
- サプライチェーンは、商品やサービスを届けるための事業者同士のつながりです。
- 小さな会社や個人事業主も、取引先や外部サービスを通じてそのつながりに関わっています。
- 問題は、自社が被害を受けることに加え、取引先へ影響を広げる可能性にもあります。
- SCS評価制度の★3・★4は、2027年3月頃の運用開始が予定されています。
- 最初の行動は、高額な製品の購入より、自社の取引と情報の流れを整理することです。
そもそも、サプライチェーンとは何でしょうか
サプライチェーンとは、商品やサービスが顧客に届くまでの、調達、製造、販売、配送、業務委託などのつながりです。
たとえば飲食店なら、食材の仕入れ先、配送業者、予約サービス、決済サービスなどが仕事を支えています。相談業や制作業なら、顧客、外部の協力者、メール、クラウド、業務システムなどとの関係があります。
工場や物流だけを思い浮かべるより、「自社の仕事を成り立たせる社外とのつながり」として考えると、身近になります。
| 仕事の例 | 社外とのつながり | 止まると困ることの例 |
|---|---|---|
| 店舗・飲食業 | 仕入れ先、配送、予約、決済サービス | 商品を用意できない、注文や代金を受け付けられない |
| 相談業・士業 | 顧客、メール、資料保管サービス、業務システム | 相談資料を確認できない、連絡や手続きが遅れる |
| 制作業・個人事業 | 発注元、協力者、共有フォルダ、制作サービス | 作業を進められない、成果物を納品できない |
この表は、関係を考えるための例です。実際には、自社が何に頼り、誰に何を提供しているかを書き出して確認しましょう。
「うちの会社だけでやっているから関係ない」と言い切れるでしょうか
仕事をする人が一人でも、使う仕組みまで一人で作っているとは限りません。
メール、インターネット回線、会計ソフト、オンライン予約、クラウド保存などを使っていれば、その提供元に依存しています。また、顧客から資料や個人情報を預かっていれば、情報の管理について顧客との関係が生まれます。
まず、次の問いを自社に当てはめてみてください。
- 外部のサービスが使えなくなると、どの仕事が止まるか。
- 取引先から預かっている情報は、どこに保存しているか。
- 自社のアカウントが乗っ取られると、誰に影響するか。
- 顧客と共有しているフォルダやシステムはあるか。
一つでも思い当たるなら、社外とのつながりを通じたリスクを確認する意味があります。従業員数だけで関係の有無は決まりません。
リスクは「外から自社へ」と「自社から取引先へ」の両方にある
外部の問題で、自社の仕事が止まる
仕入れ先や外注先が業務を続けられなくなれば、自社の納品にも影響する可能性があります。利用しているクラウドや業務サービスが停止すれば、資料の確認や顧客対応が難しくなることもあります。
原因はサイバー攻撃だけではありません。災害、事故、設備の故障なども含まれます。サプライチェーン全体のリスクは幅広く、その中でSCS評価制度は主にサイバーセキュリティに関わる対策を扱います。
自社の問題が、取引先に影響する
自社で預かる取引先の情報が漏れたり、業務が止まって納品できなくなったりすれば、取引先にも影響します。自社のメールが不正に使われ、取引先に偽の連絡が届くことも想定しておく必要があります。
取引先が対策を確認するのは、こうした影響を把握したいからです。「自社さえ困らなければよい」という考え方では、説明が足りなくなる場合があります。
新しい圧力は、取引を通じて届くことがある
ここでいう圧力とは、取引先から「情報をどう管理していますか」「問題が起きたら誰に連絡しますか」「必要な対策を説明できますか」と確認されることです。
IPAは、委託元には委託先の対策を把握しにくい課題があり、委託先には異なる要求への対応が負担になる課題があると説明しています。
経営者としては、要求が来るたびに場当たり的に回答するより、自社の現状と、取引に必要な対策を整理することが大切です。確認票に回答できることと、実際に対策ができていることも分けて考えましょう。
一方、取引先が何を求めるかは、扱う情報やサービス、契約内容によって異なります。すべての会社に同じ要求が来ると決めつける必要はありません。
SCS評価制度は、どのような制度でしょうか
SCS評価制度の正式名称は、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」です。取引に関わる事業者の対策状況を共通の基準で確認し、サプライチェーン全体のセキュリティ水準を高めることを目的としています。
制度では、委託元が委託先に適切な評価段階を示し、必要な対策の実施状況を確認する使い方が想定されています。
「始まる」は、開始済みと区別して考える
2026年10月2日時点で確認したIPAの公式FAQでは、★3・★4は2027年3月頃の運用開始予定とされています。★5の開始時期などは検討中とされています。
したがって、「制度が始まるから、すべての事業者が今すぐ同じ評価を取得しなければならない」と理解するのは適切ではありません。自社の取引で求められる段階や対応期限は、取引先と確認する必要があります。
制度の詳細は順次公表されているため、準備や取得を判断する際には、公式情報の更新も確認しましょう。
評価の取得と、日々の対策を分けて考える
評価の取得には、要求事項との照合や評価の手続きが必要です。一方、自社が使う機器やアカウント、保存する情報、障害時の連絡先を把握することは、取得方針を決める前から進められます。
まず現状を整理し、取引上必要な対応と不足している対策を確認してから、時間と費用の見通しを立てましょう。
小さな事業でも、最初にできることがある
私なら、最初に次の三つを整理します。
1.仕事を支える相手とサービスを書き出す
主要な顧客、仕入れ先、外注先、クラウド、メール、業務システムを挙げます。その中で、止まると顧客対応や納品に支障が出るものに印を付けます。
2.預かる情報と保存先を確認する
どの取引先から、どの情報を預かり、どこに保存し、誰が見られるかを確認します。共有フォルダや外部の協力者へのアクセス権も対象です。
3.問題が起きたときの連絡先を決める
サービスの停止や不正アクセスが疑われたとき、誰に相談し、どの取引先へ連絡するかを整理します。経営者自身が対応できない場合の代わりの連絡方法も考えましょう。
これはSCS評価を取得するための項目をすべて示したものではありません。自社のリスクを理解し、必要な対策を選ぶための入口です。
対策は、費用と取引への影響を合わせて考える
情報管理やセキュリティには費用がかかります。製品の料金だけでなく、設定、教育、記録、確認に使う時間も必要です。
一方、仕事が止まった場合には、売上の遅れ、復旧費用、顧客対応の負担などが生じる可能性があります。だからこそ、投資を考えるときは「何を買うか」の前に、何が止まると困り、誰に影響するかを明確にします。
初日の段階では、被害額や投資効果を無理に計算する必要はありません。重要な仕事とつながりが見えれば、次に確認すべき費用や対策も絞りやすくなります。
同業他社との差別化は、説明できる体制から考える
「しっかり管理しています」という言葉だけでは、取引先は実態を判断しにくいものです。情報の管理方法、対応する人、問題が起きたときの連絡方法を具体的に説明できることが、信頼を考えるうえで役立ちます。
ただし、評価を取得すれば必ず受注が増えると断定することはできません。自社の顧客が何を重視し、どのような対策を求めているかを確かめる必要があります。
まず目指したいのは、取引先から聞かれたときに、実施していることと、これから改善することを正確に答えられる状態です。
まとめ
サプライチェーンのリスクは、大企業や製造業だけの話ではありません。顧客、外注先、クラウドなどとつながる小さな事業にも、外部の問題を受ける側と、取引先に影響を与える側の両面があります。
SCS評価制度への準備を考える際も、最初に必要なのは、自社のつながりと重要な情報の把握です。取引先の要求と公式情報を確認し、必要な対策を選んでいきましょう。
今日の一歩は、「止まると困る社外の相手やサービス」を三つ書き出すことです。それぞれについて、何の仕事が止まり、誰に連絡するかまで考えてみてください。
よくある質問
Q.個人事業主でも、サプライチェーンのリスクを考える必要がありますか?
A.はい。人数よりも、顧客の情報を扱うか、外部サービスに依存するか、仕事の停止が取引先へ影響するかが重要です。SCS評価の取得については、取引上の要求や評価範囲を別途確認しましょう。
Q.SCS評価制度は、もう運用を開始していますか?
A.2026年10月2日時点で確認したIPAの公式FAQでは、★3・★4は2027年3月頃の運用開始予定です。制度の情報は更新されるため、判断時には最新の公式情報を確認してください。
Q.すぐにセキュリティ製品を買うべきでしょうか?
A.まず、使うサービス、扱う情報、現在の対策、取引先の要求を整理しましょう。その結果をもとに、不足する対策と製品・サービスの必要性を判断します。
Q.取引先から詳しい確認票が届いたら、どう対応すればよいですか?
A.わからない項目を推測で回答せず、対象となる業務や求める対策を確認します。実施済み、未実施、確認中を分け、不明な技術項目は利用するサービスの提供元や専門家に相談しましょう。
次回は、サプライチェーンのリスクが売上、費用、顧客対応にどう影響するかを整理し、限られた予算で何を優先するかを考えます。
自社と取引先のつながりを整理したい方、SCS評価制度に向けて何から確認すればよいか迷っている方は、お気軽にご相談ください。現在の業務と取引先の要求をもとに、最初の一歩を一緒に考えます。