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同一労働同一賃金、経営者が今やること

同一労働同一賃金、経営者が今やること

同一労働同一賃金に中小企業はどう備えるべきか。 給与を一律に上げるのではなく、 仕事内容と待遇差を整理し、 従業員に説明できる制度へ整えるために、 経営者が今やるべきことをわかりやすくまとめます。

Executive Summary

  • 急いで全員の給与を同じにする必要はありません。
  • 最優先は、待遇差の理由を整理することです。
  • 給与を見直す場合は、社会保険への影響も確認します。
  • 従業員へ説明できる状態をつくることが重要です。
  • まずは現状把握から始めれば大丈夫です。

ここまで4日間、 同一労働同一賃金について、 正社員とパートの待遇差、 社会保険、 会社としての対応方法を見てきました。

最後に、 中小企業の経営者や個人事業主の方が 「結局、今何をすればいいのか」 を整理します。

同一労働同一賃金という言葉を聞くと、 どうしても 「人件費が上がる」 「給与制度を全部変えなければならない」 「パートも正社員と同じ給料にしなければならない」 と考えてしまいがちです。

しかし、 同一労働同一賃金は、 すべての従業員の給与を一律に同じにする制度ではありません。

経営者がまず取り組むべきなのは、 「なぜこの人にはこの待遇なのか」 を会社として説明できるようにすることです。

そのためには、 給与額だけを見るのではなく、 仕事内容、責任、働き方、手当、賞与、福利厚生などを整理し、 一つずつ確認していく必要があります。

5日間で一番伝えたいこと

このシリーズを通して一番お伝えしたいことは、 とてもシンプルです。

同一労働同一賃金を、 「給与を上げなければならない制度」 だけで終わらせないことです。

本当に大切なのは、 会社の中で 「仕事と待遇の関係」 を整理することです。

たとえば、 正社員の給与が高いのであれば、 なぜ高いのか。

パートには支給していない手当があるのであれば、 なぜ支給していないのか。

賞与を正社員だけに支給しているのであれば、 その賞与は何を目的に支給しているのか。

こうしたことを一つずつ説明できるようにすることが重要です。

一番危ないのは「理由が分からない待遇」です

中小企業では、 長く続いてきた給与制度がそのまま残っていることがあります。

たとえば、

  • 正社員には手当がある
  • パートには賞与がない
  • 契約社員だけ利用できない福利厚生がある
  • 正社員だけ特定の研修を受けられる
  • 昔からこの給与体系なので変更していない

もちろん、 こうした違いがすべて問題になるということではありません。

大切なのは、 その違いに理由があるかどうかです。

たとえば役職手当であれば、 店舗や部署の管理責任を負っている人だけに支給する という説明ができるかもしれません。

一方で、 「パートだから支給していない」 「昔からそうしている」 という説明しかできない場合は、 一度見直した方がよい可能性があります。

放置すると何が起こる?

「これまで特に問題が起きていないから、 このままでも大丈夫だろう」 と考える経営者もいるかもしれません。

しかし、 会社の中で待遇の基準が整理されていない状態には、 いくつかのリスクがあります。

1. 従業員から説明を求められたときに困る

パートや有期雇用労働者から、 正社員との待遇差について質問されることがあります。

そのときに、 「会社の決まりだから」 「正社員だから」 としか答えられないと、 従業員の納得を得にくくなります。

2. 不満がたまりやすくなる

従業員が、 「同じ仕事をしているのに、なぜ自分だけ違うのか」 と感じると、 不満につながることがあります。

その不満が、 退職や採用難につながる可能性もあります。

3. 給与制度そのものが分からなくなる

社長や昔からいる担当者しか、 給与の決め方を知らない状態も危険です。

担当者が退職したり、 会社の世代交代が起きたりしたときに、 なぜその給与になっているのか分からなくなることがあります。

見直しは「会社を整理する機会」にできます

同一労働同一賃金への対応は、 会社にとって負担だけではありません。

仕事内容や待遇を整理することで、 経営上のメリットが生まれる可能性もあります。

たとえば、 給与制度を整理すると、

  • 誰がどの仕事を担当するのか
  • どこまで責任を持つのか
  • 何をできるようになれば昇給するのか
  • どの役割になれば手当がつくのか
  • 正社員になると何が変わるのか

といったことを説明しやすくなります。

すると、 採用時にも仕事内容や待遇を伝えやすくなります。

今働いている従業員にも、 「何を頑張れば次の評価につながるのか」 を示しやすくなります。

つまり、 同一労働同一賃金への対応を、 会社の仕事と給与の関係を整理する機会にする ことができます。

経営者が今やるべきこと1 待遇を一覧にする

最初の一歩は、 これまでの記事でもお伝えしたとおり、 待遇の一覧化です。

正社員、契約社員、パート、アルバイトなどについて、 次の項目を横に並べます。

  • 基本給
  • 時給
  • 賞与
  • 昇給
  • 通勤手当
  • 役職手当
  • 皆勤手当
  • 資格手当
  • その他の各種手当
  • 休暇制度
  • 福利厚生
  • 研修や教育制度

この段階では、 問題かどうかを判断する必要はありません。

まず、 「どこに差があるのか」 を見えるようにします。

経営者が今やるべきこと2 仕事と責任を整理する

次に、 正社員とパートなどが、 実際にどのような仕事をしているのかを確認します。

契約書だけではなく、 現場の実態を見ることが重要です。

たとえば、 パートとして採用した人が、 長年働くうちに、

  • 新人教育をしている
  • 売上管理をしている
  • クレーム対応をしている
  • シフトを調整している
  • 責任者不在時の判断をしている

ということもあります。

会社が考えている役割と、 実際の仕事が一致しているか確認しましょう。

経営者が今やるべきこと3 「なぜ違う?」を書く

待遇と仕事内容を整理したら、 待遇差ごとに理由を書きます。

たとえば、

待遇 正社員 パート なぜ違う?
役職手当 あり なし 店舗管理責任を持つ役職者へ支給
賞与 あり なし 賞与の目的と貢献との関係を再確認
通勤手当 あり なし 理由を再確認
研修 あり 一部なし 業務上必要な研修か確認

書いてみると、 説明できる項目と、 説明しにくい項目が見えてきます。

説明しにくい項目が、 次に確認すべきポイントです。

経営者が今やるべきこと4 社会保険も一緒に確認する

給与や働き方を見直す場合は、 社会保険についても確認しておきましょう。

同一労働同一賃金と社会保険は別制度ですが、 給与や労働時間の変更によって、 社会保険の加入条件や保険料に影響する場合があります。

そのため、 パートやアルバイトごとに、 次の項目も確認します。

  • 週の所定労働時間
  • 月額賃金
  • 現在の社会保険加入状況
  • 給与変更後の加入条件への影響
  • 会社負担の社会保険料
  • 年間の総人件費

給与だけを変更してから、 「社会保険まで考えていなかった」 とならないように、 事前に試算することが大切です。

経営者が今やるべきこと5 従業員への説明を準備する

制度を整理したら、 従業員へ説明できる状態にします。

難しい言葉を使う必要はありません。

たとえば、

「この手当は、 店舗全体の責任を持つ人に支給しています」

「この仕事まで担当できるようになると、 次の時給区分になります」

「この賞与は、 業績や評価に応じて支給しています」

といった形で、 従業員にも分かる言葉にしておきます。

経営者だけが分かっている制度ではなく、 従業員にも説明できる制度にする ことが大切です。

2026年10月を一つの点検時期にする

同一労働同一賃金については、 中小企業にもすでに適用されています。

そのうえで、 2026年10月1日からは、 改正された同一労働同一賃金ガイドライン等が適用されます。

そのため、 これまで一度確認した会社も、 「以前見たから大丈夫」 で終わらせず、 改めて点検する機会にするとよいでしょう。

とくに、 基本給だけではなく、 賞与、手当、福利厚生、教育訓練などについても確認しておくことが大切です。

90日で進めるなら、この流れです

会社の制度を一度に全部見直す必要はありません。

3か月程度で進めるのであれば、 次の流れが分かりやすいでしょう。

1か月目 現状を把握する

  • 雇用区分を整理する
  • 給与・賞与・手当を一覧にする
  • 福利厚生や研修も確認する
  • 実際の仕事内容を確認する

2か月目 待遇差の理由を整理する

  • 正社員とパートの仕事を比較する
  • 責任の違いを確認する
  • 待遇差の理由を書く
  • 説明しにくい項目を洗い出す

3か月目 必要なところから見直す

  • 優先順位を決める
  • 給与・手当などの必要な見直しを検討する
  • 社会保険への影響を試算する
  • 就業規則や賃金規程を確認する
  • 従業員への説明方法を準備する

この順番で進めれば、 いきなり給与制度全体を作り直すよりも、 現実的に対応しやすくなります。

Decision Brief 経営者向け意思決定まとめ

テーマ

同一労働同一賃金への社内対応

推奨アクション

正社員とパート・有期雇用労働者などについて、 仕事内容、責任、待遇を一覧化し、 待遇差の理由を説明できる状態にします。

主要な確認ポイント

  1. 正社員とパートなどの間に、 どのような待遇差があるか。
  2. 仕事内容や責任などを踏まえて、 その違いを説明できるか。
  3. 給与を見直す場合、 社会保険や総人件費にどの程度影響するか。

財務面

給与の増加額だけではなく、 社会保険料の事業主負担、 採用費、 教育費、 離職によるコストなども含めて考えます。

主なリスク

  • 待遇差の理由を説明できない
  • 契約上の仕事内容と現場の実態が違う
  • 正社員とパートの責任が実質的にほぼ同じになっている
  • 給与変更による社会保険への影響を見落とす
  • 就業規則と実際の運用が一致していない

最初の90日

1か月目は待遇と仕事内容の棚卸し、 2か月目は待遇差の理由確認、 3か月目は必要な制度や説明方法の見直しを行います。

確認する指標

  • 理由を説明できない待遇差はいくつあるか
  • 規程と実際の運用に不一致がないか
  • 従業員から待遇に関する質問がどの程度あるか
  • 給与見直しによる年間人件費への影響はいくらか
  • 採用や離職に変化があるか

「人件費が増えるから何もしない」が一番よいとは限りません

中小企業にとって、 人件費は大きな経営課題です。

そのため、 「制度を見直したら人件費が増えるかもしれない」 と考えて、 何もしないという判断をしたくなることもあるでしょう。

しかし、 待遇が分かりにくい状態を放置すると、 別のコストが発生することがあります。

  • 従業員が辞める
  • 採用が難しくなる
  • 新人教育を何度も行う
  • 従業員の不満が増える
  • 管理職の負担が増える

もちろん、 待遇を改善すれば必ずこれらが解決するということではありません。

ただし、 人件費を見るときは、 給与だけでなく採用・定着・教育なども含めて考える ことが経営上重要です。

「小さい会社だからできない」と考えなくて大丈夫です

大企業のような、 複雑な人事制度や評価制度を作る必要はありません。

従業員10人の会社であれば、 10人分の仕事内容と待遇を整理するところから始められます。

5人の事業所であれば、 5人の働き方を確認すればよいのです。

むしろ小規模な会社は、 経営者が現場の仕事を把握していることが多いため、 整理を始めやすい面もあります。

最初から完璧な制度を目指すのではなく、 今より少し説明しやすい会社にする ところから始めてください。

迷ったら一人で判断しない

実際に待遇を確認していくと、 「この差は大丈夫なのか」 と判断に迷う場面が出てくるでしょう。

その場合、 経営者だけで無理に結論を出す必要はありません。

厚生労働省では、 同一労働同一賃金に関する情報や、 中小企業向けの相談先などを案内しています。

また、 就業規則や給与制度、 個別の労働条件を変更する場合には、 社会保険労務士などの専門家へ確認する方法もあります。

とくに、 従業員の給与や手当を減らすなど、 不利益になる変更を検討する場合は、 安易に変更せず慎重に確認することが重要です。

5日間の結論 目指すのは「説明できる会社」です

同一労働同一賃金への対応で、 最終的に目指したい状態は、 とても分かりやすいものです。

従業員から、

「なぜ私はこの時給なんですか?」

「なぜ正社員にはこの手当があるのですか?」

「何ができるようになれば給与が上がるんですか?」

と聞かれたときに、 会社として説明できることです。

そのためには、 給与だけを見るのではなく、

  • 仕事
  • 責任
  • 待遇
  • 評価
  • 社会保険

を一緒に整理していく必要があります。

同一労働同一賃金への対応は、 「いくら払えばいいのか」から始めるのではなく、 「なぜこの待遇なのか」を整理するところから始める。

これが、 中小企業や個人事業主にとって、 最も取り組みやすい第一歩です。

まとめ+要約

  • 同一労働同一賃金は、 正社員とパートなどの給与をすべて同額にする制度ではありません。
  • まず確認するのは、 仕事内容や責任を踏まえて待遇差を説明できるかどうかです。
  • 基本給だけではなく、 賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練なども確認します。
  • 給与や労働時間を変更する場合は、 社会保険への影響や総人件費も一緒に確認します。
  • 2026年10月の改正を一つのきっかけに、 従業員へ説明できる給与・待遇制度へ整理していきましょう。

次の一手: 給与を変更する前に、 正社員とパートなどについて 「仕事・責任・待遇」の3つを横に並べ、 違いがある項目に 「なぜ違うのか」を書いてみましょう。

FAQ

Q. 今まで同一労働同一賃金について何も対応していません。もう遅いですか?

今からでも、 まず自社の現状を確認することが大切です。 正社員とパート・有期雇用労働者などの待遇を一覧にし、 実際の仕事内容や責任と照らして、 待遇差を説明できるか確認してください。 問題が見つかった場合は、 優先順位をつけて必要な対応を検討します。

Q. 人件費が増えるのが怖いのですが、何から始めればいいですか?

いきなり給与を上げることから始める必要はありません。 まず、 現在どのような待遇差があり、 なぜ違うのかを整理してください。 そのうえで見直しが必要な項目を特定し、 給与だけでなく社会保険料を含めた総人件費を試算すると、 経営への影響を具体的に判断しやすくなります。

Q. 正社員とパートの待遇差が問題ないか、自社だけでは判断できません。

待遇差が適切かどうかは、 仕事内容、責任、配置変更の範囲、 給与制度、就業規則などによって判断が異なります。 厚生労働省が案内する相談窓口を利用したり、 個別事情については社会保険労務士などの専門家へ相談したりする方法があります。

Q. 2026年10月までに、会社として最低限やっておくことは何ですか?

まず、 正社員とパート・有期雇用労働者などについて、 基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などの待遇を一覧にしてください。 次に、 実際の仕事内容や責任との違いを確認し、 待遇差について会社として説明できるかを確認します。 改正された同一労働同一賃金ガイドライン等も確認しながら、 必要な項目から見直していくことが大切です。

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参考資料

※本記事は、 同一労働同一賃金および関連する社会保険制度について、 一般的な理解を深めることを目的とした内容です。 実際に待遇差が適切かどうか、 社会保険の加入が必要かどうか、 労働条件の変更が可能かどうかは、 仕事内容、責任、配置変更の範囲、 雇用契約、就業規則、賃金規程、 事業所の規模や従業員の働き方などによって異なります。 個別の制度変更や判断を行う場合は、 必要に応じて社会保険労務士、 都道府県労働局、 年金事務所などの専門家・専門機関へご確認ください。

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