
BCP・ジギョケイは「作って終わり」になっていませんか
Executive Summary
- BCPは「作ったこと」より「動けること」が重要です。
- 会社が変われば、必要な災害対策も変わります。
- 担当者・連絡先・設備・取引先は定期的に確認します。
- 訓練すると、計画書だけでは見えない問題がわかります。
- 代わりの人・場所・手段を決めておくことが事業継続につながります。
Day1では「備えているつもり」になっていないかを考え、Day2では「人・場所・情報・モノ・仕事」という5つの視点から、自宅や会社の備えを整理しました。
Day3では、企業や個人事業主の方に、もう一歩踏み込んで考えていただきたいことがあります。
それが、
「BCPや事業継続力強化計画は、本当に今の会社で使える状態になっているか」
ということです。
BCPを作った。
事業継続力強化計画の認定を受けた。
防災マニュアルもある。
それ自体は、とても大切な取り組みです。
しかし、災害は「計画を作った当時の会社」に起きるとは限りません。
従業員が変わっているかもしれません。
取引先が変わっているかもしれません。
新しい店舗や設備が増えているかもしれません。
クラウドサービスや新しいシステムを導入しているかもしれません。
だからこそBCPやジギョケイは、
「一度作成して保管する書類」ではなく、 「会社と一緒に更新していく仕組み」
と考えることが大切です。
今回は、難しい専門用語をできるだけ使わず、
「本当に災害時に使える計画になっているか」
を確認する方法を考えていきます。
目次
1.BCPは「計画書を作ること」が目的ではない
まず、BCPについて簡単に確認しておきましょう。
BCPは、
Business Continuity Plan
の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。
大きな地震、豪雨、台風などによって会社が被害を受けたときでも、
大切な仕事をできるだけ止めない。
あるいは、止まったとしても、できるだけ早く再開する。
そのために、あらかじめ考えておく計画です。
内閣府もBCPについて、自然災害だけではなく、感染症、サイバー攻撃、サプライチェーンの途絶などを含む不測の事態が起きても、重要な業務を中断させない、または可能な限り短い時間で復旧させるための方針や体制、手順を示した計画としています。
ここで重要なのは、
「計画を作成すること」がゴールではない
ということです。
たとえば、分厚いBCPのファイルが棚に置かれていたとします。
ところが、地震が起きた瞬間に、
「このファイル、どこにあった?」
「誰が責任者だった?」
「連絡網はどこ?」
「担当者は今日休みです」
という状態になってしまえば、せっかく作った計画も十分には役立ちません。
BCPで本当に必要なのは、
「紙の上で完成していること」ではなく、 「人が実際に動けること」
です。
これは事業継続力強化計画、いわゆるジギョケイでも同じです。
計画を作ったこと自体はスタート地点です。
そこから実際の会社の動きに合わせて見直し、確認し、練習していくことが重要になります。
2.その計画、今の会社に合っていますか
BCPやジギョケイをすでに作っている企業の方に、まず確認していただきたいことがあります。
それは、
「最後に内容を見直したのはいつですか?」
という質問です。
もし、
「いつだったかな」
「認定を取ったとき以来かもしれない」
という場合は、一度確認してみる価値があります。
なぜなら会社は常に変わっているからです。
たとえば、
- 従業員が入社・退職した
- 役職や担当者が変わった
- 店舗や事務所を移転した
- 新しい倉庫を使い始めた
- 主要取引先が変わった
- 仕入先が変わった
- 新しい機械を導入した
- クラウドサービスを使うようになった
- テレワークが増えた
- 連絡手段が変わった
こうした変化があれば、災害時の対応も変わります。
特に確認したいのが、
- 緊急連絡先
- 責任者
- 責任者の代わりになる人
- 従業員の連絡方法
- 取引先や仕入先の連絡先
- 重要設備
- 重要データの保管場所
- 代替となる仕事の場所
です。
たとえば連絡網に、すでに退職した従業員の名前が残っていたらどうでしょうか。
災害時に連絡して初めて気づくことになります。
重要な仕入先が変わっているのに、昔の会社だけが記載されていたらどうでしょうか。
復旧を急ぎたいときに、必要な連絡ができません。
こうした問題は、平常時なら簡単に修正できます。
しかし災害が起きてからでは、一つ一つの確認に時間がかかります。
だからこそ、
「何か会社が変わったらBCPも確認する」
という習慣を作っておくとよいでしょう。
3.「社長がいない」状態を一度考えてみる
中小企業で特に考えていただきたいのが、
「災害が起きたとき、社長がその場にいなかったらどうするか」
ということです。
中小企業では、社長が多くの判断をしていることがあります。
取引先への対応。
従業員への指示。
営業を続けるかどうか。
店舗を閉めるかどうか。
支払いをどうするか。
仕入れをどうするか。
普段は、それで問題なく仕事が進んでいるかもしれません。
しかし大規模災害では、
社長自身が被災する可能性があります。
道路が通れず会社へ来られない可能性もあります。
電話やインターネットが使えず、連絡が取れない可能性もあります。
そのとき、
「社長に聞かないと何も決められない」
という状態になると、従業員の安全確保も事業の復旧も遅れる可能性があります。
そこで、あらかじめ考えておきたいのが、
- 社長が不在なら誰が判断するか
- どこまでその人が決めてよいか
- 避難は誰が指示するか
- 休業は誰が判断するか
- 顧客や取引先へ誰が連絡するか
- 支払いなど重要なお金の手続きはどうするか
ということです。
これは「社長の権限を減らす」という話ではありません。
むしろ、
「社長がいなくても会社を守れる時間を作る」
ための準備です。
小さな会社ほど、特定の一人に仕事や判断が集中していることがあります。
だからこそ、
「もしこの人がいなかったら?」
という質問は、とても重要です。
4.訓練すると「書類では見えなかった穴」が見える
BCPを作ったら、一度は実際に試してみることが大切です。
といっても、大掛かりな防災訓練をしなければならないわけではありません。
たとえば、
「今、大きな地震が発生したと仮定したら、最初の30分に何をしますか?」
と従業員同士で話してみるだけでも構いません。
すると、さまざまな疑問が出てきます。
「安否確認は誰がする?」
「連絡先はどこにある?」
「この建物から出たほうがいいの?」
「避難場所はどこ?」
「お客様が店内にいたら?」
「店長が休みだったら?」
「パソコンが使えなかったら?」
こうした疑問こそが、
「計画書だけでは気づかなかった穴」
です。
そして、その穴は災害が起きる前に見つかったほうがよいのです。
たとえば安否確認の訓練をしてみたところ、
全員に連絡したつもりなのに、一人だけ連絡先が古かった。
グループチャットに入っていない人がいた。
夜間や休日の連絡方法が決まっていなかった。
ということが見つかるかもしれません。
避難訓練をしてみたら、
非常口の前に荷物が置かれていた。
新しく入った従業員が避難場所を知らなかった。
ということに気づくかもしれません。
それなら、その場で直すことができます。
訓練は、
「できることを確認する場」だけではなく、 「できないことを見つける場」
と考えると取り組みやすくなります。
失敗しても構いません。
むしろ、平常時の訓練で失敗しておくことに意味があります。
5.代わりの人・場所・手段を決めておく
BCPを実際に使えるものにするために、もう一つ大切な考え方があります。
それが、
「もし使えなくなったら、代わりをどうするか」
という考え方です。
たとえば、
社長がいない。
事務所が使えない。
パソコンが壊れた。
電話が使えない。
仕入先から商品が届かない。
主要な担当者が出勤できない。
こうしたことが同時に起きる可能性もあります。
そこで、
- 社長の代わりになる人
- 担当者の代わりになる人
- 事務所の代わりになる場所
- 電話以外の連絡方法
- 主要仕入先が止まった場合の別の仕入先
- パソコンが使えない場合のデータ確認方法
を少しずつ考えておきます。
たとえば事務所が使えなくなっても、一部の業務を自宅から行えるようにする。
社内サーバーだけではなく、適切な管理のもとで別の場所にも重要データを保存する。
一つの仕入先だけに頼らず、緊急時に相談できる別の取引先を確認しておく。
経理担当者だけが支払い方法を知っている状態なら、必要な範囲で別の担当者にも手順を共有しておく。
こうした一つ一つが、事業を止まりにくくします。
内閣府も、事業継続の典型的な取り組みとして、バックアップシステムや代替オフィスの確保、必要な人員の確保、迅速な安否確認などを挙げています。
大切なのは、
「絶対に被害を受けない会社」を目指すことではありません。
それは現実的ではありません。
そうではなく、
「一つが使えなくなっても、次の方法に切り替えられる会社」
を目指すことです。
それが、BCPやジギョケイを実際に機能させる大切な考え方です。
今あるBCP・ジギョケイを5つの質問で確認してみましょう
すでにBCPやジギョケイがある企業は、まず次の5つだけ確認してみてください。
1.人は合っていますか?
- 責任者は現在も同じですか
- 退職した人の名前が残っていませんか
- 社長や責任者が不在の場合の代理者は決まっていますか
2.連絡先は合っていますか?
- 従業員の連絡先は最新ですか
- 取引先や仕入先の情報は最新ですか
- スマートフォン以外にも確認方法がありますか
3.場所は変わっていませんか?
- 店舗や事務所の移転を反映していますか
- 避難場所は現在も同じですか
- 事務所が使えない場合の代替場所はありますか
4.仕事の内容は変わっていませんか?
- 現在もっとも重要な業務が記載されていますか
- 新しいシステムや設備を反映していますか
- 重要データの保管場所は最新ですか
5.最近、一度でも試しましたか?
- 安否確認を実際に試しましたか
- 避難場所を従業員が知っていますか
- 社長不在を想定した確認をしたことがありますか
すべて完璧である必要はありません。
一つでも、
「これは古いかもしれない」
と気づけば、そこから直せばよいのです。
個人事業主だからこそ確認してほしいこと
「うちは従業員がいないから、BCPは関係ない」
そう思う個人事業主の方もいるかもしれません。
しかし、一人で仕事をしているからこそ、
「自分が動けなくなったらどうなるか」
を考えておくことには意味があります。
たとえば、
- 顧客への連絡先
- 進行中の仕事
- 請求予定
- 支払い予定
- 重要なデータ
- 契約情報
- 仕事で使うパスワード等の管理方法
などが、自分にしか分からない状態になっていないでしょうか。
もちろん、機密情報やパスワードを不用意に共有するという意味ではありません。
適切に管理したうえで、
「もし自分が数日間仕事をできなかったら、最低限何を止めずに済むようにするか」
を考えておくということです。
個人事業主にとっては、自分自身が重要な経営資源です。
だからこそ、自分が動けない場合まで考えることが事業継続につながります。
まとめ+要約
今回、覚えておきたいのは次の5点です。
- BCPやジギョケイは、作成すること自体が目的ではありません。
- 人、連絡先、設備、取引先などが変われば、計画も見直す必要があります。
- 「社長や担当者がいない場合」を考えておくことが重要です。
- 簡単な訓練でも、計画書だけでは気づかなかった問題を発見できます。
- 人・場所・設備・連絡手段などに「代わり」を用意すると事業は止まりにくくなります。
次の一手:今あるBCPやジギョケイを開いて、「人・連絡先・場所」の3つだけ、現在と合っているか確認してみてください。
もしBCPそのものがまだない場合は、
「社長が明日会社に来られなかったら、誰が何をするか」
だけでも考えてみてください。
そこから事業継続の準備は始められます。
FAQ
Q1.BCPはどれくらいの頻度で見直せばよいのでしょうか?
会社の規模や状況によって異なるため、一律に決める必要はありません。
ただし、定期的な確認に加えて、
- 従業員の入退社
- 担当者の変更
- 事務所や店舗の移転
- 重要設備の変更
- 主要取引先や仕入先の変更
- 新しいシステムの導入
などがあったときには、BCPへの影響がないか確認する方法があります。
「年に一度だけ確認する」と決めるよりも、
「会社に大きな変化があったら確認する」
という考え方も大切です。
Q2.防災訓練を行う時間がなかなか取れません。
最初から大掛かりな訓練をする必要はありません。
たとえば朝礼や会議の10分程度を使って、
「今、大きな地震が起きたらどうする?」
と話し合うだけでも気づきがあります。
ほかにも、
- 全員へ安否確認のメッセージを送ってみる
- 避難場所を口頭で答えてもらう
- 非常口まで実際に歩いてみる
- 社長不在を想定して担当者を確認する
といった小さな訓練から始めることができます。
大切なのは規模ではなく、
「計画どおりに本当に動けるか確認すること」
です。
Q3.事業継続力強化計画の認定を取っている場合でも見直しは必要ですか?
認定を受けた計画があっても、その後に会社の状況が変化することがあります。
従業員、担当者、設備、取引先、事業内容、連絡方法などが変われば、災害時に必要となる対応も変わる可能性があります。
そのため、
「認定済みだから安心」
と考えるのではなく、
「今の会社でも、この計画どおりに動けるか」
という視点で確認することが重要です。
認定を受けることをゴールにするのではなく、日々の防災や事業継続の取り組みに生かしていくことが大切です。
出典・参考情報
-
内閣府「令和8年版 防災白書 特集 第3章 第3節 3-1 事業継続の取組の必要性」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r08/honbun/t1_3s_03_01.html -
内閣府「令和8年版 防災白書 第1部 第1章 第1節 1-9 事業継続体制の構築」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r08/honbun/1b_1s_01_09.html -
内閣府「企業防災のページ」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/ -
内閣府「事業継続 初めての方へ」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/hajimete.html -
中小企業庁「事業継続力強化計画」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html
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災害が起きたときに、
「誰が、何を、どうするのか」
が分かり、実際に動けることが大切です。
今ある計画を一から作り直す必要があるとは限りません。
まずは現在の内容を確認し、古くなっているところや不足しているところから一つずつ整えていきましょう。