
BCPがある会社のメリット|従業員・取引先・資金を守る備え
Executive Summary
- BCPは人命と事業の両方を守ります。
- 災害直後の判断が早くなります。
- 取引先への説明もしやすくなります。
- 必要資金を事前に考えられます。
- 平常時の経営課題も見えやすくなります。
はじめに
BCPを作っても、地震そのものを止めることはできません。 それでも、発生後の混乱や事業への影響を小さくすることはできます。 本稿では、BCPによって得られる効果を、 人、仕事、取引、資金、経営の五つに分けて説明します。 作成しただけで自動的に効果が出るものではありませんが、 訓練と見直しを続ければ、災害時の対応力だけでなく、 平常時の経営力も高められます。
1.従業員の安全を守りやすくなる
災害直後は、情報が不足します。
会社の建物が安全なのか、 道路や公共交通機関が使えるのか、 電気や通信が復旧しているのか、 すぐにはわからないことがあります。
何も決めていない会社では、 従業員が次のような判断に迷います。
- 会社へ向かうべきか
- 自宅で待機すべきか
- 顧客対応を優先すべきか
- 家族の安全を優先してよいか
- 上司と連絡が取れない場合にどうするか
この迷いがあると、 従業員が危険な状況の中で無理に出勤したり、 安全が確認されていない建物へ戻ったりする可能性があります。
BCPで、 「まず自分と家族の安全を確保する」 「一定の被害がある場合は無理に出勤しない」 「会社から連絡がない場合は自宅で待機する」 といった方針を決めておけば、 従業員は判断しやすくなります。
また、安否確認の方法を決めておけば、 会社側も従業員の状況を早く把握できます。
例えば、次の内容を事前に整理します。
- 最初に使う安否確認の方法
- 連絡がつかない場合の第二の方法
- 安否情報を集める担当者
- 確認結果を経営者へ報告する方法
- 出勤を停止する条件
BCPの第一のメリットは、 事業を続けることよりも先に、 人命を守る判断を会社全体で共有できることです。
従業員の安全が確認できなければ、 事業の再開を進めることもできません。
そのため、人の安全はBCPの出発点になります。
2.重要業務の再開が早くなる
災害後は、人員、設備、通信、材料、 移動手段などが不足する可能性があります。
その状態で、普段と同じ仕事を すべて同時に行おうとすると、 現場が混乱します。
例えば、従業員の半分しか出勤できないのに、 通常どおりの受注、製造、出荷、請求、 顧客対応を行おうとすれば、 どの仕事も中途半端になる可能性があります。
BCPでは、 災害後に優先して再開する仕事を事前に決めます。
重要業務を決めておけば、 次の判断がしやすくなります。
- 限られた人員をどこに配置するか
- どの顧客から先に連絡するか
- どの設備を優先して復旧するか
- どの仕事を一時的に止めるか
- 外部へ依頼できる仕事は何か
重要業務は、売上が大きい仕事だけとは限りません。
顧客の安全や生活に関わる仕事、 取引先の生産を止めてしまう仕事、 法律や契約上、早い対応が必要な仕事なども含まれます。
例えば、次のような視点で考えます。
- 停止すると顧客への影響が大きいか
- 停止すると損害や違約につながるか
- 再開が遅れると顧客が離れる可能性があるか
- 地域や社会に必要なサービスか
- 会社の資金繰りに大きく影響するか
BCPは「すべてを守る計画」ではありません。
災害によって使える経営資源が減ったときに、 限られた力を重要な場所へ集中させる計画です。
何を後回しにするかを決めることも、 事業を早く再開するためには必要です。
3.取引先からの信用を守れる
災害時に取引先が知りたいのは、 完璧な復旧予定ではありません。
大きな災害の直後に、 すべての状況や再開日を正確に説明することは困難です。
それでも、最低限の情報を早く伝えることはできます。
取引先が最初に知りたいのは、 主に次のような情報です。
- 会社と従業員の被害状況
- 商品やサービスを提供できるか
- 現在確認できている範囲
- 次の連絡をいつ行うか
- 代替方法や代替商品があるか
事前に連絡担当者や連絡文のひな形を決めておくと、 取引先への説明が早くなります。
例えば、災害直後の最初の連絡では、 次のように伝えます。
現在、従業員と設備の状況を確認しています。 本日時点では通常どおりの納品が難しい可能性があります。 詳しい状況は、明日の正午までに改めてご連絡します。
このように、確定していることと、 まだ確認中のことを分けて伝えることが大切です。
わからないことを無理に断定すると、 後から説明が変わり、信用を損なう可能性があります。
一方で、何も連絡しない状態が続けば、 取引先は別の仕入先や事業者を探し始めるかもしれません。
すぐに復旧できなくても、 状況を説明し、次の連絡時刻を示すことで、 取引先の不安を減らせます。
また、平常時にBCPへの取り組みを説明できれば、 取引先から 「災害時にも事業を続ける準備をしている会社」 と評価される可能性があります。
ただし、BCPがあるだけで、 取引先からの信用が自動的に高まるわけではありません。
計画を社員が理解し、 訓練や更新を続け、 実行できる状態にしておく必要があります。
4.資金不足を予測できる
大地震が発生すると、 売上が減少したり、 入金が遅れたりする可能性があります。
一方で、事業を停止している間も、 多くの支払いは続きます。
例えば、次のような支出です。
- 従業員の給与
- 事務所や店舗の家賃
- 借入金の返済
- 設備や車両のリース料
- 仕入代金
- 建物や設備の復旧費
- 代替拠点の使用料
- 臨時の設備や通信手段の費用
事業を再開するためには、 被害を直す費用だけでなく、 売上が戻るまで会社を維持する資金も必要です。
BCPを考える過程では、 次のような質問を確認します。
- 売上が一か月止まった場合、資金は足りるか
- 二か月止まった場合はどうか
- 復旧に必要な費用はいくらか
- 保険でどこまで補えるか
- 保険金が入るまでの資金をどうするか
- 緊急時に利用できる融資や支援制度はあるか
資金面の確認を行うときは、 売上が止まる期間を一つに決めず、 複数の状況を考えることが重要です。
例えば、次の三つに分けます。
- 一週間で一部再開できる場合
- 一か月間、売上が大きく減る場合
- 三か月以上、本格復旧できない場合
それぞれの状況で、 必要な現金、削減できる支出、 支払いの相談先などを整理します。
また、保険に加入していても、 すべての損失が補償されるとは限りません。
対象となる災害、設備、休業損失、 免責金額、支払条件などを確認しておく必要があります。
BCPを考えることで、 災害時の資金不足を事前に想像し、 必要な準備や相談先を整理できます。
中小企業庁では、 事業継続力強化計画の策定支援として、 災害時に必要となる資金を検討するための情報や 支援ツールを案内しています。
参考: 中小企業庁「事業継続力強化計画」
5.平常時の経営改善につながる
BCPを作ると、 災害時だけでなく、 平常時の経営上の弱点も見えてきます。
例えば、次のような問題です。
- 特定の社員しかできない仕事がある
- 仕入先が一社に集中している
- 顧客情報が一台のパソコンにしかない
- 社長しか重要な判断ができない
- 重要なデータの復元方法がわからない
- 業務手順が担当者の頭の中にしかない
- 主要顧客への連絡先が整理されていない
これらは、地震が起きたときだけの問題ではありません。
従業員の退職や病気、 システム障害、 取引先の倒産、 機械の故障などでも、 事業に大きな影響を与える可能性があります。
例えば、一人の担当者しか操作できない機械がある場合、 その担当者が出勤できなければ、 機械に被害がなくても業務は止まります。
顧客情報を一台のパソコンだけに保存している場合、 そのパソコンが故障すれば、 顧客へ連絡することも難しくなります。
BCPを作る過程で、 重要な業務に必要な人、設備、情報、 仕入先などを整理すると、 自社が何に強く依存しているのかがわかります。
依存しているものがわかれば、 次のような改善を進められます。
- 複数の社員が重要業務を担当できるようにする
- 業務手順を簡単な文書にする
- 仕入先を複数確保する
- データを別の場所にも保存する
- 社長以外にも判断権限を与える
- 重要な連絡先を共有する
このような改善は、 災害対策だけでなく、 業務の効率化、人材育成、 引き継ぎのしやすさにもつながります。
BCPづくりは、 自社の弱点を見つけるための経営点検でもあります。
まとめ+要約
- 従業員が危険な行動を取る可能性を下げられます。
- 限られた人員や設備を重要業務へ集中できます。
- 取引先への説明と連絡が早くなります。
- 売上停止時の資金不足を事前に考えられます。
- 属人化や仕入先の集中など、平常時の弱点も見つかります。
BCPのメリットは、 災害が起きたときだけに現れるものではありません。
計画を作る過程で、 誰が重要な仕事を担っているのか、 どの設備や情報が欠かせないのか、 どの取引先に依存しているのかが明らかになります。
その結果、 人材の属人化、データ管理、 仕入先の集中、 判断権限の偏りなど、 平常時の経営課題も見つけやすくなります。
また、災害後にすべての仕事を 同時に再開しようとするのではなく、 重要な仕事へ人員や設備を集中させることで、 事業の再開を早められる可能性があります。
BCPは、災害を完全に防ぐ仕組みではありません。
被害が起きることを前提として、 人命、仕事、取引、資金、信用への影響を 少しでも小さくするための準備です。
よくある質問
Q1.BCPを作れば、取引先から必ず評価されますか?
必ず評価されるとは限りません。
BCPを持っているだけで、 取引先からの信用が自動的に高まるわけではありません。
ただし、災害時の連絡方法、 重要業務、代替手段、 復旧の考え方などを説明できれば、 事業継続に対する会社の姿勢を伝えやすくなります。
特に、災害時の供給停止が 取引先の事業へ大きな影響を与える場合は、 BCPへの取り組みが取引判断の材料になることもあります。
計画書を作るだけでなく、 定期的な訓練や見直しを行うことが重要です。
Q2.保険に入っていればBCPは不要ですか?
保険とBCPは役割が異なります。
保険は主に、 建物、設備、商品、休業などによる 金銭的な損失を補うための手段です。
一方、BCPでは、 従業員の安全確認、 災害直後の初動、 取引先への連絡、 代替業務、 復旧の順番などを考えます。
また、保険金が支払われるまでに 時間がかかる場合もあります。
その間の給与や家賃、 借入金の返済などをどうするかは、 別に考えておく必要があります。
保険はBCPの一部として活用するものであり、 BCPの代わりになるものではありません。
Q3.個人事業主にもメリットがありますか?
あります。
個人事業主の場合、 事業主本人が仕事の中心になっていることが多いため、 本人が動けなくなった場合の影響が大きくなります。
例えば、次の内容を整理するだけでも意味があります。
- 自分が連絡できない場合に誰が顧客へ伝えるか
- 顧客情報や契約情報をどこに保存するか
- 仕事を一時的に引き継げる人がいるか
- 必要なデータを別の場所から確認できるか
- 事業が止まった場合の生活資金があるか
大企業のような分厚い計画を作る必要はありません。
自分が動けない場合に、 顧客、家族、取引先へ与える影響を考え、 最低限の連絡方法や情報の保管方法を決めることが大切です。
自社にとってのBCPのメリットを整理したい方へ
BCPによって守るべきものは、 会社の規模、業種、従業員数、 顧客との関係によって異なります。
何を重要業務にすればよいかわからない、 資金面の備えまで考えられていない、 取引先へどのように説明すればよいかわからないという方は、 次の窓口からご相談ください。