
BCPからBCMへ|大地震に強い会社をつくる見直しの習慣
Executive Summary
- BCPは計画、BCMは継続的な管理です。
- 会社の人、設備、取引先は変化します。
- 訓練によって計画の弱点を確認します。
- 一度に直さず、小さな改善を積み重ねます。
- 見直す習慣が会社の対応力を高めます。
はじめに
BCPを一度作っただけでは、 数年後に使えなくなっている可能性があります。 従業員、取引先、設備、システム、拠点、 商品やサービスの内容は変わるからです。 そこで必要になるのが、BCMという考え方です。 BCMとは、計画を作り、社内へ伝え、訓練で試し、 見つかった問題を直す活動を継続することです。 本稿では、BCPとBCMの違いを整理し、 中小企業が負担を増やしすぎずに 見直しを続ける方法を紹介します。 完璧な計画を一度で作るのではなく、 毎年少しずつ強くしていくことが現実的です。
目次
1.BCPとBCMの違い
BCPは「Business Continuity Plan」の略です。
日本語では、 「事業継続計画」と呼ばれます。
大地震、風水害、火災、感染症、 システム障害などが起きたときに、 従業員や関係者の安全を守り、 重要な仕事を継続したり、 できるだけ早く再開したりするための計画です。
一方、BCMは 「Business Continuity Management」の略です。
日本語では、 「事業継続マネジメント」や 「事業継続管理」と表現されます。
BCMは、BCPを作るだけでなく、 次の活動を続けることを指します。
- 自社の災害リスクを確認する
- 重要な業務を見直す
- 計画を社員へ伝える
- 安否確認や初動対応を訓練する
- 計画どおりに動けるか試す
- 見つかった問題を改善する
- 会社の変化に合わせて計画を更新する
簡単に整理すると、 次のようになります。
| 項目 | BCP | BCM |
|---|---|---|
| 意味 | 事業を守るための計画 | 計画を運用・改善する活動 |
| 中心となるもの | 方針、手順、役割、代替策 | 教育、訓練、確認、見直し |
| 作成後の考え方 | 必要な内容を文書化する | 実際に使える状態を保つ |
| 目的 | 災害時の迷いを減らす | 会社の対応力を継続的に高める |
地図に例えると、 BCPは目的地へ向かうための地図です。
BCMは、その地図が今も正しいかを確認し、 実際に道を歩き、 通れない場所があれば地図を書き直す活動です。
地図を持っているだけでは、 道路が工事中になったり、 新しい道ができたりしたときに対応できません。
BCPも同じです。
計画を保存しておくだけではなく、 現在の会社の状況に合っているかを 継続的に確認する必要があります。
「BCPを作ったから安心」ではなく、 「BCPを試し、直し続けているから対応しやすい」 という状態を目指すのがBCMです。
2.なぜ計画は古くなるのか
会社の状況は、 毎年少しずつ変わります。
そのため、 BCPを一度作ったまま更新しないと、 災害時に使えない内容が増えていきます。
例えば、会社では次のような変化が起きます。
- 従業員が入社、退職、異動する
- 責任者や管理職が変わる
- 仕入先や外注先が変わる
- 主要な取引先が変わる
- 新しいシステムや機械を導入する
- 事務所、店舗、工場、倉庫を移転する
- 新商品や新サービスを始める
- 重要な業務の手順が変わる
- 在宅勤務やクラウドサービスを導入する
一年前に正しかった緊急連絡先が、 現在も正しいとは限りません。
代替責任者に指定していた社員が すでに退職している可能性もあります。
重要データの保存場所を変更したのに、 BCPには古い保存場所が書かれていることもあります。
また、会社が成長したことで、 以前は重要ではなかった仕事が 現在では止められない業務になっている場合もあります。
例えば、新しくインターネット通販を始めた会社では、 注文システムや顧客データ、 配送会社との連絡が重要になります。
新しい機械を導入した製造業では、 その機械を操作できる社員や 修理を依頼する連絡先が重要になります。
会社の変化をBCPへ反映しなければ、 災害時に古い連絡先へ電話をしたり、 すでに使っていない手順を確認したりすることになります。
そのため、BCPは 「保存しておく文書」ではなく、 「定期的に更新する文書」として扱います。
特に、次のような変更があったときは、 年に一度の見直しを待たずに 内容を確認することが大切です。
- 経営者や災害対応責任者が変わった
- 事務所や工場を移転した
- 主要なシステムを変更した
- 重要な取引先や仕入先が変わった
- 新しい事業や商品を始めた
- 実際に災害や長時間の停電を経験した
- 訓練で大きな問題が見つかった
計画が古くなること自体は、 失敗ではありません。
会社が変化すれば、 計画も変わるのが自然です。
大切なのは、 古くなったことに気づき、 必要な部分を直す仕組みを持つことです。
3.年間で回す小さな見直し
BCPの見直しが続かない理由の一つに、 「一度に全部確認しようとすること」があります。
人、設備、資金、取引先、 データ、備蓄品などを すべて同時に見直そうとすると、 担当者の負担が大きくなります。
中小企業が無理なく続けるためには、 一年間をいくつかの期間に分け、 テーマごとに確認する方法が有効です。
1月から3月:人と連絡先を見直す
最初の期間では、 災害時に動く人と連絡方法を確認します。
- 従業員の緊急連絡先は最新か
- 安否確認の方法を全員が知っているか
- 第一責任者は誰か
- 第二、第三の責任者は誰か
- 責任者が不在のときの権限は明確か
- 新入社員へBCPを説明したか
- 退職者の情報が残っていないか
緊急連絡先は個人情報でもあるため、 保管場所、閲覧できる人、 更新方法も確認します。
連絡網を作っている場合は、 一部の担当者だけが持つのではなく、 必要な人が災害時に確認できる状態にします。
4月から6月:重要業務を見直す
次の期間では、 災害後に優先して再開する仕事を確認します。
- 最優先で再開する仕事は何か
- その仕事が止まると誰が困るか
- 何日以内に再開する必要があるか
- 必要な従業員は誰か
- 必要な設備、情報、仕入先は何か
- 担当者が不在でも作業できるか
- 一時的な代替方法はあるか
すべての仕事を重要業務にすると、 優先順位を決められません。
災害直後に限られた人員で対応することを想定し、 本当に先に再開すべき仕事を 一つから三つ程度に絞ります。
重要業務が変わった場合は、 必要な人、設備、情報も合わせて見直します。
7月から9月:設備・情報・資金を見直す
この期間では、 重要業務を支える設備や情報、 事業停止中の資金を確認します。
- 重要データをバックアップしているか
- バックアップから実際に復元できるか
- 非常用電源や充電手段があるか
- 必要な備蓄品の期限は切れていないか
- 機械や車両が使えない場合の代替策はあるか
- 保険の補償内容は現在の事業に合っているか
- 売上が止まった場合の運転資金は足りるか
データは保存しているだけでは不十分です。
災害時に誰が、 どの端末から、 どのように復元するかも確認します。
資金については、 売上が一週間、一か月、三か月止まった場合を想定し、 給与、家賃、借入金返済、 復旧費などを支払えるか確認します。
10月から12月:訓練と改善を行う
年の最後には、 見直した内容が実際に使えるかを試します。
- 安否確認のテストを行う
- 社長不在時の机上訓練を行う
- 重要顧客への連絡手順を確認する
- データの復元を試す
- 代替責任者が判断できるか確認する
- 訓練で見つかった問題を記録する
- 翌年の改善項目を決める
訓練後は、 実施したことだけで満足せず、 見つかった問題を改善します。
例えば、 安否確認の回答が集まらなかった場合は、 社員を責めるのではなく、 連絡方法や説明がわかりにくくなかったかを確認します。
ここで示した月や期間は一例です。
自社の決算期、繁忙期、 人事異動の時期などに合わせて調整してください。
重要なのは、 年に一度だけ総務担当者が文書を開くことではありません。
経営者、総務、現場の責任者が テーマごとに参加し、 小さな見直しを継続することです。
一年間で少しずつ確認すれば、 大きな負担をかけずに BCPを現在の会社に合わせられます。
4.経営者が確認する五つの質問
BCPやBCMを総務担当者だけに任せると、 重要業務、資金、判断権限などの 経営判断が進まないことがあります。
経営者は、 少なくとも次の五つの質問を 定期的に確認する必要があります。
① 社員の安全をどう確認するか
災害直後は、 事業の再開より先に 従業員や関係者の安全を確認します。
次の点を確認します。
- 最初に使う安否確認方法は何か
- その方法が使えない場合はどうするか
- 安否情報を誰が集めるか
- 連絡が取れない社員を誰が確認するか
- 家族の安全を優先してよいことを伝えているか
安否確認の仕組みを導入していても、 社員が使い方を知らなければ意味がありません。
定期的な回答テストを行い、 実際に連絡が集まるか確認します。
② 最初に再開する仕事は何か
大地震の後に、 すべての仕事を同時に再開することは困難です。
限られた人員、設備、資金を どの仕事へ集中させるかを決めます。
「全部重要です」という答えでは、 災害時に優先順位を判断できません。
次の観点から、 一つから三つ程度に絞ります。
- 停止すると顧客への影響が大きいか
- 人の安全や生活に関わるか
- 契約や法律上、早い対応が必要か
- 停止すると取引先の事業も止まるか
- 会社の資金繰りへの影響が大きいか
③ 社長が不在でも判断できるか
災害時に社長が会社にいるとは限りません。
社長自身が被災したり、 通信障害で連絡が取れなくなったりする可能性もあります。
そのため、 第二、第三の責任者を決めます。
さらに、名前だけでなく、 どの範囲まで判断できるかを決めます。
- 臨時休業を決定できるか
- 従業員へ自宅待機を指示できるか
- 取引先へ納期変更を伝えられるか
- 緊急の支出を決定できるか
- 代替拠点での業務開始を決められるか
役割だけを与えても、 判断権限がなければ代理者は動けません。
平常時に、 どこまで任せるかを明確にします。
④ 一週間売上が止まっても支払えるか
災害後は、 売上や入金が止まっても 支払いが続く可能性があります。
次の支出を確認します。
- 従業員の給与
- 事務所や店舗の家賃
- 借入金の返済
- リース料
- 仕入代金
- 設備や建物の復旧費
- 代替拠点や臨時設備の費用
一週間だけでなく、 一か月、三か月と 事業停止が長引いた場合も考えます。
手元資金、保険、融資、 支払い条件の見直しなどを 平常時に検討しておくことが大切です。
⑤ 前回の訓練で見つかった問題は直ったか
訓練を実施しただけでは、 会社の対応力は高まりません。
見つかった問題を記録し、 担当者と期限を決めて改善する必要があります。
例えば、前回の訓練で 次の問題が見つかったとします。
- 緊急連絡先が古かった
- 代替責任者が役割を知らなかった
- 顧客情報を確認できなかった
- バックアップから復元できなかった
- 臨時休業の判断者が不明確だった
経営者は、 問題が見つかったかどうかだけでなく、 その問題が直ったかを確認します。
修正した内容は、 次の訓練でもう一度試します。
この五つの質問は、 BCPを細かく管理するためのものではありません。
人命、重要業務、判断権限、 資金、改善という 経営上の重要な点を確認するためのものです。
経営会議や月例会議の一部を使って、 一つずつ確認する方法でも構いません。
5.相談すべきタイミング
BCPやBCMは、 自社だけでも始められます。
安否確認、重要業務、 代替責任者を整理するだけでも 大切な第一歩になります。
一方で、 社内だけでは話が進まなかったり、 何を優先すべきかわからなかったりする場合は、 外部の支援を検討することも有効です。
例えば、次のような状態です。
- 何から決めればよいかわからない
- BCPはあるが数年間更新していない
- 計画が現場の実態に合っていない
- ジギョケイの申請を検討している
- 取引先からBCPの提出を求められた
- 重要業務を一つに絞れない
- 地震対策と資金対策がつながっていない
- 訓練をしたいが進め方がわからない
- 社内だけでは意見がまとまらない
- 経営者不在時の権限を整理できていない
外部へ相談する目的は、 立派な計画書を作ってもらうことではありません。
自社の人員、業務、設備、 取引、資金に合った内容を整理し、 自社で見直しを続けられる状態を作ることです。
支援を受ける場合は、 次の点を確認するとよいでしょう。
- 計画書の作成だけで終わらないか
- 経営者と現場の両方へ話を聞くか
- 自社の重要業務を一緒に整理するか
- 訓練や見直しまで支援できるか
- 難しい言葉を使わず説明してくれるか
- 自社で更新できる形にしてくれるか
BCPやジギョケイの申請書が完成しても、 社員が内容を理解していなければ 災害時に活用することは困難です。
そのため、 計画の作成、社員への共有、 訓練、改善までを 一つの流れとして考える必要があります。
外部の専門家や支援機関は、 社内では気づきにくい弱点を見つけたり、 経営者と現場の意見を整理したりする役割を担えます。
ただし、災害時に実際に判断するのは 自社の経営者や従業員です。
外部へ任せきりにせず、 自社で考え、試し、直せる仕組みを作ることが重要です。
まとめ+要約
- BCPは事業を守るための計画です。
- BCMは計画を運用し、改善する活動全体です。
- 人、設備、取引先が変われば計画も更新します。
- 四半期ごとにテーマを分けると見直しやすくなります。
- 訓練で見つかった問題を直すまでがBCMです。
BCPは、 一度作れば終わる書類ではありません。
従業員、責任者、取引先、 設備、システム、重要業務は、 会社の変化に合わせて変わります。
そのため、 BCPも現在の会社に合わせて 更新し続ける必要があります。
BCMとは、 計画を作り、 社員へ共有し、 訓練で試し、 見つかった問題を改善する活動です。
すべてを一度に確認すると、 担当者の負担が大きくなります。
人と連絡先、 重要業務、 設備と資金、 訓練と改善というように テーマを分けると続けやすくなります。
また、計画を守れなかったことを 単純な失敗と考える必要はありません。
なぜ動けなかったのかを確認し、 仕組みを直すことがBCMの中心です。
完璧な計画を一度で作ることよりも、 小さな訓練と改善を続けることが、 大地震に強い会社づくりにつながります。
よくある質問
Q1.BCPとBCMは、どちらから始めればよいですか?
まずは、 最低限のBCPを作ることから始めます。
最初から分厚い計画書を作る必要はありません。
例えば、次の内容を整理します。
- 従業員の安全をどう確認するか
- 最初に再開する仕事は何か
- 誰が判断するか
- 責任者が不在なら誰が代わるか
- 連絡や設備が使えない場合にどうするか
その後、 社員へ共有し、 訓練で確認し、 見つかった問題を改善します。
この確認と改善を続けることが BCMになります。
最初から完成形を目指す必要はありません。
Q2.見直しは総務担当者だけでできますか?
緊急連絡先や備蓄品の確認は、 総務担当者が中心となって進められます。
しかし、次の内容は 総務だけで決めることが困難です。
- どの仕事を重要業務にするか
- どの顧客を優先するか
- 事業停止中の資金をどうするか
- 誰にどこまで判断権限を与えるか
- どの設備投資を優先するか
- 取引先へどのように説明するか
これらは経営判断を含むため、 経営者や各部門の責任者が参加する必要があります。
総務担当者にすべてを任せるのではなく、 総務が進行役となり、 経営者と現場が一緒に決める形が望ましいです。
Q3.毎年見直す時間がありません。
一度にすべての項目を 見直す必要はありません。
四半期や月ごとに テーマを分ける方法があります。
例えば、次のように進めます。
- 第一四半期は人と連絡先を確認する
- 第二四半期は重要業務を見直す
- 第三四半期は設備、データ、資金を確認する
- 第四四半期は訓練と改善を行う
また、会議や朝礼の一部を使い、 一つの質問だけを確認する方法でも構いません。
年に一度だけ大がかりな作業をするよりも、 15分から30分程度の確認を 定期的に続けるほうが現実的です。
Q4.計画を見直すと、決まりが増えて窮屈になりませんか?
細かな手順を増やしすぎると、 現場が動きにくくなる可能性があります。
そのため、見直しでは すべての行動を細かく固定するのではなく、 判断基準をわかりやすくします。
例えば、次のような基準です。
- まず人の安全を優先する
- 危険な場合は無理に出勤しない
- 確認できないことは断定しない
- 重要な仕事から再開する
- 責任者不在時は代替責任者が判断する
BCMは決まりを増やす活動ではありません。
現場が迷わず、 状況に応じて判断できる状態を作る活動です。
Q5.訓練で計画どおり動けなければ意味がありませんか?
意味があります。
訓練で計画どおり動けなかった場合、 本番前に弱点を見つけられたことになります。
例えば、次の問題が見つかることがあります。
- 連絡先が古い
- 役割が社員へ伝わっていない
- 代替責任者に権限がない
- 重要データへアクセスできない
- 連絡手段が一つしかない
訓練の目的は、 計画書を完璧に再現することではありません。
災害時に動きにくくなる原因を見つけ、 本番までに改善することです。
BCPを作って終わりにしたくない方へ
BCPは、 作成した時点では完成ではありません。
社員への共有、 安否確認や机上訓練、 連絡先の更新、 重要業務の見直しを続けることで、 災害時に使える計画へ変わります。
次のようなお悩みはありませんか。
- BCPを作ったが訓練していない
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- ジギョケイ認定後の運用が止まっている
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