
カスハラに当たる行為・当たらない行為
対象読者: 中小企業経営者、零細企業、個人事業主、管理者、現場責任者
読了時間: 約5分
タグ: カスハラ対策、クレーム対応、不当要求、労働施策総合推進法、従業員保護
Executive Summary
- すべての苦情がカスハラではありません。
- 判断の軸は「内容」と「態度」です。
- 暴言・脅迫・長時間拘束は要注意です。
- SNSや電話での攻撃も対象になります。
- 迷ったら記録し、責任者に共有します。
導入
カスハラ対策で多くの会社が悩むのは、「どこまでがお客様の正当な意見で、どこからがカスハラなのか」という線引きです。 お客様の声を大切にする姿勢は、これからも変える必要はありません。 ただし、従業員が暴言や脅し、長時間の拘束、不当な要求にさらされている場合、会社は見過ごすことができません。 本稿では、中小零細企業でも使いやすいように、正当なクレームとカスハラの違いを、現場の判断に役立つ形で整理します。 判断に迷う場面では、担当者一人に任せず、記録を残し、会社として対応を決めることが大切です。
1. 正当なクレームとカスハラの違い
まず押さえたいのは、クレームそのものが悪いわけではないということです。
商品に不具合があった。 予約内容と実際のサービスが違った。 説明が足りず、お客様が不安になった。 従業員の対応に不備があった。
このような場合、お客様が会社に改善を求めることは自然です。 会社としても、事実を確認し、必要に応じて謝罪や説明、改善を行う必要があります。
一方で、次のような場合は注意が必要です。
- 大声で怒鳴り続ける。
- 人格を否定する言葉を使う。
- 土下座を求める。
- 長時間その場に居座る。
- 何度も電話をかけ続ける。
- 本来の契約内容を超えた対応を求める。
- SNSにさらすと脅す。
- 従業員の個人情報を聞き出そうとする。
問題は「苦情を言ったこと」ではありません。 問題になるのは、要求の内容が行き過ぎている場合や、伝え方が暴力的・威圧的・継続的・拘束的になっている場合です。
2. カスハラ判断の3つの条件
厚生労働省の資料では、職場におけるカスタマーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 顧客等の言動であること。
- 業務の性質などを踏まえて、社会通念上許容される範囲を超えていること。
- それによって労働者の就業環境が害されること。
ここでいう「顧客等」には、商品やサービスを利用しているお客様だけでなく、取引先、施設の利用者、今後サービスを利用する可能性がある人なども含まれます。
つまり、店舗の来店客だけでなく、電話の相手、メールの相手、取引先の担当者、施設利用者、SNS上で接触してくる人も、状況によっては対象になります。
ただし、判断は一つの言葉だけで機械的に決まるものではありません。 要求の内容、言い方、回数、時間、場所、従業員への影響、会社側の対応に不備がなかったかなどを合わせて見る必要があります。
中小零細企業では、細かい判断を現場だけに任せると、担当者が「自分が我慢すればよい」と考えてしまいがちです。 だからこそ、迷った時点で責任者に共有するルールが必要です。
3. カスハラに当たりやすい行為
カスハラに当たりやすい行為は、大きく分けると「要求の内容が行き過ぎているもの」と「手段や態度が行き過ぎているもの」があります。
要求の内容が行き過ぎている例
- 理由のない返品や返金を求める。
- 契約にない無料サービスを求める。
- 商品やサービスの内容に見合わない高額な補償を求める。
- 担当者の解雇や異動を求める。
- 特別扱いを当然のように求める。
- 会社の責任ではないことまで対応を求める。
たとえば、軽微なミスに対して、実際の損害を大きく超える金銭を求める場合や、契約に含まれていない作業を無料で求め続ける場合は、会社として線引きが必要です。
手段や態度が行き過ぎている例
- 怒鳴る、脅す、威圧する。
- 「SNSに書くぞ」と脅す。
- 「家まで行くぞ」などと言う。
- 人格を否定する言葉を使う。
- 差別的な発言をする。
- 性的な発言をする。
- 長時間にわたり拘束する。
- 何度も電話やメールを繰り返す。
- 無断で撮影や録音をする。
- 退去を求めても居座る。
要求内容に一部正当な点があったとしても、伝え方が暴力的、威圧的、継続的、拘束的、差別的、性的であれば、カスハラに該当し得ます。
たとえば、会社側に説明不足があったとしても、担当者に対して長時間怒鳴り続けたり、人格を否定したり、土下座を求めたりすることまで許されるわけではありません。
電話・メール・SNSで起きる例
- 一日に何度も電話をかけ続ける。
- 深夜や早朝に連絡を繰り返す。
- 従業員の名前や顔写真をSNSに投稿する。
- 口コミサイトに事実と異なる内容を投稿する。
- 会社や従業員を攻撃する投稿を繰り返す。
- 返信を強く迫り、通常業務を妨げる。
カスハラは、店頭だけで起きるものではありません。 電話、メール、チャット、SNS、口コミサイトなど、インターネット上で行われるものも対象になります。
4. カスハラと決めつけてはいけない場面
カスハラ対策を進めるうえで大切なのは、お客様の正当な声まで拒まないことです。
会社側にミスがあった場合、お客様が不満を伝えるのは当然です。 従業員の説明が不足していた、約束した納期を守れなかった、請求内容が分かりにくかった、接客態度に問題があった。 このような場合は、まず事実を確認し、必要な説明や改善を行う必要があります。
次のようなものは、直ちにカスハラと決めつけるべきではありません。
- 商品やサービスの不備を指摘する。
- 説明不足について改善を求める。
- 契約内容に沿った対応を求める。
- 請求内容の確認を求める。
- 納期遅れや手配ミスについて説明を求める。
- 従業員の接客態度について意見を伝える。
ただし、内容が正当でも、言い方や行動が行き過ぎると話は変わります。 たとえば、説明を求めること自体は正当でも、数時間にわたり担当者を拘束する、何度も電話を繰り返す、脅すような言葉を使う場合は、会社として対応を切り替える必要があります。
大切なのは、「お客様の言い分に正当な部分があるか」と「言動の方法が許される範囲か」を分けて考えることです。
5. 現場で迷ったときの判断フロー
中小零細企業では、複雑な判断表を作るよりも、現場で使える簡単な流れを決めておくことが有効です。
ステップ1:まず事実を確認する
最初に確認するのは、会社側に不備があったかどうかです。
- 商品やサービスに問題があったか。
- 説明不足があったか。
- 契約内容と違う対応をしていないか。
- 従業員の対応に不適切な点がなかったか。
会社側に不備がある場合は、まず誠実に説明し、必要な対応を行います。
ステップ2:要求内容が妥当か確認する
次に、お客様の要求が妥当かを見ます。
- 契約内容に沿った要求か。
- 実際の損害に見合った要求か。
- 会社が対応できる範囲か。
- 過度な特別扱いを求めていないか。
要求内容が契約や通常のサービス範囲を大きく超える場合は、責任者に引き継ぐ必要があります。
ステップ3:言い方や行動が行き過ぎていないか確認する
次に、手段や態度を確認します。
- 暴言があるか。
- 脅しがあるか。
- 長時間拘束されているか。
- 同じ連絡が何度も続いているか。
- 従業員個人への攻撃になっているか。
- SNS投稿や撮影で圧力をかけているか。
ここに当てはまる場合、担当者だけで対応を続けるべきではありません。
ステップ4:記録を残す
迷った場合は、必ず記録を残します。
- 日時
- 相手の名前や連絡先
- 発言内容
- 要求内容
- 対応した従業員
- 対応時間
- その後の対応
記録は、従業員を守るためにも、会社が冷静に判断するためにも重要です。 感情的な言い合いの記録ではなく、できるだけ事実を中心に残します。
ステップ5:会社として対応を切り替える
暴言、脅迫、長時間拘束、不当要求、SNSでの攻撃などがある場合は、次のような対応に切り替えます。
- 担当者を一人にしない。
- 責任者に交代する。
- 対応時間を区切る。
- 必要に応じて文書で回答する。
- 脅迫や暴力の可能性がある場合は警察へ相談する。
- 判断が難しい場合は専門家に相談する。
会社として大切なのは、「我慢する人を決める」のではなく、「守る仕組みを決める」ことです。
まとめ+要約
- すべてのクレームがカスハラになるわけではありません。
- カスハラは、要求内容と手段・態度の両面から判断します。
- 暴言、脅迫、長時間拘束、不当要求、SNSでの攻撃は注意が必要です。
- 正当な意見まで拒まないよう、事実確認を先に行います。
- 迷ったときは記録を残し、担当者一人に抱え込ませないことが重要です。
次の一手: 自社で起きやすいクレームを3つ書き出し、「通常対応」「責任者対応」「対応中止・外部相談」の基準に分けてみましょう。
FAQ
Q1. 少し強い口調で注意された場合もカスハラですか?
強い口調だけで、すぐにカスハラと決まるわけではありません。 まずは、会社側に不備があったか、要求内容が妥当かを確認します。 ただし、暴言、脅迫、人格否定、長時間の拘束、何度も続く連絡などがある場合は、カスハラに該当する可能性があります。
Q2. お客様に「SNSに書く」と言われたらどうすればよいですか?
まずは感情的に反応せず、事実確認を行います。 会社側に不備がある場合は、必要な説明や対応を行います。 一方で、SNS投稿を使って過度な要求を通そうとする場合や、従業員個人を攻撃する場合は、記録を残し、責任者に引き継ぎます。
Q3. どの段階で対応を中止してもよいですか?
暴言や脅迫が続く場合、従業員が長時間拘束されている場合、身の危険を感じる場合、不当な要求が繰り返される場合は、対応を中断・交代する判断が必要です。 事前に「このような場合は責任者に交代する」「危険を感じたら警察へ相談する」というルールを決めておくと、現場が迷いにくくなります。
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