
BCPや社内規程は、誰が進める?作って終わりにしない担当・訓練・見直しの仕組み
「BCPを作ることには賛成。でも、誰が進めるのだろう」
「担当者は決めたけれど、忙しくて作業が止まっている」
「マニュアルはあるものの、現場で使われているか分からない」
BCPや社内規程を整えようとすると、内容の検討だけでなく、進め方の課題にも向き合うことになります。
担当者へ任せただけでは、経営者の判断が必要なことを決められません。反対に、すべてを経営者が抱えれば、日々の仕事に追われて整備が進まなくなることもあります。
大切なのは、経営者が判断すること、担当者が進めること、現場が確認することを分けて、使いながら見直せる体制をつくることです。
Day3では、守ること・任せること・相談することの分け方を考えました。Day4では、それを策定、周知、訓練、改定の実務につなげます。
この記事で押さえておきたい5つのポイント
- 経営者、推進担当者、現場の役割を明らかにします。
- 担当者には、作業時間と必要な情報、相談できる相手を用意します。
- 文書は、使う人が必要なときに確認できる場所へ置きます。
- 訓練では、手順を覚えているかに加え、実際に使えるかを確認します。
- 更新する人、承認する人、最新版を周知する方法まで決めます。
今日、考えたい問いは「自社のBCPや規程について、整備から運用、見直しまでを進める人と方法が決まっているか」です。
1.「担当者を決めた」だけでは進まない理由
担当者が決まることは、前進です。ただし、名前だけを決めても、作業が進むとは限りません。
たとえば、担当者には次のような判断が難しい場合があります。
- 複数の事業のうち、どれを優先して復旧するか。
- 代替設備や外部支援に、どこまで費用をかけるか。
- 通常業務を、どの範囲で調整できるか。
- 誰に、どこまで判断する権限を持たせるか。
- 取引先や従業員へ、どのような方針を伝えるか。
これらは、文書の体裁を整える作業とは異なります。経営上の判断が必要な内容です。
担当者が判断を求めても返事がなければ、作業は止まります。「担当者が進めていない」と考える前に、経営者側で決めるべきことが残っていないか確認しましょう。
2.経営者・推進担当者・現場の役割を分ける
小さな会社では、一人が複数の役割を担うこともあります。それでも、役割を書き分けると、必要な仕事を整理しやすくなります。
| 役割 | 主に担うこと | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 経営者・責任者 | 方針、優先順位、権限、必要な費用や時間を判断する。 | 担当者が判断できない課題に答えられているか。 |
| 推進担当者 | 情報を集め、案をまとめ、確認や見直しの日程を調整する。 | 作業時間、情報へのアクセス、相談先があるか。 |
| 現場の担当者 | 実際の業務、使う情報、手順の難しさを伝える。 | 現実にできる内容になっているか。 |
| 外部の支援者 | 契約した範囲で、専門的な確認や策定・運用を支援する。 | 依頼範囲と、自社で決めることが分かれているか。 |
外部のひな形や支援を利用しても、自社の優先順位や実行できる体制は、自社で確認する必要があります。
中小企業庁の指針も、経営者と従業員が関わり、BCPを策定して日常的に運用することを前提としています。
詳しくは、中小企業庁「本指針の使い方」をご覧ください。
3.最初の対象を絞り、必要な情報を集める
全社の規程やマニュアルを一度に整理しようとすると、対象が広くなり、着手しにくくなります。
まず、自社で優先して確認する業務や場面を決めましょう。
たとえば、次のような課題が出発点になります。
- 経営者が不在になると、顧客への返答が止まる。
- 事務所が使えない場合、必要な情報を確認できない。
- 特定の担当者しか、重要な作業を行えない。
- 連絡網や業務手順が、現在の体制と合っていない。
ただし、BCP全体の検討を、一つの手順書だけで済ませてよいという意味ではありません。また、法令や制度などで必要な対応がある場合は、その要件も確認します。
現場への聞き取りでは、実際の仕事を確認する
「困っていることはありますか」と聞くだけでは、普段の工夫が見えてこない場合があります。
「この作業は、誰に確認していますか」「必要な情報は、どこから取り出していますか」「その人が休んだらどうなりますか」と、仕事の流れに沿って聞いてみてください。
文書に書かれていない連絡や、担当者だけが知っている判断基準が見つかることがあります。
4.案を作るときは、未確認の部分も明らかにする
情報がすべてそろうまで待っていると、案の作成が進まないことがあります。
確認できた内容でたたき台を作り、未確認の項目は区別して残す方法が考えられます。
その際、「要確認」とだけ書いて終わらせず、次の内容を添えましょう。
- 何が分かっていないのか。
- 誰が確認するのか。
- どこへ問い合わせるのか。
- いつ確認状況を見直すのか。
未承認の案を、正式なルールと混同しないことも必要です。試してよい範囲、正式な決定が必要な項目、運用開始前に解消すべき課題を整理します。
特に、安全や法令、契約、労働条件に関わる内容は、確認が必要なまま安易に運用を始めないようにしてください。
5.周知は「配った」から「使える」まで確認する
文書をメールで送付しても、必要なときに見つけられなければ、現場では使いにくいままです。
周知するときは、少なくとも次のことを伝えます。
- 何のために作った文書なのか。
- 自分の仕事に関係する部分はどこか。
- どの場面で使うのか。
- 判断に迷ったら誰に相談するのか。
- 最新版をどこで確認できるのか。
パソコンを使わない従業員や、外出が多い担当者にも届く方法を考えます。
緊急時に、普段の保管場所を使えるか
BCPでは、事務所に入れない、停電する、通信が使いにくくなるなどの状況も考えます。
共有フォルダの場所を知っていても、必要な端末や通信が使えなければ確認できません。
業務に応じて紙の控えや、適切に管理した別の保管方法などを検討します。ただし、緊急時に使いやすくするために、個人情報や認証情報を無制限に持ち出してよいわけではありません。
情報を使えることと、情報を守ることを、合わせて考えましょう。
6.訓練は、手順の使いにくさを見つける機会にする
訓練というと、大人数で行う本格的な演習を思い浮かべるかもしれません。
小規模な職場では、架空の場面を示し、どう行動するかを話し合うことから始める方法もあります。
たとえば、次の状況を設定します。
平日の午前中に停電が発生しました。事務所内の設備は使えず、経営者ともすぐに連絡が取れません。顧客から、予定していた業務を実施できるか問い合わせが来ています。
これは検討のための架空の例です。実際の対応は、安全の状況や業務、法令、契約などによって異なります。
話し合いで確認したいこと
- 最初に安全や被害状況を、誰が確認するか。
- 経営者の代わりに、誰がどこまで判断できるか。
- 優先して対応する業務は何か。
- 顧客へ、確認できたことと未確認のことをどう伝えるか。
- 必要な連絡先や情報を、実際に取り出せるか。
答えが出ないところがあれば、それは改善に使える情報です。
従業員が手順を覚えていないことだけを問題にせず、書き方、権限、情報の保管方法などにも目を向けましょう。
7.訓練で見つかった課題には、担当と確認時期を付ける
訓練後に「連絡先を直す必要がある」「代わりの判断者を決めたい」と気づいても、担当が決まらなければ、そのまま残ってしまいます。
課題ごとに、次の内容を整理してください。
| 整理する項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 分かった課題 | 経営者につながらない場合、次の連絡先が分からない。 |
| 必要な対応 | 代わりの判断者と、その人の権限を決める。 |
| 進める人 | 推進担当者が案を整理し、経営者が判断する。 |
| 必要な準備 | 候補者の業務、連絡可能な時間、必要な情報を確認する。 |
| 確認する時期 | 具体的な日を決め、決定状況を確認する。 |
| 完了の確かめ方 | 関係者が、代わりの判断者と連絡方法を説明できる。 |
この表は運用を検討するための例です。自社で必要な項目に調整してください。
「文書を直した」だけでなく、関係者へ伝わり、実際に使えるところまで確認します。
8.見直しは、定期的な確認と、変化があったときの確認を組み合わせる
見直す日を決めておくことは、更新忘れを防ぐ助けになります。
一方で、その日まで待たずに確認したほうがよい変化もあります。
- 担当者や責任者、連絡先が変わった。
- 事務所や拠点を移した。
- 利用するシステムや設備を変えた。
- 重要な取引先や委託先、業務内容が変わった。
- 訓練や実際の対応で、不足が分かった。
- 関係する法令や制度、業界の指針などが変わった。
確認の頻度は、業務やリスク、適用される制度などに合わせて考えます。すべての会社や文書に、同じ頻度を当てはめる必要があるとは限りません。
内閣府は、事業継続の取組について、運用、教育訓練、点検、経営層による見直しを繰り返す考え方を示しています。
詳しくは、内閣府「事業継続 初めての方へ」をご覧ください。
9.法改正の確認も、担当者の記憶だけに頼らない
「関係する変更があったら、担当者が気づくだろう」という状態では、情報を見落とすおそれがあります。
公的機関や業界団体、顧問の専門家など、何を情報源にするかを整理し、受け取った情報を確認する担当を決めましょう。
確認する内容は、たとえば次のとおりです。
- 何の法令や制度が変わるのか。
- いつから適用されるのか。
- 自社や自社のサービスが対象になるのか。
- 義務となることと、推奨されることは何か。
- どの規程や手順、教育内容に影響するか。
情報を受け取る人と、専門的な内容を判断する人が同じである必要はありません。分からないことを確認先につなげる仕組みも大切です。
なお、BCPに関する要件は、業種や制度などによって異なります。ほかの会社の対応を、そのまま自社の義務と考えないようにしてください。
10.最新版を管理し、古い手順が残らないようにする
同じ名前のファイルが複数あったり、紙とデータで内容が違ったりすると、どれを使うか迷います。
文書の管理では、次の内容を決めておくと整理しやすくなります。
- 文書の管理を担当する人。
- 内容を確認し、承認する人。
- 版番号や改定日、変更内容の記録方法。
- 最新版の保管場所。
- 古い版の回収、保管、閲覧制限などの扱い。
- 関係者へ変更を伝える方法。
古い版は、改定の経緯や記録として保管が必要な場合もあります。すべてを無条件に削除するのではなく、適用されるルールに沿って扱いましょう。
就業規則など、労働条件に関わる文書については、内容に応じた変更手続きや周知の確認も必要です。通常のマニュアル更新と同じように扱わないでください。
11.運用の負担も、経営者が確認する
担当者の善意だけで運用を続けようとすると、ほかの業務が忙しくなったときに止まりやすくなります。
会議や研修の時間、資料の更新、外部への確認など、必要な作業を通常の業務として位置づけましょう。
また、運用のための作業が増えすぎていないかも確認します。
同じ情報を複数の帳票へ入力している、変更のたびに多くの人が同じ確認をしているなどの状況があれば、必要性を見直せるかもしれません。
必要な確認を保ちながら、重複や使いにくさを減らすことも、運用の改善です。
よくある質問
Q1.専任の担当者を置けない場合は、どうすればよいですか?
ほかの業務と兼任する方法も考えられます。ただし、担当者名だけを決めず、作業する時間、判断を求める相手、不在時の対応まで整理してください。
Q2.外部の専門家に作成を依頼すれば、社内の作業は不要ですか?
自社の業務情報の提供や、優先順位・権限の判断、現場で実行できるかの確認などは必要です。外部支援の範囲と、自社で担う役割を明らかにしましょう。
Q3.訓練でうまく動けなかったら、計画は失敗ですか?
不足を発見できたことを、改善につなげる機会として考えましょう。連絡先、判断権限、情報の保管方法など、どこに課題があるかを整理し、対応する人と確認時期を決めます。
Q4.BCPと社内規程は、同じ日に見直してもよいですか?
関連する内容をまとめて確認する方法は考えられます。ただし、文書ごとに必要な確認や改定手続きは異なります。業種や制度に基づく要件も含めて確認してください。
Q5.一人で事業をしている場合、誰を推進者にすればよいですか?
基本的には事業主自身が進めます。そのうえで、自分が動けない場合の連絡や重要情報の扱い、外部支援を必要とする場面を整理します。協力者へ情報を共有する場合は、契約や個人情報の取扱いにも配慮してください。
まとめ+要約
- 経営者の判断、推進担当者の作業、現場の確認を分けて整理します。
- 担当者には、時間、情報、相談先を用意します。
- 周知は、配布だけでなく、使う人が理解して確認できるところまで進めます。
- 訓練で分かった課題には、担当者と確認時期を付けます。
- 業務や法令などの変化を踏まえ、正式な改定と最新版の共有を続けます。
今日の一歩として、自社のBCPや主要なマニュアルについて、「誰が更新し、誰が確認し、どこで最新版を見るか」を書き出してみてください。
そこが曖昧なら、内容の充実と合わせて、運用を支える体制を整える必要があります。
次回は、経営者が決めたいことを整理します
Day5では、5日間の内容を踏まえ、自社で優先する課題、担当者、必要な支援、実施時期、確認方法をまとめます。「作るかどうか」で止まらず、自社に合った備えを進めるための判断を考えましょう。
文書の作成と、現場での運用をつなげていきませんか。
「担当者は決めたが進まない」「BCPを作った後、見直していない」「古いマニュアルが使われている」という場合は、役割と更新の流れを整理することが出発点になります。
事業継続や経営上の備えについて、自社に合った進め方を検討したい方はご相談ください。労働条件や法的な判断を伴う規程については、社会保険労務士や弁護士など、内容に合った専門家への確認も進めましょう。
参考資料
※本記事は、2026年10月25日時点で確認した公的資料を参考に、一般的な策定・運用の考え方を整理したものです。役割分担、訓練の場面、管理方法などは検討のための例です。実際の整備や改定では、業種、適用される法令・制度、契約、労働条件、社内規程などに応じた確認を行ってください。