
BCPや社内ルールを「作るかどうか」で止めない。経営者が決めたい優先順位と最初の一歩
「BCPや規程を作ると、がんじがらめになるのでは?」
この疑問から始めた5日間のシリーズも、最終日になりました。
ルールの整備に慎重になるのは、現場の動きやすさを大切にしているからかもしれません。その視点は、作成するときにも持ち続けたいものです。
同時に、何も決まっていないために判断が止まる、担当が曖昧なまま対応が漏れる、社長やベテランだけに負担が集まる。そうした状態も見過ごせません。
最終日に考えたいのは、自社のどの迷いを減らし、何を守るために、誰が整備と見直しを進めるかです。
文書の完成を目標にするだけでなく、必要なときに判断し、行動できる状態を目指しましょう。
この記事で押さえておきたい5つのポイント
- BCPや社内ルールは、判断や対応を支えるために整えます。
- 安全や事業への影響、適用される義務などを踏まえて、着手する課題を選びます。
- 経営者の判断、推進担当者の作業、現場の確認を分けて考えます。
- 必要な時間や費用を確保し、実際に使えるかを確かめます。
- 運用や訓練、業務の変化、法改正を踏まえ、改定と周知を続けます。
今日、考えたい問いは「自社で優先して整えることと、その担当者、実施時期、確認方法を決められるか」です。
1.5日間の内容を、自社の判断につなげる
ここまでの内容を、経営者が確認したいことに置き換えると、次のようになります。
| 確認してきたこと | 自社で答えたいこと |
|---|---|
| Day1:決めておく目的 | 何を守り、どの場面で判断できるようにするのか。 |
| Day2:決めていない負担 | 判断待ちや対応漏れ、特定の人への集中がどこにあるか。 |
| Day3:判断範囲の整理 | 守ること、任せること、相談することが分かれているか。 |
| Day4:運用する体制 | 誰が進め、説明し、訓練や見直しを行うか。 |
| Day5:経営者の判断 | 何から着手し、必要な時間と支援をどう確保するか。 |
すべてにすぐ答えられなくても、曖昧な部分が分かれば、次に確認することを決められます。
「必要だと思う」で終わらせず、具体的な仕事に置き換えていきましょう。
2.最初に決めたいのは、文書の名前より「解決したい問題」
「BCPを作る」「規程を整備する」という言葉だけでは、担当者も何から始めるか迷います。
まずは、困っている場面や備えたい状況を具体的にします。
- 経営者と連絡が取れないと、顧客への返答が止まる。
- 事務所が使えないと、重要な情報を確認できない。
- 特定の担当者が休むと、必要な作業ができない。
- 同じ問い合わせでも、人によって説明が変わる。
- 規程やマニュアルが古く、実際の仕事と合っていない。
問題が具体的になれば、必要な対応も考えやすくなります。
連絡先の更新で改善できることもあれば、判断権限の整理、代替手段の確保、正式な規程の改定が必要なこともあります。
文書を増やす前に、何が起きると困り、現在の仕組みのどこが足りないのかを確認してください。
3.優先順位は、安全・影響・必要な義務から考える
整えるべきことが複数ある場合は、着手する順番を考えます。
ここで紹介するのは、課題を整理するための視点です。法令上の要件や必要な措置を、独自の順位だけで先送りしてよいという意味ではありません。
| 確認する視点 | 考えたいこと |
|---|---|
| 人の安全 | 判断や連絡の遅れが、危険な行動や避難の遅れにつながらないか。 |
| 法令・制度・契約 | 自社に必要な対応や、適用時期、手続きがないか。 |
| 事業への影響 | 停止すると、顧客や取引先、自社の事業に大きな影響があるか。 |
| 特定の人への依存 | その人が不在になると、判断や作業ができなくなるか。 |
| 繰り返す負担 | 同じ確認待ちや説明、やり直しが続いていないか。 |
起こる回数が少なくても、影響が大きければ備えが必要です。一方、日常的に生じている小さな負担も、積み重なれば無視できません。
頻度だけ、作りやすさだけで決めず、複数の視点で確認しましょう。
4.新しく作る・直す・整理する、どの方法を選ぶか
必要な対策は、必ずしも新しい文書の作成とは限りません。既存の資料や運用を確認し、課題に合った方法を選びます。
| 選択肢 | 向いている状況 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 既存の文書を更新する | 基本的な内容はあるが、担当者や連絡先、手順が古い。 | 古い版が使われないよう、変更の周知まで行う。 |
| 資料を整理・統合する | 同じ内容が複数の資料にあり、説明が食い違っている。 | 必要な記録や要件を落とさず、確認先を分かりやすくする。 |
| 新しく計画や手順を整える | 必要な判断基準や代替手段、役割が決まっていない。 | 実際の業務を確認し、使う人と内容を確かめる。 |
| 専門家の確認を受ける | 法令、労働条件、契約、技術的な判断などが関係する。 | 依頼範囲と、自社で判断することを分ける。 |
これらは組み合わせて使えます。
BCPの検討には、重要な事業や代替手段など、個別の手順書だけでは扱いきれない内容もあります。必要な範囲全体を確認することも忘れないでください。
5.担当者を決めるときは、権限と時間も一緒に決める
「総務に任せる」「詳しい人に頼む」という決め方だけでは、作業が止まる場合があります。
担当者が案を作れても、費用や事業の優先順位、他部署の役割までは決められないことがあるからです。
経営者は、少なくとも次の内容を明らかにしましょう。
- 誰が情報を集め、案をまとめるか。
- 誰が現場で実行できるかを確認するか。
- 誰が経営上の判断と承認を行うか。
- 担当者が作業する時間を、どう確保するか。
- 判断に迷ったとき、どこへ相談するか。
少人数の会社では、同じ人が複数を担当しても構いません。それでも、作業する役割と決定する役割を分けて考えると、何が未決定かが見えやすくなります。
一人で事業をしている場合も、考え方は同じ
個人事業主が一人で運営している場合は、自分が動けなくなる場面を考えます。
顧客への連絡、重要情報の確認、外部への相談など、どの準備が必要かを整理しましょう。
協力者や委託先を想定する場合は、相手が実際に対応できるか、依頼内容や契約、情報共有の範囲を確認することが必要です。
6.費用は、何の不足を補うためかで判断する
策定や運用には、打ち合わせ、情報整理、説明、訓練、更新などの時間が必要です。外部支援や設備、システムなどに費用がかかる場合もあります。
「なるべく安く済ませたい」と考えるのは自然ですが、価格だけでは必要性を判断できません。
たとえば、連絡先が分からない課題に対して、備蓄品を増やしても直接の解決にはなりません。データを復元できない課題は、連絡網を更新するだけでは解消しません。
支出する前に、何の不足を、どの方法で補うのかを確認しましょう。
社内で行う作業時間も、負担として見ておく
外部への支払いがなくても、担当者の時間は必要です。通常業務との調整をせずに仕事を追加すると、整備が後回しになるおそれがあります。
現在の確認待ちや再作業に使っている時間も把握し、どの負担を減らしたいか考えます。
ただし、策定による効果や将来の損失削減を、根拠なく金額に置き換える必要はありません。確認できる情報と、まだ分からないことを分けて判断してください。
7.最初の行動を、一枚にまとめる
話し合った内容を実行につなげるために、次の項目を書き出してみましょう。これは、自社の取組を整理するための例です。
| 決める項目 | 書き出す内容 |
|---|---|
| 優先して解決する課題 | 何が起きると、誰が、どのように困るのか。 |
| 目指す状態 | 何を確認でき、誰が動ければよいのか。 |
| 進める人と決める人 | 案の作成、現場確認、判断・承認の担当。 |
| 必要な準備 | 情報、作業時間、費用、外部の確認先。 |
| 実施時期 | 案を確認する日、説明や試行を行う日。 |
| 運用前の確認 | 安全や必要な要件、権限、連絡先に未解決の問題がないか。 |
| 運用後の確認 | 使う人が理解し、実際に必要な行動を取れるか。 |
| 見直す条件 | 人員・業務・設備・法令の変更や、訓練で分かった課題。 |
「BCPを整える」という大きな課題も、次に誰が何を確認するかまで決めれば、進めやすくなります。
ただし、この一枚だけでBCPや規程の整備全体が完了するわけではありません。必要な検討を進めるための管理に使ってください。
8.運用を始める前に、止まる場面を確かめる
案がまとまったら、使う人と具体的な場面を確認します。
たとえば、説明のための架空の状況として、「経営者と連絡が取れず、普段使うシステムも利用できない」と設定してみます。
その状況で、次のことを説明できるでしょうか。
- まず何を優先するか。
- 誰が、どこまで判断できるか。
- 必要な情報を、どの方法で確認するか。
- 顧客や取引先への連絡を、誰が行うか。
- 判断や対応の経緯を、どう共有するか。
ここで答えが止まった部分は、運用前に補いたい課題です。
安全や法令上の問題など、未解決のまま進められない項目があれば、確認が済むまで該当する運用を始めない判断も必要です。その間に必要な暫定対応は、別に整理しましょう。
9.「一度決めたら終わり」にしない仕組みを持つ
BCPやマニュアルは、策定時の人員、設備、取引、業務などを踏まえて作られます。
前提が変われば、内容も確認が必要です。変化に気づく人、改定する人、確認・承認する人、関係者へ伝える方法を決めておきます。
内閣府は、事業継続の取組について、方針と計画の策定、運用、教育訓練、点検、経営層による見直しを繰り返す考え方を示しています。
詳しくは、内閣府「事業継続 初めての方へ」をご覧ください。
法改正への対応も、運用の一部にする
法令や制度の変更については、公的機関、業界団体、顧問の専門家などから情報を得て、自社に関係するかを確認します。
すべてを経営者が暗記するのではなく、情報を受け取り、必要な確認と改定につなげる仕組みをつくりましょう。
また、BCPの運用上の変更と、就業規則などの正式な変更は区別します。文書の性質に応じて必要な手続きや周知を確認してください。
10.「昔からこうしている」を、見直せる会社にする
長年の経験や、現場の工夫は大切な財産です。その経験があるからこそ、今の仕事が回っている場合もあります。
ただし、その人だけが知っている状態では、ほかの人が同じように動けるとは限りません。
経験者が何を見て判断しているか、どの場面で相談しているかを共有すれば、その知識を職場全体で生かしやすくなります。
私が大切だと考えるのは、経験を否定することではなく、経験を、今いる人とこれから加わる人が使える形にすることです。
実態に合わない手順が見つかったら、担当者の工夫だけで乗り切り続けず、正式な見直しにつなげましょう。
11.会社員も、改善のきっかけをつくれます
経営上の最終判断は経営者や権限を持つ人が行いますが、現場から伝えられることは多くあります。
「この手順では対応できない」という指摘に加えて、具体的な状況を整理すると、改善の話し合いにつながりやすくなります。
- どの場面で迷ったのか。
- 何の情報や判断が足りなかったのか。
- 誰へ確認し、どの仕事が止まったのか。
- どのような変更があれば動きやすいか。
一方で、個人の判断で正式な規程を書き換えたり、必要な確認を省略したりすることは避けてください。改善提案と、実際の変更・承認の手続きを分けて進めます。
よくある質問
Q1.まずBCPとマニュアルのどちらから作ればよいですか?
自社の課題と、適用される義務や制度を確認して判断します。緊急時の事業の優先順位や代替手段が課題なら、BCPとして全体を考える必要があります。具体的な作業の抜けや説明の違いには、手順の整理が役立つ場合があります。
Q2.少しずつ作ってもよいですか?
対象を整理し、段階的に進める方法は考えられます。ただし、必要な要件や期限がある場合は、それを満たす対応が必要です。不足を把握し、担当者と実施時期を決めて進めましょう。
Q3.外部に依頼したほうが確実ですか?
外部支援が役立つ場面はありますが、依頼だけで実行できる体制が整うとは限りません。支援範囲、自社の作業、経営者が判断することを確認し、現場で使えるかを確かめてください。
Q4.マニュアルと違う対応をした人は、必ず注意すべきですか?
まず、実際の状況、本人の権限、判断理由、法令や安全への影響などを確認します。結果だけで評価せず、手順の不備や代替手段の不足がなかったかも検討しましょう。必要な指導や対応は、具体的な事情を踏まえて判断します。
Q5.文書を整えれば、災害やトラブルへの備えは十分ですか?
文書だけでは十分とは限りません。設備、資金、情報、協力先などの準備と、説明、訓練、見直しが必要になります。計画に書いた対応を、実際に行える状態か確認しましょう。
まとめ+要約
- BCPや社内ルールの目的は、必要な場面で判断し、行動できる状態をつくることです。
- 安全、適用される義務、事業への影響などから、優先する課題を選びます。
- 担当者、判断する人、時間、費用、外部支援を具体的にします。
- 運用前に使えるかを確認し、未解決の課題を明らかにします。
- 作成後も、訓練や業務・法令の変化に合わせて、改定と周知を続けます。
「決めると動きにくくなる」という心配は、ルールの作り方を考えるために必要な視点です。
同時に、「決まっていないために誰も動けない」「特定の人だけが負担を抱えている」という状態にも目を向けてください。
今日の一歩は、自社で最も困る場面を一つ選び、誰が、いつ、何を確認するかを決めることです。
その一歩を、必要な計画や規程の整備、実際の運用、継続的な見直しにつなげていきましょう。
自社に必要なルールと、動きやすい運用を一緒に考えてみませんか。
「BCPを作るべきか迷っている」「規程が古いままになっている」「社長がいないと判断が止まる」という場合は、現状の仕事と役割を整理することから始められます。
事業継続や経営上の備えについて、自社に合った進め方を検討したい方はご相談ください。労働条件や法的判断を伴う規程は、社会保険労務士や弁護士など、内容に合った専門家への確認も進めましょう。
参考資料
※本記事は、2026年10月25日時点で確認した公的資料を参考に、一般的な経営上の考え方を整理したものです。掲載した優先順位の考え方、運用方法、確認項目は検討のための例であり、特定の効果や法令適合を保証するものではありません。実際の整備や改定では、業種、適用される法令・制度、契約、労働条件、社内規程などに応じた確認を行ってください。