
努力義務を「現場で回る形」に落とす:エイジフレンドリー“5つの柱”の使い方
- Day2は「何をやれば努力義務を満たしやすいか」を“型”で示します。
- 基本は、厚労省のエイジフレンドリー(5つの柱)に沿って整理します。
- 中小規模でも回せるように、週1の点検→月1の振り返りに落とします。
- 高年齢者だけでなく、同じ職場で働く請負・個人にも効く考え方です。
- 次の一手は「1枚の点検シート」を作り、今週から運用を始めることです。
はじめに
事故が起きた後に「もっと早く気づけたはず」と悔やむ場面は、現場を持つほど増えていきます。 2026年4月から、高年齢の方がより安全に働けるように、事業者の取組が“努力義務”として整理されます。 本稿では、厚生労働省が示すエイジフレンドリーの考え方(5つの柱)を、難しい言葉を避けて、日々の運用に落とし込む方法としてまとめます。 具体的には「危ないところを先に見つける点検」「環境を少し直す」「体調に合わせて作業を調整する」を、週1・月1で回す形にします。 もし今日から小さく始められれば、来年4月を待たずに“事故の芽”を減らせる見立てが立ちます。
目次
2026年4月、何が変わるのか(誤解しやすい点)
まず押さえたいのは、「高年齢の方の労災を減らすために、必要な措置を進めること」が事業者の努力義務として整理され、 国がそのための指針(ガイド)を公表する、という枠組みです。 つまり、“やることが分からない”状態を減らすために、国が型を示すイメージです。
- 「努力義務=何もしなくてよい」ではありません。現場では、事故が起きると説明責任が残ります。
- 「大企業向けの仕組み」でもありません。小さな職場ほど“担当がいない”ぶん、型が効きます。
- 「高年齢の方だけの話」でもありません。転倒・腰痛対策などは全員の事故を減らします。
ポイントは、法律の条文を覚えることではなく、「取組を説明できる形」にしておくことです。 次章の“5つの柱”に沿っておけば、説明も改善もやりやすくなります。
迷ったらこの順番:エイジフレンドリー「5つの柱」
エイジフレンドリーの考え方は、現場で迷わないための“整理箱”です。
大きくは次の5つに分かれます。
※(ここでは難しい言葉を避け、現場の言い方に寄せています)
柱1:方針を決めて、役割を置く(トップのひと声+担当)
- 「高年齢の方の事故を減らす」方針を短い言葉で掲示(朝礼、チャット、壁でもOK)
- “見る人”を決める:現場リーダー/店長/工場長など(兼務で十分)
- 意見を聞く場を固定する:月1の5分ミーティングでもよい
「委員会を作る」より先に、“意見を聞く機会”を定例化すると回り始めます。議事録は箇条書き3行で十分です。
柱2:つまずき・転びを減らす(環境を少し直す)
- 段差、配線、床の滑り、暗い場所、手すりの有無をチェック
- 「よく通る動線」から直す(費用対効果が高い)
- 荷物の上げ下ろしが多い場所は、台車・置き場の見直し
高年齢の方は、視力・筋力・反応の変化が出やすい一方で、仕事の質は高いことも多いです。 だからこそ、“環境側を寄せる”のが効きます。
柱3:体調・体力の状態を把握する(無理が出る前に気づく)
- 健康診断の結果を「就業に活かす」動線を作る(見る人・相談先)
- 体力チェックをやるなら、安全第一で軽めに(やりすぎない)
- 本人のプライバシーに配慮し、扱う情報を最小化する
柱4:体調に合わせて仕事を調整する(作業・時間・配置の工夫)
- 重い物/脚立作業/夜間など、負担が大きい作業は“分ける・減らす”
- 休憩の取り方を見直す(回数・タイミング)
- 同じ作業の連続を避ける(ローテーション)
「人に合わせて仕事を調整する」は、甘やかしではありません。
事故と離職を減らし、現場の総合力を守る投資です。
柱5:伝え方を工夫して教育する(本人+管理する側)
- 本人向け:転倒防止、腰痛予防、ヒヤリの共有(短く、具体例で)
- 管理側向け:声かけのポイント、無理のサイン、作業の組み替え方
- 新人・応援者にも同じルールを伝える(属人化を防ぐ)
この5つは、「決める→見る→直す→合わせる→伝える」の流れになっています。 だから順番に沿うだけで、現場の混乱が減ります。
中小でも回る運用:週1の点検→月1の振り返り
“やること”が分かっても、続かなければ意味がありません。 ここでは、忙しい現場でも回しやすい最小構成を提案します。
週1(10分):現場の「危ない芽」を拾う
- チェックする場所は1か所だけ(入口/階段/倉庫など)
- 見る観点は3つだけ:つまずき/滑り/持ち上げ
- その場で直せるものは直す(テープ、片付け、照明の交換など)
月1(15分):決める(優先順位)→残す(メモ)
- 「今月直す1つ」を決める(大がかりな工事でなくてよい)
- ヒヤリ(事故未満)を1つ共有する
- 高年齢の方に限らず、現場の気づきを拾う
- 日付
- 見た場所(例:倉庫入口)
- 直したこと(例:段差にテープ、荷物を移動)
- 次回やること(例:手すり見積もり)
“完璧な書類”より、続くメモが勝ちます。
人は忙しいほど「後でやる」が増えます。 だから、週1・月1で“決め打ち”してしまうのが、実は一番の安全対策です。
フリーランス・個人事業主も含む現場の注意点
同じ職場で、社員・パート・請負(外注)・一人親方などが混ざる現場は増えています。 エイジフレンドリーの考え方は、そうした人たちにも参考になる前提で整理されているため、 「社員だけ守る」設計だと、現場の安全は穴が残りやすいです。
混在現場で起きやすい“すれ違い”
- 「誰が危険を伝える役か」が曖昧
- ルールが口頭で、外部の人に伝わらない
- 入退場が多く、教育が飛びやすい
最小の対策(これだけは)
- 危ない場所・作業の共有:紙1枚(掲示)+口頭30秒
- 保護具のルール:必要な場面を写真で示す(文章より強い)
- 連絡先:困ったときの窓口(担当者)を明確にする
※個人事業者等の安全衛生対策は、法改正の流れの中で整理が進んでいます。自社が「注文者側」になるケースもあるため、取引形態に応じて確認しておくと安心です。
まとめ+要約
- 2026年4月に向け、努力義務を“説明できる形”にしておくのが実務です。
- 迷ったら、エイジフレンドリーの「5つの柱」に沿って整理します。
- 中小は、週1の点検(10分)と月1の振り返り(15分)で回せます。
- 混在現場(外注・一人親方等)ほど、ルールの見える化が効きます。
- 働き方(休息・連絡・心のケア)の整備は、労災予防を底上げします。
Next Best Action:「週1点検」の1枚シートを作り、今週から運用を始めてください。
FAQ(よくある不安に先回り)
Q1. 努力義務なら、最低限どこまでやればいいですか?
“何をやっているか説明できる”のが最低ラインです。おすすめは、 ①週1点検の記録と②月1の改善(小さくてOK)の2点を残すことです。 完璧より、継続が勝ちます。
Q2. お金をかけないと効果は出ませんか?
いいえ。転倒・つまずき対策は、片付け・動線の見直し・照明など、 低コストで効果が出るものが多いです。まずは「よく通る場所」から着手してください。
Q3. フリーランスや外注の人まで同じように対応すべき?
同じ場所で作業するなら、現場の安全はつながっています。 最低でも「危ない場所の共有」「保護具のルール」「連絡先」だけは揃えてください。 事故が起きたとき、ここが差になります。
相談導線
📩 高年齢労働者の労災防止を「自社の実情に合わせて」整えたい方は、 こちらからご相談ください。 週1点検シート(ひな形)に落として一緒に設計できます。
※個別事情により最適解は変わります。まずは現場の状況(業種・人数・作業内容)を教えてください。