
最小で効くBCPの作り方
BCP ジギョケイ 中小企業 個人事業主 ひとり社長
Executive Summary(TL;DR 5行)
- BCPは分厚い資料でなくて大丈夫です。まずは「使える形」を作ります。
- 最初に決めるのは「止めない仕事トップ3」です(全部は守れません)。
- 次に「いつまでに戻すか(目標)」を決めると、やることが絞れます。
- 最後に「代替(場所・人・データ)」を用意して、動ける状態にします。
- この考え方は、ジギョケイ(事業継続力強化計画)に進む土台にもなります。
はじめに
「BCPって必要なのは分かる。でも、作る時間がない」——これは多くの中小企業・個人事業主の本音です。 しかも起業したばかりだと、BCPやジギョケイという言葉自体を、まだ知らないことも珍しくありません。
そこで今回は、最小で効くBCPを作る方法を、難しい言葉を避けて説明します。 ゴールは「完璧な計画」ではなく、いざという時に迷わず動ける状態です。
進め方はシンプルです。①止めない仕事を3つに絞る、②いつまでに戻すかを決める、 ③代替手段を用意する、④連絡と判断の流れを決める。この順で作れば、A4一枚でも回り出します。
※「ジギョケイ(事業継続力強化計画)」は、BCPの考え方を中小企業向けに進めやすく整理した制度として知られています。 申請・認定や支援策の有無は要件や時期で変わるため、活用する場合は必ず最新の公式情報で確認してください。
1) 最小BCPは「4つの箱」で足りる
BCPというと、立派な冊子や分厚い資料を想像しがちです。 でも、中小企業や個人事業主にとって大事なのは「続くこと」「使えること」です。
まずは次の4つの箱だけで十分スタートできます。
- 止めない仕事(上位3つ):非常時でも守りたい仕事は何か
- いつまでに戻すか(目標):何時間/何日で復旧したいか
- 代替手段(場所・人・データ):止まった時の“代わり”は何か
- 連絡・判断(誰が決めるか):混乱時に決める人と連絡順
この4つが埋まると、BCPは「文章」ではなく「行動」になります。 次の章から、順番に埋めていきましょう。
2) 手順①:止めない仕事トップ3を決める
いちばん大事なのはここです。 非常時に「全部やる」は無理です。だから、トップ3に絞ります。
よくあるトップ3の例(そのまま使ってOK)
- 受注・問い合わせ対応(返事が遅れると失注や不信につながる)
- 納品・提供(止まると契約や信用に影響する)
- 請求・入金(資金繰りに直撃する)
絞り込むコツ(迷う人向け)
- 売上に直結するか:止まると売上が落ちる
- 信用に直結するか:止まるとクレームや解約が増える
- 資金に直結するか:止まると入金が遅れる
起業直後で「まだ仕事の型が固まっていない」場合は、 まずは「連絡(顧客・取引先)」「お金(請求・入金)」「データ」の3点を優先にしておくと失敗しにくいです。
3) 手順②:「いつまでに戻すか(目標)」を決める
次に決めるのは、復旧の目標です。 難しい言葉は不要で、「いつまでに」が言えれば十分です。
目標の例(業務別)
- 受注・問い合わせ:24時間以内に返信を再開
- 納品・提供:3日以内に最低限の提供を再開
- 請求・入金:1週間以内に請求処理を再開
ここで目標を決めると、代替手段の「必要な強さ」が見えてきます。 たとえば「24時間以内に返信」なら、スマホで作業できる環境が必要、という具合です。
コツ:最初は「無理のない目標」でOKです。目標を高くしすぎると、準備が重くなって続きません。 BCM(運用)で、あとから段階的に強くすれば大丈夫です。
4) 手順③:代替手段(場所・人・データ)を用意する
BCPが「実際に動くかどうか」は、ここで決まります。 非常時は、普段の前提(オフィス・PC・担当者)が簡単に崩れます。 だからこそ、代わりを決めておきます。
代替(場所)
- 自宅で仕事ができるか(ネット、電源、最低限の機材)
- 別拠点はあるか(親族宅、知人オフィス、コワーキング等)
- オンライン会議・連絡はどのツールでやるか
代替(人)
- 自分が動けない時、誰が「顧客対応」を代行できるか
- 外注先・パートナーに依頼できる範囲はどこまでか
- 代行のために必要な情報(手順・パスワード管理など)はどこにあるか
代替(データ)
- 顧客リスト、契約、見積・請求、制作データはどこにあるか
- クラウドやバックアップはあるか(最低でも二重化)
- 「なくなると詰むデータ」は何か(上位5つを書き出す)
まずは「一番困るもの」から守りましょう。
例:顧客連絡先/請求データ/納品物/重要な契約書類
5) 手順④:連絡と判断の流れを決める
非常時に困るのは、「情報がバラバラ」「誰が決めるのか分からない」状態です。 ここを決めておくと、混乱が一気に減ります。
最低限決めること
- 状況を集める人:誰が情報を集めるか(ひとりなら自分)
- 判断する人:止める/続ける/縮小するを誰が決めるか
- 連絡の順番:まず誰に連絡するか(顧客?従業員?外注?)
連絡先リストのコツ
- スマホだけに入れない(紙 or PDFでも持つ)
- 「いざという時に必要な人」だけに絞る(多すぎると見ません)
- 主要顧客・主要仕入先は“最優先”枠を作る
起業直後の方へ:取引先が少ない今こそ、連絡の型を作るチャンスです。 後から増えるほど整備が面倒になります。
6) すぐ使える:A4一枚テンプレ(コピペ可)
ここまでの内容を、A4一枚に落とします。 まずは空欄があってもOK。埋めながら強くしていきましょう。
| 項目 | 記入例/メモ |
|---|---|
| 止めない仕事トップ3 |
1) 受注・問い合わせ対応 2) 納品・提供 3) 請求・入金 |
| 復旧の目標(いつまでに) |
受注返信:24時間以内 納品:3日以内に最低限再開 請求:1週間以内 |
| 代替(場所) |
自宅で対応/ネット環境あり/予備充電器あり 代替拠点:◯◯(住所・連絡先) |
| 代替(人) |
顧客連絡代行:◯◯(連絡先) 外注:◯◯(依頼できる範囲) |
| 代替(データ) |
顧客リスト:◯◯(保管先) 見積・請求:◯◯(保管先) 納品物:◯◯(保管先) |
| 連絡・判断 |
状況整理:◯◯ 判断:◯◯(ひとりの場合は自分) 連絡順:顧客→外注→家族(例) |
チェック(3分)
- トップ3は「言い切れる」状態ですか?
- 復旧目標は「いつまでに」が入っていますか?
- 代替(場所・人・データ)は1つでも書けていますか?
次回(Day3)の予告
Day3では、BCPやジギョケイを作っても「なぜ動けないのか」を、よくある失敗パターンで整理します。 小さな会社ほどハマりやすい落とし穴と、抜け出すコツをまとめます。
まとめ+要約
- BCPは分厚い資料でなくてOK。まずは「使える形」を作るのが先です。
- 最小BCPは「4つの箱(優先・目標・代替・連絡)」で作れます。
- 最初に「止めない仕事トップ3」を決めると、準備が現実的になります。
- 「いつまでに戻すか」が決まると、必要な代替手段が見えます。
- A4一枚テンプレで作って、BCM(点検・見直し)で育てていきましょう。
Next Best Action:今日中に「4つの箱」をA4一枚に書き出して、机の近くに置いてください。
FAQ(3問)
- Q1. BCPって、どの災害を想定すればいいですか?
- 最初は「起きやすい順」で十分です。たとえば、停電/通信障害/大雨・台風/体調不良(自分が動けない)/PC故障など。 ひとり事業の方は「自分が動けない」を必ず入れてください。
- Q2. 代替手段って、お金をかけないと無理ですか?
- いきなり大きな投資は不要です。まずは「連絡」「優先業務」「データの最低限の保全」など、決め事・運用で効果が出る所から始めましょう。 必要な投資は、BCMで点検しながら段階的に検討すればOKです。
- Q3. ジギョケイ(事業継続力強化計画)に進むメリットは?
- 取り組みを外部に説明しやすくなったり、社内で「やる理由」を作りやすくなったりします。 ただし、申請・認定や支援策の有無は要件があるため、活用する場合は最新の公式情報を確認してください。
📩 「自社だとトップ3が決められない」「A4一枚に落とせない」という方は、 こちらからご相談ください。10分で“最小で効く形”に整えます。