
90日で整える:高年齢労災対策ロードマップ(体制・点検・改善・教育・記録)
- 90日あれば「やったつもり」ではなく「回る仕組み」まで作れます。
- 順番は、体制 → 点検 → 小さな改善 → 教育 → 記録 がいちばん早いです。
- 改善は“全部やらない”。今月直す「1つ」を決めるだけで前に進みます。
- 補助金(エイジフレンドリー等)は、使える年に“効く改善”へ当てると強いです。
- Next Best Action:今日、点検担当と「今週見る場所1つ」を決めてください。
はじめに
安全対策は、大きな設備投資よりも「続く仕組み」が先です。 たとえば転倒・腰痛は、手すりや床材も大切ですが、それ以上に 「危ない場所を見つける」「小さく直す」「同じ失敗を繰り返さない」ことが効きます。
Day4では、2026年4月の努力義務化に向けて、90日で現場が回る状態を作る手順をまとめます。 難しい言葉はできるだけ避け、“忙しい中でもできる形”だけに絞ります。
目次
90日ロードマップ全体像(やる順番)
- 体制(決める:方針/担当/相談先)
- 点検(見る:場所を絞って週1)
- 改善(直す:今月1つだけ)
- 教育(そろえる:注意でなく手順)
- 記録(残す:4項目で十分)
目標(90日後の状態)
- 点検が週1で回っている(担当が決まっている)
- 改善が月1で進んでいる(今月直す1つが決まる)
- 教育が短い型で統一されている(誰が言っても同じ)
- 記録が残っている(何をやったか説明できる)
やらないこと(最初は捨ててOK)
- 最初から完璧なマニュアルを作る
- 全箇所を一度に直す
- 会議を増やす(朝礼の最後に5分で十分)
- 難しい指標を増やす(まず4項目だけ)
※このシリーズの狙いは「形式を整える」より「事故を減らす」です。回る形を先に作りましょう。
0〜2週:体制とルールの最小セット
(1)経営者の“ひと言”を決める(短く)
長い方針は伝わりません。例としては、こんな形で十分です。
- 「転倒と腰痛をゼロに近づける」
- 「脚立作業は“統一ルール”でやる」
- 「危ない場所は“その日に直す”」
(2)担当を1人置く(兼務でOK)
専任がいなくても回ります。現場の一番近い人(店長・班長・工場長など)を1人決めてください。 担当の仕事は「全部やる」ではなく、回すことです。
(3)相談先と連絡先を決める
- 社内:困ったときに誰に言うか(担当+経営者)
- 社外:必要なら社労士・安全衛生の専門家・産業保健の相談窓口
- 週1点検シート(紙1枚)
- 月1ふり返りメモ(箇条書きでOK)
- 混在現場の「1分説明」紙1枚(危険3つ+立入禁止+連絡先)
3〜6週:点検 → 小さな改善(費用対効果が高い順)
週1点検(10分):場所は1つだけ
“全部見る”は続きません。まずは、事故が出やすい場所を1つに絞ります。 例:入口、階段、倉庫入口、バックヤード、荷受け、脚立置き場。
見る観点(3つだけ)
- つまずき(段差・配線・暗さ)
- すべり(濡れ床・油・粉・雨の日)
- 腰(持ち上げ・ひねり・台車の距離)
点検で“その場で直す”例
- 通路の仮置き撤去(置き場を決める)
- 段差の見える化(テープ・表示)
- 滑りやすい場所にマット/拭き道具の固定
- 脚立の置き場固定/ぐらつきのあるものの隔離
月1改善:「今月直す1つ」を決める
1か月に1つでいいです。大切なのは、決めることと、残すことです。 例としては次のような改善が、事故予防に直結しやすいです。
- 照明を足す(影で段差が消える場所が狙い目)
- 手すり・つかむ場所を作る(階段・段差付近)
- 脚立を1種類に統一する(混在は事故のもと)
- 重量物の置き場を腰の高さに寄せる(床置き削減)
- 台車を“作業の入口”に寄せる(手運びを起こしにくく)
ここまでで、現場はかなり変わります。次は「伝え方」を揃えて、属人化を減らします。
7〜10週:教育(5分で伝わる形に統一)
“注意して”をやめて、“手順”にする
「気をつけてね」は、人によって意味が違います。事故を減らすのは、行動まで言い切る教育です。
- 今日の危険(1つ)
- やる手順(3つまで)
- ダメな例(1つ)
- 困ったら誰に言うか(担当)
教育のテーマは「転倒・脚立・腰痛」から
- 転倒:段差・照明・濡れ床・動線(“どこを通るか”)
- 脚立:種類統一・置き場・使用前チェック3つ
- 腰痛:持ち方より「持たない」動線(台車・置き場)
管理する側にも“声かけのコツ”を渡す
- 「無理しないで」ではなく「台車で」「2人で」「休憩はここで」まで言い切る
- 急がせる場面ほど、ルールを短く固定する(ブレを減らす)
11〜13週:記録(未来の自分を助ける4項目)
記録は“守り”だけではありません。改善の地図になります。 ただし、重くすると続きません。4項目で十分です。
記録の4項目(これだけ)
| 項目 | 書き方の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 日付 | 12/16(火) | 週1点検のたびに |
| 場所 | 倉庫入口 | 1か所に絞ると続く |
| 直したこと | 段差にテープ/通路の仮置き撤去 | その場でできたことを残す |
| 次回やること | 照明追加の見積もり | “次の一手”が迷子にならない |
書く量は増やさない。続く形が正解です。
紙でも、スマホのメモでも、共有フォルダでもOKです。
役割分担(誰が何をやるか)
難しい言い方をすると「役割分担」ですが、要は“迷わない担当表”です。 小さな会社ほど、ここがあると強いです。
最小の役割分担(例)
| 役割 | やること | 担当(例) |
|---|---|---|
| 方針を決める | 優先順位(転倒・腰痛など)を短く宣言 | 経営者 |
| 点検を回す | 週1点検・写真・メモを残す | 現場リーダー |
| 改善を決める | 月1で「今月直す1つ」を決める | 経営者+現場 |
| 教育を揃える | 5分教育の型で、言い方を統一 | 現場リーダー |
| 外部へ相談 | 必要に応じて専門家へ相談・助言を受ける | 経営者 |
※「安全担当を増やす」より、「いまいる人の役割を固定する」ほうが現実的です。
お金の話:補助金の考え方(エイジフレンドリー等)
先にお伝えすると、補助金は「いつでも誰でも」ではありません。 受付期間や要件があり、年度で変わることもあります。 だからこそ、使える年に“効く改善”へ当てる、という考え方が大切です。
- まずは現場で「危ない場所・作業」を絞る(点検)
- 改善案を小さく書き出す(手すり/照明/滑り対策など)
- その改善が補助対象になりそうか一次情報で確認
- 必要なら専門家の助言も含めて申請を考える
エイジフレンドリー補助金(高年齢の労災防止の設備改善 等)
高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導の経費を補助する制度があります。 たとえば手すり、滑り対策、照明、転倒防止につながる改善など、現場の対策に直結しやすいのが特徴です。
例:令和7年度(2025年度)は申請受付期間が設定され、締切後は新規申請ができない旨が公表されています。 最新の募集状況は、必ず公式ページで確認してください。
勤務間インターバル(休息時間の確保)に関する支援
勤務間インターバルは2019年から導入が努力義務とされています。 シフトや就業ルールを整えることで、疲れを減らし、転倒・判断ミスの予防にもつながります。 制度導入に関する助成の案内が出ている年もあるため、該当する場合は確認しておくと安心です。
“補助金がなくても”先にやるべき改善(低コスト優先)
- 通路の仮置きをやめる(置き場固定)
- 段差の見える化(テープ・表示)
- 濡れ床の拭き道具を固定する(誰でもすぐ使える)
- 脚立の種類を統一する(混在をなくす)
- 台車を作業の入口に寄せる(手運びを減らす)
FAQ
Q1. 90日で本当に間に合いますか?
「完璧な形」ではなく「回る形」なら十分に可能です。 週1点検(10分)と月1改善(15分)を固定するだけで、現場は目に見えて変わります。
Q2. 大きな設備投資ができません。
最初は低コストの改善で十分です。転倒は照明・段差・動線で減らせますし、 腰痛は“持たない動線”に寄せるだけでも効果があります。
Q3. 高年齢の方に「配慮」を言い出しにくいです。
「年齢」ではなく「事故を減らす職場づくり」として話すのがコツです。 転倒・腰痛は全員に起きるため、全体のルールとして整えると受け入れられやすくなります。
Q4. 外注・フリーランスが多い現場は、どこを優先すべき?
まずは「1分説明(危険3つ+立入禁止+連絡先)」を毎回やることです。 ルールが届かないと、いちばん大きな穴になります。
まとめ/次の一手
- 90日で作るべきは「仕組み」。順番は体制→点検→改善→教育→記録。
- 改善は“今月1つ”でいい。決めて残すだけで進みます。
- 教育は5分の型で統一し、「注意」ではなく「手順」を伝える。
- 記録は4項目で十分。続く形が最強です。
- 補助金は使える年に“効く改善”へ。当年の募集要件は一次情報で確認。
Next Best Action:今日、点検担当と今週見る場所1つを決めてください(10分点検からスタート)。
相談
📩 「うちの現場だと、90日で何を優先すべき?」を一緒に整理したい方は、
こちらからご相談ください。
業種・人数・作業内容(脚立/重量物/通路の状況)が分かれば、点検シートまで落とし込めます。
※個別事情で最適解は変わります。まずは“危ない場面トップ3”から整理します。
※補助金や助成金は年度・受付期間・要件が変わる場合があります。必ず最新の一次情報でご確認ください。