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パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメントを法律用語抜きで整理する

パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメントを法律用語抜きで整理する

Executive Summary(要点5行)

  • ハラスメントは「やった側のつもり」ではなく「された側の受け止め方」で判断されます。
  • パワハラのカギは「立場の強さ」「行き過ぎ」「職場環境への悪影響」の3つです。
  • セクハラは「性的な言動」による不利益か、職場の空気が悪くなるかで判断します。
  • マタハラ・育児介護ハラは、制度の利用や妊娠・出産・介護に関する言動がポイントです。
  • 経営としては「グレーなら止める」「迷ったら相談させる」シンプルなルールが重要です。

導入

「それくらい普通の指導でしょ」「昔は誰でも耐えていた」という言葉が通用しなくなりつつある一方で、 現場では「どこからがアウトなのか」が分からず、上司も部下も身動きが取れなくなっている場面が増えています。 2020年代に入り、パワハラやセクハラの防止措置は企業の義務となり、今後もカスタマーハラスメントなど 新たな分野での義務化が進む見通しの中で、まず「基本の型」を押さえておくことは、中小企業にとっても避けられない課題です。

本稿では、「パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメント」という4つのハラスメントを対象に、 難しい条文や判例の話は脇に置き、現場で使える言葉で整理します。 中心となるのは、「どんな言動が問題になりやすいのか」「厳しい指導と何が違うのか」 「相談されたときにどう動くか」という3つの視点です。

具体的には、国が示している定義や代表的なパターンをかみ砕きながら、 「これはハラスメントになる?ならない?」というミニケースで感覚をそろえ、 最後に相談を受けたときの初動ルールを整理します。 法律の細部よりも、「会社としてどのラインで止めるのか」を共通認識にすることをゴールにします。

もし本稿をもとに、自社の指導スタイルや冗談の文化、妊娠・出産・育児介護への向き合い方を一度見直すことができれば、 2026年以降さらに強まるハラスメント関連の要請に対しても、 慌てずに対応できる土台作りにつながるはずです。

1. ハラスメントを一言でいうと何か

ハラスメントは、一言でいえば 「立場や力の差を背景にした言動が行き過ぎて、相手の働きやすさを壊してしまうこと」 です。ここで大事なのは、「行った側のつもり」ではなく、 「された側や周りがどう受け止めたか」が基準になるという点です。

もちろん、受け手が「嫌だと言ったから即アウト」という単純な話ではなく、 業務上必要な指示や注意との区別もあります。 そのため、国のガイドラインでは、パワハラについて 「立場の優位」「業務上必要な範囲を超えている」「就業環境を害している」 といった要素で判断すると整理されています。

いずれにせよ、経営としては細かな法解釈よりも、 「相手や周囲が萎縮して何も言えなくなるような状態は避ける」 というシンプルな原則を共有しておくことが、第一歩になります。

2. パワハラの3要素と6パターン(かみ砕き版)

パワハラは、職場のハラスメントの中でも特に相談件数が多く、 中小企業でも問題になりやすい分野です。 まずは「3要素」と「6つの典型パターン」を、法律用語をできるだけ使わずに整理します。

2-1. パワハラの3要素(ざっくり版)

国の定義をかみ砕くと、パワハラは次の3つがそろったときに成立するイメージです。

  • 立場の差があること:上司と部下、先輩と後輩、ベテランと新人など、物を言いづらい関係かどうか。
  • 行き過ぎていること:仕事上必要だとしても、やり方・回数・場所が明らかに度を超えていないか。
  • 働きづらくなっていること:怖くて職場に行きたくない、周りも萎縮しているなど、雰囲気を悪くしていないか。

逆にいえば、冷静で具体的な指示・注意であれば、 たとえ本人がその場では「きつい」と感じても、 多くの場合パワハラとはみなされません。 問題は、これがエスカレートして、 人格否定・さらし者・過度な仕事の振り方などになってしまう点です。

2-2. 6つの典型パターン

現場でよく問題になるのは、次の6パターンです。

  • ① からだへの攻撃:叩く、蹴る、物を投げる、机を強く叩くなどの行為。
  • ② ことば・態度での攻撃:人格否定の暴言、長時間にわたる罵倒、大勢の前での叱責など。
  • ③ 仲間外れ・無視:業務連絡から意図的に外す、あいさつを返さない、会議に呼ばないなど。
  • ④ 仕事の押しつけ・無理な要求:明らかに一人ではこなせない量の仕事を与え続けるなど。
  • ⑤ 仕事を与えない・能力以下の仕事ばかり:理由もないのに単純作業だけをさせる、戦力外扱いにするなど。
  • ⑥ プライベートへの過干渉:家庭や恋愛、健康状態などをしつこく詮索する、家族のことを悪く言うなど。

これらは「完全アウト」の例だけでなく、 言い方や頻度、場所によってはグレーゾーンにとどまる場合もあり得ます。 しかし経営としては、「グレーゾーンならやめる」「迷うものは相談する」という 安全側のルールを決めておいた方が、長期的には会社を守ることにつながります。

3. セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメントのポイント

パワハラに加えて、必ず押さえておきたいのが 「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産等に関するハラスメント」 「育児・介護休業等に関するハラスメント」です。 ここでは、経営者が理解しておきたい「ツボ」だけを絞って整理します。

3-1. セクハラ:性的な言動で職場の空気を壊すこと

セクハラは、簡単にいうと 「性的な言葉・行動が原因で、不利益を受けさせるか、職場の空気を悪くしてしまうこと」 です。

代表的には次の2パターンがあります。

  • 不利益型(対価型):誘いを断ったことで評価や配置に影響するなど、仕事上の不利益につながるもの。
  • 環境悪化型(環境型):飲み会や日常会話で、性的な冗談・からかい・身体への接触が続き、職場が居づらくなるもの。

ここで重要なのは、「冗談のつもり」「仲が良いから大丈夫」という 送り手側の感覚は、判断基準にならないという点です。 また、相手の性的指向や性自認、同性か異性かにかかわらず、性的な言動はセクハラになり得ます。

3-2. マタハラ:妊娠・出産にまつわる嫌がらせや不利益

いわゆるマタハラ(マタニティハラスメント)は、 妊娠・出産・つわり・産休などに関する言動が原因で、 本人の働きづらさや不利益につながるものです。

例えば、次のようなケースが典型です。

  • 「このタイミングで妊娠されると迷惑だ」と繰り返し言う。
  • 妊娠や産休を理由に、明確な説明もなく降格・配置転換をする。
  • つわりで体調が悪いことをからかったり、他の社員の前で揶揄する。

一方で、業務の安全や適切な配慮のために仕事の内容や勤務時間を調整することは、 必ずしもマタハラではありません。 「本人の健康や安全を守るため」「職場全体の安全のため」という 客観的な理由と説明があるかどうかが重要になります。

3-3. 育児・介護ハラスメント:制度利用や働き方を理由とした圧力

育児休業・短時間勤務・看護休暇、介護休暇・介護休業など、 各種制度の利用や働き方の変更に関する言動が原因で起きるのが、 育児介護ハラスメントです。

代表的には、次のようなパターンがあります。

  • 「子どもが小さいから責任ある仕事は任せられない」と一律に外す。
  • 制度の利用を申し出た社員に対して、「みんなに迷惑」「評価に響く」と繰り返し圧力をかける。
  • 介護のための早退・休暇取得を、冗談めかしながら否定的に言い続ける。

こちらも、業務の調整や安全配慮のための話し合い自体は必要ですが、 一方的な決めつけや、合理的な理由のない不利益な扱いは、 ハラスメントと受け止められるリスクが高くなります。

4. 「これはハラスメント?」を判断する3つの質問

実務では、「教科書に載っているような典型例」よりも、 グレーゾーンかどうかの判断に悩む場面が多いものです。 ここでは、現場で使えるシンプルなチェックとして、 次の3つの質問を紹介します。

  1. 立場の差を利用していないか?
  2. 目的のために、本当にそのやり方が必要か?
  3. 同じ場面を第三者に見せても説明できるか?

4-1. 立場の差を利用していないか?

上司・先輩・長年の顧客など、立場の差があると、 相手は本音を言いづらくなります。 その関係性を分かった上で、 「相手が断れないことをいいことに強く出ていないか」を振り返るだけでも、 かなりのケースは未然に防げます。

4-2. 目的のために、本当にそのやり方が必要か?

叱る・注意する・配置転換するなどの行為自体は、 どの会社でも必要です。 問題は、「目的を達成するうえで、他にやり方はなかったのか」という点です。

例えば、「毎日1時間、皆の前で怒鳴り続ける」「私生活を持ち出して人格を否定する」 といったやり方は、目的が指導であったとしても、 明らかに行き過ぎと見なされる可能性が高くなります。

4-3. 同じ場面を第三者に見せても説明できるか?

自分と相手だけの関係では「冗談のつもり」でも、 客観的に見ると不適切な場面は多くあります。 そこで、 「このやり取りを録画して、他の役員や顧問社労士に見せても説明できるか」 を想像してみると、判断しやすくなります。

説明に困る、あるいは「これを見られたらマズい」と感じる場合は、 少なくともグレーゾーンであり、 経営として止める・見直すべきサインだと考えてよいでしょう。

5. 相談を受けたときの初動ルール

ハラスメント対策で一番大事なのは、 「相談があったときにどう動くか」です。 ここで対応を誤ると、問題がこじれ、 会社への不信感や外部への相談につながるおそれがあります。

中小企業でも今日から実践できる、初動のポイントを5つに整理します。

  1. まず否定もジャッジもしない
    「気にしすぎ」「そんな大げさな」といった言葉は厳禁です。 事実関係の判断は後回しにして、「話してくれてありがとう」と受け止めます。
  2. メモを取りながら、事実と感情を分けて聞く
    いつ・どこで・誰が・何をしたのかという「事実」と、 どう感じたのかという「気持ち」を、丁寧に聞き分けます。
  3. 守れる範囲・守れない範囲を正直に伝える
    「誰にも言わない」と約束してしまうと、調査ができなくなります。 ただし、必要最小限の人にしか共有しないことは約束できます。
  4. 一人で抱え込まず、社内外の窓口と連携する
    経営者・役員・人事・顧問社労士など、誰と連携するかをあらかじめ決めておきます。
  5. 当事者双方の安全・健康を優先する
    働く場所やシフトの一時的な調整、産業医やメンタルヘルス窓口の案内など、 体と心を守る対応を最優先します。

この初動フローをA4一枚にまとめておき、 管理職や窓口担当者がいつでも見られるようにしておくと、 いざというときにも慌てず対応できるようになります。

まとめとNext Best Action

  • ハラスメントは「立場の差」「行き過ぎ」「働きづらさ」の3点で考えると整理しやすい。
  • パワハラには6つの典型パターンがあり、「厳しい指導」との線引きはやり方と頻度にある。
  • セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメントは、人生の節目や制度利用に関する言動が引き金になりやすい。
  • グレーな場面では「立場の差」「必要性」「第三者に見せられるか」の3つの質問が有効である。
  • 相談があったときの初動ルールをあらかじめ決めておくことが、会社と人を守る鍵となる。

Next Best Action:管理職・窓口担当者向けに、「相談を受けたときの初動フロー」をA4一枚で作成し、次回の会議で共有する時間を30分だけ確保してみてください。

FAQ(よくあるご質問)

Q1. 叱ること自体がハラスメントと言われてしまわないか心配です。

叱る・注意すること自体は、ハラスメントではありません。 問題は、やり方・頻度・場所です。 人格否定や大声での叱責、長時間にわたる説教、皆の前でのさらし者といった方法を避け、 事実と期待する行動に絞ってフィードバックすることで、 指導とハラスメントの線引きがしやすくなります。

Q2. 冗談のつもりで言った一言でも、セクハラになることはありますか?

はい、あります。 「冗談のつもり」「仲がいいから」という送り手の意図ではなく、 受け手や周囲がどう感じたかが基準になります。 特に、体型・年齢・服装・恋愛・結婚・妊娠などに関する発言は、 本人が触れてほしくないテーマであることも多いため、 業務に関係のない話題として避けるのが安全です。

Q3. 法律のことがよく分かりません。専門知識がなくても対応できますか?

すべての条文を理解する必要はありません。 経営として大事なのは、 「ハラスメントをしない・させない・見過ごさない」という方針を明確にし、 相談窓口と初動フローを整えることです。 個別ケースの判断に迷う場合は、 顧問社労士や専門窓口と連携しながら進めればよく、 その前段として本稿のような「基本の型」を社内で共有しておくことが有効です。

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