
2026年分(令和8年分)の生命保険料控除をテーマにした、全5回シリーズのDay2の記事です。
控除額アップに飛びつく前に:保険と家計のバランスを整える3つの視点
この記事の要点(5行でサッと理解)
- 生命保険料控除は「払った保険料の一部を、税金計算の前に差し引いてくれるしくみ」です。
- 2026年分は、23歳未満の扶養親族がいる人を対象に、一般生命保険料控除の上限が一時的に広がる予定です。
- ただし、控除が増えても「保険料という固定費」が増えれば、家計が苦しくなる可能性があります。
- 大切なのは、保険だけでなく「家計全体とのバランス」を見ることです。
- 今日は、保険と家計のバランスを整える「3つの視点」と、かんたんな数字イメージをお伝えします。
2026年分の所得税では、23歳未満の子どもなどを扶養している世帯を中心に、生命保険料控除の一部が「1年だけ」手厚くなる予定です。 「控除枠が増えます」「今がチャンスです」と聞くと、つい「それなら保険を増やしたほうが得なんだろうな」と思ってしまいがちです。
しかし、税金が少し軽くなる一方で、毎月の保険料という固定費は確実に増えます。 家計にとって本当にプラスになるかどうかは、「控除額」だけではなく、「家計全体とのバランス」を見ないと判断できません。
今回のDay2では、まず生命保険料控除のしくみをやさしく整理し、そのうえで 「保険と家計のバランスを整える3つの視点」をご紹介します。 記事を読み終えるころには、「控除枠が広がるから入る」のではなく、「家計を守るためにどう使うか」という考え方に、少しずつ切り替えられるはずです。
1. 生命保険料控除の基本:どこで税金が軽くなるのか
1-1. 税金のざっくり構造
所得税の計算は細かいルールがたくさんありますが、イメージとしては次のような流れです。
年収 − 各種控除(基礎控除・扶養控除・生命保険料控除など)= 課税される所得
課税される所得 × 税率 = 所得税
生命保険料控除は、この「各種控除」のひとつです。 払った保険料に応じて、税金をかける前の金額を少し小さくしてくれるので、その分だけ所得税が軽くなるしくみになっています。
1-2. 3つの区分があるが、考え方は共通
現行の生命保険料控除には、大きく3つの区分があります。
- 一般生命保険料控除(主に死亡保障など)
- 介護医療保険料控除(医療・がん・介護など)
- 個人年金保険料控除(一定の条件を満たす個人年金など)
区分ごとに「いくらまで控除できるか」の上限額が決まっていて、 3つを合わせた全体の上限も決まっています。 細かい計算式はありますが、「払えば払うほど無制限に控除できるわけではない」という点だけ押さえておけば、家計判断には十分です。
2. 2026年の時限措置は「どこが増える」のか
2-1. 一般生命保険料控除の上限が、特定の世帯で「一時的に」広がる
Day1でも触れたとおり、2026年分(令和8年分)の所得税では、 23歳未満の扶養親族がいる人について、 一般生命保険料控除の上限額が一時的に引き上げられる予定です。
現行では、一般生命保険料控除の所得控除の上限額は4万円ですが、 2026年分に限り、対象となる人は 上限6万円まで控除できる特例が設けられます。 (介護医療保険料控除・個人年金保険料控除と合わせた全体の上限は、現行と同じ12万円のままです。)
※制度の詳細や最終的な内容は、今後の法令・通達等で確認が必要です。最新情報は財務省・国税庁などの公的情報をご確認ください。
2-2. 「子育て世帯の自助努力を応援する」位置づけ
この時限措置は、子どもを扶養している世帯の 「万一のときの生活資金の備え」を税制面から後押しする狙いがあります。 ただし、あくまで 「保険に加入・継続している人に対して、税金を少し軽くする」仕組み であり、「加入しないと損をする」仕組みではありません。
ここを取り違えると、「控除のために保険に入る」という逆転した考え方になり、 家計にとってはかえって負担が重くなってしまうことがあります。
3. 控除メリットを「ざっくり数字」でイメージしてみる
3-1. 保険料が増えると、税金はいくらくらい軽くなる?
生命保険料控除の効果は、「増やした保険料 × 自分の税率」でざっくりイメージできます。 実際には住民税も関係しますし、税率も人によって違いますが、 ここではあくまで「感覚」をつかむための例としてご覧ください。
たとえば、次のようなケースを考えてみます。
- 新たに、年間2万円ぶん保険料を増やしたとします。
- その2万円ぶんが、まるごと控除の対象になると仮定します。
- 所得税の税率(限界税率)が10%の人の場合、
税金の軽減額はおおよそ2万円 × 10% = 2,000円です。
この場合、年間2万円の保険料を払うことで、 所得税はおよそ2,000円軽くなります。 つまり、「増やした保険料の一部が税金として戻ってくる」イメージです。
※実際の税額計算は、他の控除や住民税なども含めて行われます。ここでは理解を助けるための「簡略化した例」として示しています。
3-2. 「控除で得した分」より「増えた保険料」のほうが大きい
先ほどの例では、
- 増やした保険料:2万円
- 税金の軽減額:およそ2,000円
となるため、差し引き 「実質1万8,000円を払って、保障を手に入れている」 と考えることができます。
ここからわかる大事なポイントは、 「控除で得した分」より「増えた保険料」のほうが金額としては大きい ということです。 だからこそ、 「控除枠を使い切るために保険を増やす」ではなく、 「その保険料を払っても家計が無理なく回るか」を見る必要があります。
4. 保険と家計のバランスを整える3つの視点
では、2026年の控除拡大を前に、どのような視点で「保険と家計のバランス」を考えればよいのでしょうか。 ここでは、特に大切な3つの視点を整理します。
4-1. 視点①:固定費としての「保険料の重さ」
1つ目は、「保険料が、手取り収入に対してどれくらいの割合を占めているか」です。 すでにDay1でも触れましたが、ここは何度でも確認したいポイントです。
- 手取り月収に対して、保険料が何%になっているか
- 「なんとなく高いな」と感じていないか
- 教育費・住宅ローン・老後資金など、他の優先度の高い支出を圧迫していないか
税金が少し軽くなっても、 毎月の固定費が増えすぎると、家計の「安全運転」が難しくなります。 逆にいえば、 「月々いくらまでなら、家計に負担なく保険料を払えるか」 を先に決めておくと、控除枠との付き合い方も見えやすくなります。
4-2. 視点②:保障内容が「わが家のリスク」と合っているか
2つ目は、「何のための保険なのか」という視点です。 控除が増えるからといって、目的のあいまいな保険を増やしてしまうと、 必要なときに十分な保障がなく、不要なところにお金をかけている、という状態になりかねません。
- 万一のとき、誰の生活費を、何年間分守りたいのか
- すでに住宅ローンに団体信用生命保険が付いているかどうか
- 健康保険や遺族年金など、公的な保障をどの程度見込めそうか
これらの整理をしたうえで、 「足りない部分を民間保険で補う」のが基本です。 控除を目的に保険を選ぶのではなく、「わが家のリスク」に合わせて保険を組み立てる という順番を大切にしましょう。
4-3. 視点③:家計全体とライフプランとのバランス
3つ目は、「家計全体とライフプランの中で、保険にどれだけお金を回せるか」という視点です。
- これから必要になりそうな大きな支出(教育費・住宅購入・車の買い替えなど)は何か
- 老後資金の準備は、今どのくらい進んでいるか
- 貯蓄や資産運用に回したいお金とのバランスは取れているか
保険も貯蓄も、どちらも「将来の安心」のためのお金です。 しかし、どちらか一方に寄りすぎると、もう一方が足りなくなります。 たとえば、 保険ばかり手厚くして貯蓄がほとんどない状態 は、毎月の支払いが重く、ちょっとした出費にも不安を感じやすくなります。
2026年の控除拡大は、 「保険を増やすかどうか」を考えるきっかけであると同時に、 「家計全体のバランスを見直すきっかけ」 として活かすのが、より健全な使い方だと言えるでしょう。
5. 今日からできる家計見直しフロー(3ステップ)
最後に、2026年を待たずに今日からできる、 かんたんな家計見直しの流れを3ステップでまとめます。
ステップ1:現在の保険と固定費を一覧にする
- 加入している保険(生命・医療・がん・学資など)を書き出す
- それぞれの「目的」と「月々(または年払い)の保険料」をメモする
- 携帯・サブスク・習いごとなど、他の固定費も横に並べてみる
まずは、「いくら何に払っているのか」を見える化することが出発点です。
ステップ2:万一のときの必要額と、公的保障をざっくり確認
- 今の生活費を何年分くらいカバーしたいか(例:10年分など)
- 住宅ローンがある場合、団体信用生命保険の内容を確認する
- 遺族年金や会社の保障制度(死亡退職金・弔慰金など)の概要を確認する
「必要な金額」と「公的な保障や会社の制度」を照らし合わせることで、 民間保険で補うべき金額のイメージが見えてきます。
ステップ3:無理のない保険料の上限ラインを決める
- 手取り月収に対して、保険料は何%までなら安心かを考える
- 教育費や老後資金に回したい金額を差し引いてみる
- そのうえで、2026年の控除拡大を「どの程度活用するか」を検討する
このステップまで整理しておくと、 保険の相談に行ったときも、 「控除枠を使い切りましょう」ではなく、「この上限の中でベストな提案をしてください」 と、こちらから主導権を持って話を進めやすくなります。
6. まとめとNext Best Action
6-1. 今日のまとめ(5ポイント)
- 生命保険料控除は、保険料の一部を税金計算の前に差し引いてくれる仕組みで、税金が少し軽くなります。
- 2026年分は、23歳未満の扶養親族がいる人などを対象に、一般生命保険料控除の上限が一時的に6万円まで広がる予定です。
- しかし、控除による「得」よりも、増えた保険料という固定費のほうが金額として大きくなりやすい点に注意が必要です。
- 保険と家計のバランスを考える際は、「保険料の重さ」「保障内容」「家計全体とライフプラン」の3つの視点が重要です。
- 控除枠は「家計を守るためにどう活用するか」という発想で向き合うと、2026年の時限措置も味方につけやすくなります。
6-2. Next Best Action(次の一手)
今払っている保険料の総額と、その目的を書き出し、 「この金額を毎月払っていても、家計に無理がないか」を家族で話し合ってみましょう。
明日のDay3では、 ファミリー世帯と独身サラリーマンそれぞれについて、「得するケース」「損するケース」のイメージ を、もう少し具体的な事例を交えながら整理していきます。
7. よくある質問(Q&A)
Q1. 控除枠が広がるなら、その枠いっぱいまで保険に入ったほうが得ではないですか?
A. 控除枠を使うことで税金は軽くなりますが、同時に保険料という固定費も増えます。 増えた保険料より控除による軽減額のほうが小さいことが多いため、 「控除枠を使い切ること」自体を目的にするのはおすすめできません。 まずは家計に無理のない保険料水準を決め、その範囲の中で控除枠をどう活用するかを考えることが大切です。
Q2. 税金が安くなるなら、貯蓄性の高い保険を選んだほうがいいですか?
A. 貯蓄性の高い保険は、長期で続けることが前提になるケースが多く、途中解約すると元本割れすることも少なくありません。 税金が安くなることだけで選ぶのではなく、「自分たちのライフプランに合った期間・金額か」「途中で家計が苦しくなったときに対応できるか」といった点も含めて検討しましょう。 必要に応じて、保険と別に積立や資産運用を組み合わせる選択肢もあります。
Q3. こうしたバランスの話は、自分だけで考えるのが不安です。誰に相談するのがよいですか?
A. 商品を売ることだけが目的になっていない、 「家計全体(収入・支出・貯蓄・住宅ローン・教育費・老後資金)を一緒に整理してくれるファイナンシャルプランナー(FP)」 に相談するのがおすすめです。 保険だけでなく、家計全体のバランスを見てアドバイスしてもらえると、 2026年の控除拡大を含めたトータルの判断がしやすくなります。
📩 「わが家の場合、どこまで保険を増やしても大丈夫か?」「今の保険は入りすぎていないか?」
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2026年の生命保険料控除の時限措置もふまえながら、
保険と家計のバランスを一緒に整理していきましょう。