
終活において、もっとも実務負担を左右するのが財産の整理と把握です。
通帳や保険証券、不動産関係書類、ネット証券、年金、サブスク、ローン……情報が散在しているほど、相続発生時の対応が遅れ、家族の心理的・時間的コストが増大します。
本稿は60代の親世代と、その親を支える子世代に向けて、今日から着手できる棚卸の具体手順と確認ポイントを、テンプレート付きでわかりやすく解説します。
目次
- 財産の整理と把握の目的:親子で進める意義
- 棚卸の全体像:5ステップ
- 資産カテゴリ別チェックポイント
- 証憑・重要書類の集約と保管マップ
- 相続・贈与につながる基本と注意点
- 統計・傾向:把握不足が生むロス
- 棚卸テンプレート&チェックリスト
- 連載のつながり
- まとめ
財産の整理と把握の目的:親子で進める意義
目的は大きく3つです。
①所在の明確化:どこに何があるか、家族が短時間で把握できる状態にする。
②意思の可視化:相続・贈与の方針、処分の優先順位を示し、家族の迷いを減らす。
③実務の効率化:相続手続きや名義変更、保険金請求のスピードを高める。
親だけ・子だけでは完結しません。親子で分担し、共有するからこそ効果が出ます。
棚卸の全体像:5ステップ
- Step1|全体のリストアップ(思い出し優先):まずは「所在」だけを書き出す。残高や評価額は後回し。
- Step2|証憑の回収・紐づけ:通帳、証券口座、保険証券、契約書、ログイン方法の保管方針を確認。
- Step3|名義・共同名義・満期等の確認:名義違いは後々の手続き遅延の原因。満期・更新・解約条件も併記。
- Step4|優先度づけとアクション決定:不要な契約の解約候補、古い口座の整理、保険の受取人見直しなど。
- Step5|更新ルール:年1回の見直し日を固定し、更新履歴(更新日・更新箇所)を残す。
資産カテゴリ別チェックポイント
金融資産(預貯金・証券・外貨等)
- 口座一覧:銀行名・支店・口座種別。ネット銀行も忘れずに。
- 証券口座:証券会社名・口座区分(特定/一般/NISA)・残高確認方法。
- 外貨・金・投資信託:評価額は概算で可。取引報告書や残高照会の方法を明記。
- 休眠化リスク:長期間利用のない口座は手続きが煩雑化。集約・解約も検討。
不動産(自宅・土地・収益物件)
- 所在・登記情報:登記事項証明書の保管場所。固定資産税の納付書も紐づけ。
- 利用状況:自宅/別荘/空き家/賃貸中など。管理会社・賃貸借契約の有無。
- 境界・権利関係:私道負担、借地権、共有持分は後の分割で争点になりやすい。
保険(生命・医療・年金・共済)
- 契約一覧:会社名・商品名・証券番号・担当者・保険期間。
- 受取人の確認:古い契約は受取人が現状に合わないことがある。
- 給付請求の期限:請求期限や必要書類をメモ。未請求のまま放置は損失。
負債・保証・リース
- 借入一覧:金融機関・残高・金利・返済口座。繰上返済や団信の有無。
- 連帯保証:相続時に重大な影響。内容・契約書の所在を必ず記録。
- リース/ローン:自動車・機器の名義・満了時期・買取条件。
事業資産・自営業の契約
- 法人/個人事業:登記情報、代表者印、主要契約、売掛・買掛、在庫。
- 口座・決済:事業口座、クレジット、サブスクツールの管理権限。
- 承継方針:廃業か事業承継か、専門家の支援窓口も併記。
貴重品・コレクション・その他契約(サブスク等)
- 貴金属・美術品・骨董:鑑定書の有無、保管場所、譲渡意向。
- 会員権・ポイント・マイル:相続・譲渡可否が契約で異なる。条件を確認。
- サブスク:解約手続きの連絡先・方法をメモ。家計の固定費を圧縮。
証憑・重要書類の集約と保管マップ
ポイントは「一元化」と「見つけやすさ」。
通帳・印鑑・マイナンバー・保険証券・年金・不動産関係・パスポートなどは、耐火金庫+インデックス化を推奨。
デジタル情報(パスワード)はノートへ直接書かず、保管方法のみ(例:パスワード管理アプリ名/緊急用封筒の所在)を記載します。
相続・贈与につながる基本と注意点
本稿は一般的な情報提供です。
法的・税務の判断は専門家にご相談ください。
相続:遺産分割の方針はエンディングノートで意思を示し、確実に反映したい場合は遺言書(公正証書など)を検討。
贈与:生前贈与は非課税枠や申告要否など制度要件があるため、実行前に確認を。
名義整理:預金・不動産・車両・保険の名義・受取人の更新漏れはトラブルの火種。
統計・傾向:把握不足が生むロス
公的機関・業界団体の公表資料でも、口座・契約の把握漏れや未請求の保険金が一定数生じている実態が指摘されています。
把握不足は「請求遅延」「期限徒過」「休眠化」につながりやすく、所在情報の早期整備が最も費用対効果の高い対策です。
最新の統計値は地域や制度改正で変動するため、定期的な確認を推奨します。
棚卸テンプレート&チェックリスト
①資産・負債棚卸シート(抜粋)
区分 | 名称・所在 | 名義 | 概算額 | 証憑/ログイン | 連絡先 | 留意点 | 見直し日 |
預貯金 | 〇〇銀行△△支店 普通 | 本人 | — | 通帳/キャッシュカード | コールセンター | 休眠化対策 | 年1回 |
証券 | □□証券(特定/NISA) | 本人 | — | 取引報告書 | 担当者 | 受取人確認 | 年1回 |
保険 | △△生命(終身) | 本人 | — | 保険証券 | 営業所 | 受取人最新化 | 契約記念月 |
不動産 | 自宅(所在地) | 夫婦共有 | — | 登記事項証明 | 市区町村 | 共有持分 | 固定資産税時期 |
負債 | 住宅ローン(〇〇銀行) | 本人 | — | 返済予定表 | 窓口 | 団信有無 | 年1回 |
②解約・見直しチェック
- 使っていない口座・カード・サブスクは解約候補。
- 保険の受取人・指定代理請求人が現状に合っているか。
- 不動産の名義・共有関係の棚卸。境界・管理費の滞納有無。
- 事業用と個人用の口座・契約は分離管理。
③1回90分×3回の進め方(目安)
1回目:所在の書き出し/2回目:証憑回収と名義確認/3回目:解約候補と更新ルール決定。
連載のつながり
①エンディングノートに「所在・意思」を記載 → ②葬儀・お墓の希望と費用見通し → ③財産の整理と把握(本稿)で具体的な実務整備 → ④デジタル情報の整理でアカウント・端末の引継ぎ方針を確定。
この順序で進めると、相続発生時の判断と手続きが一貫します。
まとめ
財産の整理と把握は、終活の「土台」です。
完璧を目指すより、まずは所在の一覧化から。
次に証憑を束ね、名義と受取人を確認。
不要な契約は解約候補に。
年1回の見直し日を決めれば、情報は鮮度を保てます。
本稿は一般的な情報提供であり、法的・税務の判断は個別事情により異なります。
必要に応じて専門家へご相談ください。
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