
2025年通勤手当の非課税限度額改正をやさしく整理
Executive Summary(要点まとめ)
- 2025年、自家用車等で通勤する人の通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。
- 新しい限度額は「2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」から遡って適用されます。
- 4月以降に支給した通勤手当で旧限度額超過分に税金をかけていた場合は、年末調整で精算が必要になります。
- 電車やバスだけで通勤している人の非課税限度額は変わらず、今回の改正の対象外です。
- まず「誰が対象か」と「4月以降の支給分の扱い」を整理することが、経営者・経理の第一歩になります。
物価やガソリン代の上昇が続くなか、2025年11月に通勤手当の税のルールが見直され、自家用車などで通勤する人の非課税限度額が引き上げられました。本稿では、中小企業の経営者・経理担当者の方向けに、「どの通勤手当が対象なのか」「4月に遡るとはどういう意味なのか」「年末調整にどんな影響があるのか」をシンプルな言葉で整理します。 具体的には、国税庁のリーフレットやQ&Aをベースに、対象となる手当の種類と距離区分、新旧の非課税限度額の考え方、そして影響が出やすいパターンを順番に見ていきます。今年の年末調整や給与計算の混乱を防ぐために、まずは全体像をつかみ、「自社にどれくらい影響がありそうか」をつかむことができれば、次のステップとして具体的な対応計画にスムーズにつなげられるはずです。
1. 今回の通勤手当改正が話題になっている理由
2025年11月19日に所得税法施行令の改正が公布され、自動車などの交通用具を使って通勤する人の通勤手当について、所得税がかからない上限額(非課税限度額)が引き上げられました。改正は11月20日に施行されますが、新しい上限額が適用されるのは「2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」からとされています。
つまり、4月以降に支給した通勤手当について、「本来ならもっと非課税にできた」ケースが出てくるため、その差額を2025年分の年末調整で精算する必要が出てきます。
人事・労務の専門サイトでも「2025年4月1日に遡及適用となるため、年末調整での対応が必要」と注意喚起されており、中小企業でも放置できないテーマになっています。
2. 改正の対象となる通勤手当の範囲
今回の改正でポイントになるのは、「どの通勤手当が対象になるのか」です。
- 対象になるのは:自動車や自転車などの交通用具を使って通勤する人に支払う通勤手当(いわゆるマイカー通勤手当など)
- 逆に、対象外なのは:電車・バスなどの公共交通機関だけを利用する人に支払う通勤定期代等(この非課税限度額は従来どおり、合理的な運賃等の額・月15万円が上限)
また、「2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」が対象であり、次のようなものは新しい限度額の対象外とされています。
- 2025年3月31日以前に支払われた通勤手当
- 2025年3月31日以前に支払われるべきだった手当を、4月1日以後に支払ったもの
- これらの通勤手当の差額として追加支給するもの
「支払った日」ではなく、「支払われるべき日」で判断される点も、実務では勘違いしやすいポイントです。
3. 改正後の非課税限度額のイメージ
改正後も、片道の通勤距離ごとに非課税限度額が決まる仕組みは変わりません。
例として、国税庁リーフレットの表を見ると、次のようなイメージです。
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片道10km以上15km未満
- 改正前:月7,100円まで非課税
- 改正後:月7,300円まで非課税
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片道45km以上55km未満
- 改正前:月28,000円まで非課税
- 改正後:月32,300円まで非課税
距離が長くなるほど、引き上げ幅も大きくなっており、最長距離区分では非課税の上限が数千円単位で増えています。
詳細な金額は、国税庁の「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」リーフレットで確認し、自社のマイカー通勤者の距離区分と照らし合わせるのがおすすめです。
4. 影響が出やすい従業員パターン
今回の改正で実務上影響が出やすいのは、次のような従業員です。
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マイカー通勤で、通勤距離が10km以上ある人
- 旧限度額にギリギリ収まるように設定していた場合、新限度額との差が小さく、影響は限定的です。
- 逆に、会社が支給している手当が旧限度額を少し超えていた場合、「旧制度では課税・新制度では非課税」という差が出やすい層です。
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通勤距離が長く、月額の通勤手当が高めの人
- 45km以上といった長距離通勤者では、非課税枠の引き上げ幅が大きく、4月以降に多めに税金を引かれている可能性があります。
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4月以降に給与体系や通勤経路を変更した人
- 途中で距離や支給額が変わっている場合、月ごとに旧限度額と新限度額を比較する必要があり、年末調整の事務負担が増えがちです。
TKCなどのQ&Aでも、片道10〜15km・通勤手当8,000円/月の場合に、旧制度と新制度で非課税額が異なり、差額分を年末調整で精算する例が紹介されています。
5. 経営者・経理が今すぐ確認しておきたいこと
Day2で具体的な対応手順を整理しますが、まずは次のような「全体の棚卸し」から着手するとスムーズです。
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マイカー通勤者リストの確認
- 自動車・バイク・自転車通勤者と、電車・バスのみ利用者を分けておく(後者は今回の改正対象外)。
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片道距離と月額通勤手当の一覧作成(2025年4月以降分)
- 「旧限度額を超えて支給していた人」がいるかどうかをざっと確認。
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就業規則・賃金規程の通勤手当の条文チェック
- 「全額非課税を前提とする書きぶり」になっていないか、改正後の限度額を反映する必要がないかを確認。
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税理士・給与計算システムベンダーへの相談準備
- 「4月以降支給分の取り扱い」「年末調整での精算方法」を事前に確認し、社内で認識を合わせておく。
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従業員向け説明の方針決め
- 「今年の年末調整で通勤手当の税金が戻る場合がある」というメッセージをどう伝えるかをイメージしておくと、問い合わせ対応が楽になります。
まとめと次の一手(Next Best Action)
この記事のまとめ(5点)
- 2025年、マイカー通勤者向けの通勤手当の非課税限度額が距離区分ごとに引き上げられました。
- 新しい限度額は、2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から遡って適用されます。
- 電車・バスのみで通勤する人の通勤手当の非課税限度額は従来どおりで、今回の改正対象外です。
- 4月以降に旧限度額を超える通勤手当を支給し、超過分に税金をかけていた場合、年末調整で税額の精算が必要になります。
- 影響が出やすいのは、マイカー通勤で距離が長い人や、旧限度額を少し超える額を支給しているパターンです。
Next Best Action(次の一手)
「2025年4月以降のマイカー通勤者の通勤手当一覧」をまず1枚にまとめ、対象となりそうな社員が何人いそうかをざっくり把握してください。
FAQ(よくある質問)
Q1. 電車通勤の社員も今回の改正の対象になりますか?
A. いいえ、電車やバスのみを利用している人の通勤手当の非課税限度額は従来どおりで、今回の引き上げの対象外です。
Q2. 4月分の通勤手当を3月に前払いしている場合も、新しい限度額の対象になりますか?
A. 「2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」が対象とされており、3月中に支払われるべき通勤手当は新しい限度額の対象外とされています。支払日と「支払われるべき日」の両方を意識して判断してください。
Q3. 会社として通勤手当の支給額を変更しないといけないのでしょうか?
A. 非課税限度額が引き上げられただけなので、支給額そのものを必ず変える必要はありません。ただし、旧限度額を前提に「全額非課税」と説明していた場合は、改正後の限度額を踏まえた社内説明に変えるとよいでしょう。
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