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年末に高まるサイバーリスクと中小企業への影響

年末に高まるサイバーリスクと中小企業への影響

年末に高まるサイバーリスクと中小企業への影響

Executive Summary(この記事の要点)

  • 年末・長期休暇は、サイバー攻撃が増えやすいタイミングです。
  • 人手不足や管理者不在で、発見と初動対応が遅れやすくなります。
  • 被害はシステム停止だけでなく、売上や信用にも長く影響します。
  • 中小企業や個人事業主も「規模が小さいから安全」とは言えません。
  • 本記事では、まず全体像と「もし起きたらどうなるか」を整理します。

はじめに:なぜ「今」この話をするのか

年末年始や長期休暇の時期は、多くの会社で人手が薄くなり、システムやPCの管理をしている担当者も休みに入ります。そのすきにサイバー攻撃を受けると、発見や対応が遅れ、年明けの仕事の立ち上がりまで影響が残ってしまうおそれがあります。

このシリーズでは、そうした年末特有のサイバーリスクについて、中小企業や個人事業主の皆さまの目線で、「難しい専門用語をできるだけ使わず」に整理していきます。何がリスクなのか、被害が起きるとどんな困りごとにつながるのかを明らかにしながら、少しずつ「自社は何をしておくべきか」を一緒に考える流れです。

Day1の今日は、まず「なぜ年末にサイバーリスクが高まるのか」と「もし被害が起きた場合、経営としてどんな影響が出るのか」を、全体像としてつかんでいただくことを目的にしています。この記事を読み終えるころには、「今年の年末までに最低限ここだけは見直そう」というポイントが1つ見えている状態を目指します。

1. 年末にサイバーリスクが高まる3つの理由

サイバー攻撃を行う側は、「守りが弱くなるタイミング」をよく見ています。年末や長期休暇は、まさにそのひとつです。ここでは、リスクが高まりやすい主な理由を3つに分けて整理します。

理由1:人が少なく、決裁者が休みに入っている

年末は、普段なら社内にいる担当者や責任者が休みに入ります。システムの異常を見つけても、 「誰に連絡すればいいか分からない」「決裁できる人がいない」という状況になりがちです。 その結果、本来ならすぐ対応できるトラブルでも、気づくのが遅れたり、対応が翌営業日に持ち越されたりします。

理由2:長期休暇中に仕掛け、年明けに気づかせる攻撃

ランサムウェア(データを暗号化して使えなくする攻撃)や、不正アクセスによる情報盗難などは、 休暇中に仕掛けて、年明けに被害を気づかせるケースが少なくありません。 休みの間に侵入され、年明けにシステムを動かそうとしたときに「起動しない」「データが開けない」と発覚するパターンです。

理由3:利用者側の「気の緩み」とお得情報の増加

年末は、セールやキャンペーン、ポイント還元など「お得情報」がたくさん出てきます。 それを装った偽サイトや、フィッシングメール(本物そっくりの偽メール)も増える傾向にあります。 仕事とプライベートの境目もあいまいになり、「ついスマホでそのままリンクを開いてしまう」といった状況が増えやすくなります。

2. 被害が起きたとき、中小企業・個人事業主への影響

「サイバー攻撃」と聞くと、大企業だけの話に感じるかもしれません。 しかし現実には、中小企業や個人事業主の方が「守りが弱い」と見られ、狙われやすい側に回ってしまうこともあります。

特に中小企業・個人事業主では、「止まると困るシステム」「代わりの人がいない業務」が多く、 一度トラブルが起きると、想像以上にダメージが広がります。

  • 受注システムやECサイトが止まり、売上が計上できない・受注が取れない
  • 請求・支払いが遅れ、キャッシュフローに影響が出る
  • 顧客情報の流出が疑われ、取引先やお客様への説明・お詫び対応が必要になる
  • 「セキュリティに不安がある会社」という印象がつき、商談や入札に影響する

これらは、単に「一時的なトラブル」では終わらず、売上や信頼、今後の取引機会にも長く影響しうるものです。 だからこそ、「自社の規模は関係ない」という前提で考える必要があります。

3. 経営の視点で見る「見えにくいコスト」

サイバー被害がニュースで報じられるときは、「被害総額◯◯円」といった金額が注目されがちです。 しかし、経営として本当に厄介なのは、数字に表れにくい「見えにくいコスト」です。

復旧対応で、本来の仕事が止まる

システムの復旧や原因調査、顧客への連絡などに多くの人手が取られます。 その間、本来進めたい新規案件や改善活動が止まり、社内のエネルギーが「火消し」に向かってしまいます。

経営者自身の時間・精神的な負担

中小企業や個人事業主の場合、トラブル対応の前面に立つのは多くの場合、経営者ご本人です。 顧客への説明、社内への指示、外部業者との調整など、短期間に多くの判断とコミュニケーションが求められます。 「年末の一番忙しい時期に、最も時間を取られたのがトラブル対応だった」ということにもなりかねません。

事後の追加投資が「割高」になりやすい

被害が起きたあとにあわてて対策を入れると、「急ぎ対応」になりやすく、結果として割高な選択をしてしまうこともあります。 本来ならもう少し検討して選べたはずの対策も、「とにかく早く何とかしなければ」という状況では、 冷静な比較が難しくなります。

こうした見えにくいコストは、「最初から完璧な対策を入れればよかった」という話ではなく、 最低限の備えをしておくだけでも、かなり抑えられる部分が多いのが特徴です。

4. 行動を止めてしまう心理バイアスと乗り越え方

「対策をしなければ」と頭では分かっていても、なかなか動けないのが人間です。 そこには、いくつかの心理的なクセ(バイアス)が関係しています。

正常性バイアス:「今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫」

「これまで大きなトラブルはなかった」「知り合いの会社でも聞いたことがない」と感じると、 つい「自分のところは大丈夫だろう」と考えてしまいます。 しかし、サイバー攻撃の多くは、特定の会社を狙い撃ちするのではなく、 一度に大量のメールをばらまいたり、脆弱なシステムを片っ端から探したりする形で行われます。

先延ばしバイアス:「落ち着いたら考えよう」

年末はただでさえ忙しく、「今は目の前の仕事で手一杯だから、対策は落ち着いてから」となりがちです。 その結果、毎年同じように先送りされ、「気づけば何も変わっていない」という状態になりやすくなります。

「完璧」を目指さず、「まず1つ」を決める

これらのバイアスを乗り越えるには、 「今年中にすべての対策をやり切る」と考えるのではなく、 「今年はこれだけはやる」という1つを決めることがポイントです。

  • 「全員に教育する」ではなく、「まず役員と管理者のルールだけ決める」
  • 「全システムを守る」ではなく、「年末に止まると一番困る業務だけを守る」
  • 「新しいツール導入」よりも、「今ある機能(多要素認証など)をきちんと使う」

このシリーズでは、Day2以降で、「まず1つ」を決めるための具体的な整理の仕方や、 優先順位のつけ方をご紹介していきます。

5. まとめと今日の一歩(Next Best Action)

この記事のまとめ(5ポイント)

  • 年末・長期休暇は、サイバー攻撃にとって「狙いやすい時期」になりやすい。
  • 人手不足や管理者不在により、発見と初動対応が遅れやすくなる。
  • 中小企業・個人事業主も、決して「狙われない側」ではない。
  • 被害はシステムだけでなく、売上・信用・経営者の時間にも大きく影響する。
  • 「完璧な対策」ではなく、「今年はこれだけはやる」という1つを決めることが重要。

Next Best Action(今日やることは1つだけ)

今日のうちに、メモ帳やノート、PCのメモでも構いませんので、 「年末に止まると一番困る業務(またはシステム)」を1つだけ書き出してください。

それが、このシリーズを通じて優先的に守っていくべき「軸」になります。 Day2では、その軸を起点に「自社のサイバーリスクを3ステップで棚卸しする方法」をご紹介します。

よくある質問(FAQ)

Q1. うちは小さい会社なので、狙われることはないのでは?
A. 規模の大小に関係なく、「守りが弱いところ」が狙われやすいと言われています。 自動で大量にメールを送る攻撃や、インターネット上で弱いシステムを探す攻撃も多く、 「たまたま引っかかる」ケースが少なくありません。
Q2. 年末だけ気を付ければよいのですか?
A. もちろん、日ごろの対策が一番重要です。ただし、長期休暇中は人手が薄くなり、 平日よりも発見・対応が遅れやすいため、特に注意が必要な時期と言えます。 その意味で、年末は「日ごろの対策を見直す良いきっかけ」と考えるのが現実的です。
Q3. 何から手を付ければいいか分かりません。
A. 本シリーズでは、Day2で「資産・脅威・弱み」という3つの切り口で自社の状況を整理する方法をご紹介します。 まずは今日、「年末に止まると一番困る業務」を1つだけ書き出しておいてください。 それが次のステップにつながる出発点になります。

個別に相談したい方へ

📩 自社の年末サイバーリスクを一度整理してみたい方は、 こちらからご相談ください

「まずは何から手をつければいいか」「うちの規模でもやるべきことはあるか」など、 具体的な状況に合わせて一緒に整理するお手伝いも可能です。

参考リンク(執筆時の参考情報)

※上記は執筆時点で参考にした公開情報です。実際の運用では、最新の公的機関(IPA、総務省、経産省 等)の情報もあわせてご確認ください。

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