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小さな会社ほど危ない?ハラスメント対応で分かれた3つのストーリー

小さな会社ほど危ない?ハラスメント対応で分かれた3つのストーリー

Executive Summary(要点5行)

  • 同じようなハラスメントでも、対応次第で失うものの大きさは大きく変わります。
  • 「何もしない会社」は、離職・採用難・評判悪化・訴訟リスクを一気に抱えます。
  • 「場当たり対応の会社」は、火消しに追われ続け、管理職と人事が疲弊します。
  • 「仕組みで守る会社」は、早期相談と学びの蓄積で、トラブルを小さく収めます。
  • 自社が今どのパターンに近いかを確認し、目指す状態と次の一手を決めることが重要です。

導入

ハラスメント対策の話をしていると、「うちでも昔、似たようなことがあった」「対応できた会社と、後味の悪さだけが残った会社がある」といったエピソードを耳にします。注目すべきなのは、発端となる出来事がよく似ていても、その後の対応によって会社が背負うダメージはまったく違ってくる、という点です。特に社員数の少ない中小企業では、一度の対応の差が、その後の採用や口コミ、2026年前後に強まる法的義務への対応力にまで影響します。

本稿では、Day1・Day2で整理した基本的なリスクと定義をふまえ、中小企業で実際に起こり得る状況をモデルにした、3つの架空ケーススタディをご紹介します。具体的には、「何もしない会社」「場当たり対応の会社」「仕組みで守る会社」という3つのパターンを通じて、採用・離職・評判・訴訟リスクの違いを、数字に頼りすぎず、イメージしやすい形で整理します。

そのうえで、3つの会社の「見えないコスト」の違いと、自社が今どの位置にいるのかを簡単にチェックできる質問をご用意しました。法律の細部や判例の知識がなくても、「このまま放置すれば、どの未来に近づくのか」「どの程度まで仕組み化すれば、会社を守れるのか」を、経営感覚でつかんでいただくことを狙いとしています。

もし本稿を読みながら、自社に近いケースが思い浮かんだら、ぜひメモを取りつつ、「理想はどのパターンか」「そこに近づくために何が足りないか」を、次の経営会議の議題として持ち込んでみてください。Day4では、そのギャップを埋めるための90日ロードマップを具体的にご提案します。

1. ケース1:何もしなかったA社のその後

A社は、社員数30名ほどの製造業の会社です。ベテラン工場長は、昔ながらの指導スタイルで知られ、「厳しいが面倒見が良い」と評価されてきました。しかし、近年入社した若手社員からは、「大勢の前で怒鳴られる」「人格を否定するような言葉をかけられる」といった声が、少しずつ上がり始めていました。

社長の耳にも何度かそれとなく相談は届いていましたが、「あの工場長は腕がいい」「厳しい指導くらい我慢してほしい」と、特に対応をしないまま数年が経ちました。その間、若手の離職が続き、採用しても定着しない状態が続きます。それでも、「今の若者は根性がない」と片付けてしまっていました。

ある日、退職した元社員が、労働相談窓口に相談を持ち込みます。やり取りの一部はメモやLINEの記録も残っており、「これはパワハラに当たる可能性が高い」と指摘を受けました。会社は慌てて対応に動きますが、すでに複数の元社員が同じような体験をしており、話は長期化します。

その結果、A社が背負うことになったのは、次のようなコストでした。

  • 若手社員の高い離職率による、採用・教育コストの繰り返し
  • 「指導が厳しい」「怒鳴り声が飛ぶ」といった口コミの拡散による採用難
  • 相談対応・調査・外部専門家への相談にかかる時間と費用
  • 残った社員の「どうせ何も変わらない」という諦めによる生産性の低下

A社の社長は、「もっと早い段階で、工場長と話し合いの場を持ち、会社としてのルールを決めておくべきだった」と振り返ることになります。問題行動そのものよりも、「見て見ぬふりをしてしまった数年間」の重みが、後になってのしかかってきました。

2. ケース2:場当たり対応に追われたB社の教訓

B社は、社員数80名ほどのIT系企業です。ハラスメント対策の重要性は意識しており、就業規則にもそれらしい条文は入れていました。しかし、具体的な相談窓口や対応フローまでは整備できておらず、「何かあれば人事に言ってください」という状態でした。

あるとき、プロジェクトリーダーによるきつい指導に関して、部下から「精神的に限界だ」という相談が人事担当者に寄せられます。人事は慌てて上司に事実確認をしますが、上司は「業務上必要な指導だった」と譲りません。人事は社長にも報告しますが、明確な判断基準がないため、「とりあえず当事者同士で話し合ってもらおう」ということになりました。

その後も似たような相談が断続的に発生し、そのたびに人事と経営陣は個別対応に追われます。表向きには「早期に対応している」ように見えますが、次のような問題が積み上がっていきました。

  • ケースごとに対応方針が変わり、「あの人のときは注意だけだったのに」と不公平感が生まれる
  • 人事と管理職が感情的にぶつかり、「どこまでが指導か」の議論が堂々巡りになる
  • 相談した本人が、「結局、何も変わらなかった」と感じて退職してしまう
  • 「相談しても意味がない」という空気が広がり、早期相談が減っていく

B社の経営陣は、「対策をしているつもりなのに、なぜか改善しない」というもどかしさを抱えることになります。問題は、「就業規則をつくったかどうか」ではなく、 「会社としての考え方と対応の型が共有されているかどうか」 でした。

結果として、B社は表面化したトラブルには対応していたものの、場当たり対応に追われ続け、人事と管理職が疲れ切ってしまいます。ハラスメント対策が、「会社を守る仕組み」ではなく、「火消しの仕事」として認識されてしまったのです。

3. ケース3:小さく始めて守り切ったC社の工夫

C社は、社員数50名ほどのサービス業の会社です。人手不足やSNSでの口コミの影響を強く感じており、「人が辞めない会社づくり」を経営課題として掲げていました。ハラスメント対策もその一部として、「完璧ではなくても、90日で土台をつくる」という方針でスタートします。

まず社長は、全社員向けのメッセージとして、 「ハラスメントはしない・させない・見過ごさない」というシンプルな方針を発信しました。そのうえで、次のような小さな一歩から始めました。

  • 社内外2つの相談窓口を明確にし、連絡先と流れをA4一枚で共有
  • 管理職向けに、「やってはいけない言動」と「迷ったときの相談先」を60分で説明
  • 過去の退職理由やトラブル事例を、幹部だけで振り返り、「今ならどう対応するか」を話し合う

その数か月後、ある部署で、上司の指導方法に関する相談が寄せられました。C社では、あらかじめ決めていた初動フローに沿って、次のように対応しました。

  • 相談者から事実と気持ちを丁寧にヒアリングし、記録を残す
  • 上司側の話も聞き、意図や背景を確認する
  • 社長・人事・外部専門家の3者で対応方針を検討する
  • 上司にはフィードバックと必要なサポート(面談や研修)を行う
  • 相談者には、対応内容と今後のフォローについて説明する

このケースでは、早期に相談があったこともあり、配置転換や退職などの大きな事態には至りませんでした。上司も「自分の指導スタイルを見直すきっかけになった」と振り返り、社内では「相談すればきちんと動いてくれる」という安心感が少しずつ広がりました。

C社がかけたコストは、主に経営陣と管理職の時間、簡易な研修費用、外部専門家への相談料程度です。一方で得られたものは、 離職の抑制・採用のしやすさ・社内の信頼感・将来の法改正への備え など、目に見えにくいが大きな価値でした。

4. 3つの会社の「見えないコスト」の違い

A社・B社・C社の3つのケースを並べてみると、発端となる出来事はそれほど変わらなくても、 対応の仕方によって、その後の行き先が大きく変わることが分かります。

ここでは、経営視点から見た「見えないコスト」の違いを、整理してみましょう。

4-1. A社タイプ(放置)のコスト

  • 若手を中心とした高い離職率による採用・教育コストの増加
  • 口コミやSNSでの悪評による、採用母集団の減少
  • 相談対応やトラブル処理にかかる、経営・人事の時間
  • 訴訟や行政対応に発展した場合の費用とレピュテーションリスク

特に中小企業では、1〜2名の離職がそのまま売上やサービス品質に直結し、 一度傷ついた評判を取り戻すのにも時間がかかります。

4-2. B社タイプ(場当たり)のコスト

  • 個別対応を繰り返すことによる、人事・管理職の慢性的な疲弊
  • 対応の一貫性がないことによる、不公平感と不信感
  • 相談しても変わらないという諦めからくる、早期相談の減少
  • 「火消し」に追われるあまり、再発防止や仕組み化に手が回らない

B社タイプは、一見「対策をしている」ように見えますが、 投じた時間と労力に対して、会社としての学びやルールが蓄積されにくい点が問題です。

4-3. C社タイプ(仕組みベース)のコストとリターン

  • スタート時の検討・研修・社内共有にかかる一定の時間とコスト
  • 相談対応のたびに、「ルールに照らしてどうするか」を話し合う手間

一方で、次のようなリターンが期待できます。

  • 早期相談が増え、問題が大きくなる前に手を打てる
  • 対応の型が蓄積され、同じ失敗を繰り返さなくなる
  • 「相談しても大丈夫」という安心感が、定着や採用にもプラスに働く
  • 将来の法改正やガイドライン強化にも、比較的スムーズに対応できる

経営として重要なのは、 「ゼロコストでリスクだけ減らす」方法は存在しない という前提に立つことです。むしろ、一定のコストを計画的にかけてでも、 将来の大きな損失を防ぐ「投資」としてハラスメント対策を位置づけ直すことが、 中小企業にとって現実的な選択と言えます。

5. 自社はどのパターンに近いか簡易セルフチェック

最後に、自社が今どのパターンに近いのかを確認するための、簡単なセルフチェックを用意しました。 細かい採点は不要ですので、直感的に「当てはまる」「どちらともいえない」「当てはまらない」を考えてみてください。

  1. 過去3年以内に、「ハラスメントかもしれない」と感じた行動を、経営として振り返ったことがある。
  2. 相談窓口の連絡先と流れを、社員全員が知っていると言える。
  3. 相談があったときの初動ルール(聞き方・記録の取り方・共有範囲など)が文書化されている。
  4. 管理職向けに、「指導とハラスメントの違い」について話し合ったことがある。
  5. 過去のトラブルから学んだことを、社内ルールや教育に反映している。

5つのうち、当てはまる項目が0〜1個であれば、A社タイプに近づいている危険信号といえます。 2〜3個であれば、B社タイプとして場当たり対応に陥りやすい状態。 4〜5個であれば、C社タイプに向けて一定の土台はできていると考えてよいでしょう。

重要なのは、「今の自社の位置を冷静に直視すること」と、 「どこまでを目指すのかを経営として決めること」です。 Day4では、このチェック結果を踏まえて、 90日でC社タイプに近づくためのロードマップをご紹介します。

まとめとNext Best Action

  • 同じようなハラスメントでも、「放置」「場当たり」「仕組み」の違いで、会社が背負うコストは大きく変わる。
  • A社タイプは、離職・採用難・評判悪化・訴訟リスクが一気に重なりやすい。
  • B社タイプは、対策をしているつもりでも、場当たり対応に追われ、人事と管理職が疲弊する。
  • C社タイプは、早期相談と対応の型づくりを通じて、トラブルを小さく収め、学びを蓄積できる。
  • 自社がどのパターンに近いかを見極め、経営として目指す姿と必要な投資を決めることが重要である。

Next Best Action:次回の経営会議で「A社・B社・C社のどのパターンが自社に近いか」を幹部と話し合い、90日後にどの状態を目指すかを一言で言語化してみてください。

FAQ(よくあるご質問)

Q1. 自社はまだ大きなトラブルは起きていません。それでも対策は必要でしょうか?

大きなトラブルが起きていない今こそ、対策を始めるチャンスです。 問題が表に出てから動くと、A社タイプのように、すでに複数の退職や相談が積み上がっていることも少なくありません。 早い段階でルールや相談窓口を整えておくことで、トラブルを小さく収めやすくなります。

Q2. 過去の事例を掘り返すと、現場が混乱したり、古い傷が開いたりしませんか?

配慮は必要ですが、「二度と同じことを起こさない」という目的であれば、 過去の事例から学ぶことはむしろ前向きな取り組みです。 実名や部署名を出さずにパターンとして整理する、 「誰を責めるか」ではなく「これからどうするか」に焦点を当てる、といった工夫をすることで、 建設的な振り返りにすることができます。

Q3. お金をかけずに、C社タイプに近づくことはできますか?

すべてを一度に整える必要はありません。 経営メッセージの発信、相談窓口の明確化、初動フローのA4一枚化などは、 ほとんど費用をかけずに始められます。 専門家への相談や研修などの費用は、発生するリスクの大きさと比較しながら、 優先順位をつけて投資していく形でも十分です。

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