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企業とフリーランスでつくる「共に守る」仕組みと90日ロードマップ

企業とフリーランスでつくる「共に守る」仕組みと90日ロードマップ

Day4:企業とフリーランスでつくる「共に守る」仕組みと90日ロードマップ

Executive Summary(TL;DR 5行)

  • 労災リスクは、企業だけ・フリーランスだけでは防ぎきれず、「共に守る」前提が欠かせません。
  • まずはリスクとルールをシンプルに見える化し、双方向の対話の場をつくることが出発点です。
  • 90日で「現状把握 → パイロット導入 → 振り返り・定着」の3フェーズを回すのが現実的です。
  • RACIで役割分担を整理すると、誰が何をするかが明確になり、現場の迷いが減ります。
  • 書類を増やすことが目的ではなく、「安心して一緒に働ける関係」をつくることがゴールです。

導入

Day2・Day3では、企業側とフリーランス側、それぞれができる備えを別々に整理してきました。しかし現場では、「会社だけが頑張る」「フリーランスだけが自己責任で守る」という片側だけの努力では限界があります。本当に事故やトラブルを減らしていくには、「同じ現場で働く仲間として、一緒に守る」前提に変えていく必要があります。この記事では、そのための具体的な進め方を、90日ロードマップという形でまとめます。最初に、共に守るための3つの原則を押さえ、そのうえで「30日ごとのステップ」と「RACIによる役割整理」を示します。読み終えたあとには、「このプロジェクトで、まずはここから始めてみよう」と思える一歩が見えている状態を目指します。

目次

  • なぜ「片側の努力」では続かないのか
  • 共に守るための3つの原則(見える化・対話・ルール)
  • 90日ロードマップ:フェーズ1〜3の全体像
  • RACIで整理する役割分担(経営・現場・フリーランス)
  • 形だけで終わらせないための4つのポイント

なぜ「片側の努力」では続かないのか

労災リスクへの備えを考えるとき、極端なパターンに陥りがちです。

  • 「会社が全部面倒を見てくれるはずだ」というフリーランス側の期待
  • 「フリーランスは自己責任だから、会社は最低限だけでよい」という企業側の考え

どちらも、短期的には楽かもしれませんが、長い目で見ると事故やトラブルのリスクを高めます。企業だけに負担が偏ると、コストや手間の理由で取り組みが続かなくなりがちです。一方、フリーランスだけに負担が偏ると、不安や不信感が積み重なり、優秀な人ほど離れていきます。

だからこそ、「できることを出し合って、一緒に守る」というスタンスを、最初から共有しておくことが大切です。

共に守るための3つの原則(見える化・対話・ルール)

企業とフリーランスが「共に守る」ための土台として、次の3つの原則を押さえておきます。

原則1:リスクとルールの見える化

最初の一歩は、「何が危険で、どんなルールがあるのか」を紙1枚にまとめることです。

  • 現場の危険ポイント(場所・作業・時間帯など)
  • 守ってほしい基本ルール(服装・保護具・立ち入りなど)
  • 連絡先(現場責任者・緊急連絡先・相談窓口)
  • 事故が起きたときの大まかな流れ

完璧なマニュアルを目指す必要はありません。「まずA4一枚にまとめる」くらいの気持ちで始めるのがおすすめです。

原則2:双方向の対話の場をつくる

一方的にルールを渡すだけでは、現場には根づきません。

  • 初回の仕事前に、15〜30分のオンライン/対面オリエンテーション
  • プロジェクト中に1回以上の「振り返りミーティング」
  • 困りごとやヒヤリハットを共有できるチャット・フォーム

こうした場を通じて、「このルールは現場で実際に守れるか?」「もっと良いやり方はないか?」を一緒に考えていきます。

原則3:シンプルなルールと小さな改善

ルールを増やしすぎると、誰も読み切れず、結局守られません。ポイントは次の2つです。

  • 「絶対に守ってほしい3〜5個」に絞る
  • 完璧を目指さず、半年〜1年ごとに見直して少しずつ改善する

ルールは一度作って終わりではなく、「現場の声を聞きながら育てていくもの」と考えると、ムリなく続けやすくなります。

90日ロードマップ:フェーズ1〜3の全体像

いきなり全社展開を目指すのではなく、「まず90日で一周回してみる」くらいの感覚が現実的です。ここでは、30日ごとの3フェーズに分けて整理します。

フェーズ1(1〜30日):現状把握とたたき台づくり

このフェーズでは、「見える化」を中心に進めます。

  • 今取引しているフリーランス・個人事業主の一覧を作る
  • 代表的な3〜5パターンの仕事を選び、それぞれのリスクをざっくり整理する
  • Day2の内容をもとに、「受け入れチェックリスト(案)」をA4一枚で作成
  • 既存の契約書や発注書を確認し、安全面・保険・連絡体制の不足を洗い出す

この段階では、「完璧なものを作る」必要はありません。次のフェーズで試しながら直していく前提で、たたき台を用意します。

フェーズ2(31〜60日):パイロット導入と説明・対話

次に、対象を絞って試しに回してみます。

  • リスクが比較的高い、または関係性の深いフリーランス案件を1〜2件選ぶ
  • その案件で、「受け入れチェックリスト」と「安全ルールA4一枚」を試しに使う
  • 仕事開始前に、フリーランス向けの簡単オリエンテーションを実施(オンライン可)
  • 案件の途中で、5〜10分でもよいので安全面の振り返り・意見交換を行う

このフェーズのゴールは、「現場で本当に使えるかどうか」を確かめることです。うまくいかなかった点や、フリーランスから出た意見は、次のフェーズでの改善材料になります。

フェーズ3(61〜90日):振り返り・改善・定着の方向付け

最後のフェーズでは、次のアクションにつなげるための整理を行います。

  • パイロット案件での良かった点・うまくいかなかった点をリストアップ
  • チェックリストやルールの文言を「現場の言葉」に修正する
  • 今後1年間の対象範囲(どの業務から順に広げるか)を決める
  • 社内・フリーランス向けに、「共に守る」方針を簡単な文章で共有する

ここまで来ると、「やったかやっていないかよく分からない安全対策」ではなく、「うちの会社らしい安全のやり方」が見え始めてきます。

RACIで整理する役割分担(経営・現場・フリーランス)

仕組みを回していくには、「誰が何をするのか」がはっきりしていることが重要です。ここでは、役割分担の考え方としてよく使われる「RACI」を使って整理してみます。

  • R(Responsible)=実行責任者
  • A(Accountable)=最終責任者
  • C(Consulted)=相談を受ける人
  • I(Informed)=情報共有を受ける人

1. 経営・事業責任者の役割(A+一部R)

  • 「フリーランスも含めて守る」という方針を出す(A)
  • 90日ロードマップの承認と、最低限必要な時間・予算の確保(A)
  • パイロット対象の選定や、重要なルールの承認(A)
  • 必要に応じて、フリーランス向け説明会の冒頭でメッセージを伝える(R)

2. 現場責任者・プロジェクトマネージャーの役割(R)

  • フリーランス受け入れ時のチェックリスト運用(R)
  • 初回オリエンテーションの実施(R)
  • 現場でのルール遵守状況の確認と、ヒヤリハットの収集(R)
  • 改善点を経営・バックオフィスにフィードバック(R)

3. バックオフィス・人事・法務などの役割(C+I)

  • 契約書のひな型見直しや、条項の整理(C)
  • 労災・保険・法令面での注意点のアドバイス(C)
  • 社内ルールやマニュアルの文書化・保管(I)
  • 相談窓口の設計と、対応フローの整備(C)

4. フリーランス側の役割(R+C)

  • 現場で見つけた危険やヒヤリハットの共有(R)
  • ルールや運用で「守りづらい部分」の指摘・提案(C)
  • 自分自身の安全確保(保護具の使用・無理な働き方をしない等)(R)
  • 万一の体調不良やメンタル不調を、早めに相談する(R)

このように役割を書き出してみると、「守る側」と「守られる側」という一方通行ではなく、「一緒に守るチーム」としてのイメージが持ちやすくなります。

形だけで終わらせないための4つのポイント

最後に、「書類だけ増えて、実態は変わらない」という状態を避けるためのポイントを4つ挙げます。

  1. 紙はできるだけA4一枚に
    チェックリストやルールは、「現場で片手で持てる」サイズに絞ります。細かい補足は、必要になったときに追加するくらいで構いません。
  2. 1年に一度より、「案件ごとの5分振り返り」
    大きな会議を年1回開くより、案件が終わるたびに5分だけ振り返りをするほうが、現場にとっては現実的で効果的です。
  3. フリーランスにとってのメリットも伝える
    「会社の都合でルールが増えた」と感じさせないことが大切です。「ケガを防げる」「安心して長く付き合える」といったメリットをセットで伝えます。
  4. 罰ではなく「守るためのルール」というメッセージ
    ルール違反を責めることだけに焦点を当てると、報告が上がってこなくなります。「守るためにルールがある」というメッセージを繰り返し伝えましょう。

まとめ+Next Best Action

要点(5つ)

  1. 労災リスクへの備えは、企業だけ・フリーランスだけでは不十分で、「共に守る」前提が必要である。
  2. リスクとルールの見える化、双方向の対話、シンプルなルールと小さな改善という3原則が土台になる。
  3. 90日で「現状把握 → パイロット導入 → 振り返り・定着」を回すことで、自社らしい仕組みを形にできる。
  4. RACIで役割分担を整理すると、経営・現場・バックオフィス・フリーランスのそれぞれが何をすべきか明確になる。
  5. 書類を増やすことが目的ではなく、「安心して一緒に働ける関係」をつくることが、最終的なゴールである。

Next Best Action(次の一手)

いま進行中のフリーランス案件を1つ選び、「受け入れ時に確認しておきたいこと」を3〜5項目だけメモに書き出してください。次回の打ち合わせで、そのメモをもとに「共に守る」ルールの第一歩として共有してみましょう。

FAQ(よくある質問)

Q1. 90日でここまでやるのは難しそうです。もっと分割しても良いですか?

A. もちろん問題ありません。90日はあくまで「一周回してみるための目安」です。フェーズ1に2〜3か月かけてじっくり現状把握をしても構いませんし、小さなチームだけでパイロットを回すところから始めても大丈夫です。大切なのは、「いつまでに何をやるか」をざっくり決めて動き出すことです。

Q2. フリーランス側が忙しく、オリエンテーションや振り返りの時間を取りづらい場合はどうすれば良いですか?

A. 対面・オンラインでの打ち合わせが難しい場合は、チェックリストやルールを共有したうえで、「ここだけは読んでおいてほしい」というポイントを3つほどに絞ってメッセージで伝える方法もあります。また、案件の合間に5分だけでもオンラインですり合わせをするなど、負担が少ない形を一緒に模索していくのがおすすめです。

Q3. 現場から『また仕事が増える』と反対されそうで心配です。

A. 現場にとってのメリットを最初に共有することがポイントです。「事故やトラブルが減れば、仕事が止まることも減る」「信頼できるフリーランスと長く組めるようになる」といった具体的なメリットを示しつつ、書類や手順はできるだけシンプルに保ちます。また、現場からの意見を取り入れてルールを修正していく姿勢を見せることで、「押し付けではない」と感じてもらいやすくなります。

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