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中小企業が今すぐ向き合うハラスメントリスク

中小企業が今すぐ向き合うハラスメントリスク

Executive Summary(要点5行)

  • ハラスメントは今や「人の問題」ではなく「経営リスク」です。
  • SNSと人手不足により、小さな会社ほどダメージが大きくなります。
  • 法律は年々強化され、2026年前後も水準引き上げが見込まれます。
  • まず「相談窓口」「実態把握」「ルール共有」の3点を確認します。
  • 完璧を目指す前に、90日で土台を作る発想に切り替えることが重要です。

はじめに

深刻な人手不足とSNSでの情報拡散が当たり前になった今、職場のハラスメントは 「知らなかった」「うちは家族的な会社だから」で済まされない時代になりました。 一度トラブルが表に出てしまうと、採用や取引、口コミにまで影響し、 中小企業にとっては経営そのものを揺るがすリスクになりつつあります。

本稿では、パワハラ・セクハラ・妊娠出産・育児介護に関するハラスメントなど、 いわゆる「ハラスメント全般」を対象に、中小企業の経営者・役員の方がまず押さえるべき リスクと影響度を整理します。評価の物差しは、 「離職・採用」「生産性」「法的トラブル」「企業イメージ」の4つです。

そのうえで、難しい法律用語には踏み込みすぎず、 「自社はどこまでできていて、どこが手つかずなのか」を確認するための シンプルなフレームを使って整理していきます。 完璧な制度を一気に作ることよりも、まずは90日で「相談できる・動ける」 最低限の仕組みをつくるという考え方を前提にします。

もし本稿の内容をきっかけに、自社の現状を振り返り、 このあと続く記事で具体的な対策やロードマップを検討していただければ、 2026年前後に予定される制度の見直しや社会の目線の厳格化に対しても、 一歩先んじて備えることができるはずです。

1. なぜ今ハラスメント対策が「経営課題」なのか

ひと昔前まで、ハラスメントは「人事の問題」「現場の指導の仕方の話」として、 経営会議のテーブルに上がらないことが多くありました。 しかし今は、状況が大きく変わっています。

第一に、人手不足です。採用難の中で、一人の退職が売上やサービスに直結する会社も 珍しくありません。ハラスメントが原因の離職は、 「採用コスト」「教育コスト」を二重に失うことにつながります。

第二に、情報発信のハードルが下がったことです。 口コミサイトやSNSに「ハラスメントがあった」と書き込まれれば、 たとえ法的には問題のない対応であったとしても、 イメージ低下や採用への影響は避けられません。

第三に、法律やガイドラインの強化です。 ここ数年、ハラスメント防止措置は企業規模を問わず順次義務化が進み、 今後も2026年前後にかけて、求められるレベルが引き上げられる可能性が指摘されています。 詳細は社会保険労務士など専門家と確認していただく必要がありますが、 「様子を見てから対応する」では間に合わなくなるリスクが高まっています。

つまり、ハラスメント対策は「やっておいた方がよい善意の取り組み」ではなく、 採用、人件費、ブランド、法務に関わる れっきとした経営テーマと捉え直す必要があります。

2. 中小企業で起こりがちな“見過ごされるリスク”

「うちは家族的な会社だから大丈夫」「厳しく指導しているだけ」 という声は、経営者の方からよく聞かれます。 しかし、実際にトラブルに発展するケースの多くは、 まさにこの“家族的”な空気の中で起きています。

例えば、次のような場面はないでしょうか。

  • ベテラン社員が若手に大声で叱責し、周囲もそれを「愛のムチ」と笑っている
  • 飲み会への参加を事実上強制し、断ると評価に響く雰囲気がある
  • 妊娠や育児の話題が出たときに、「今は迷惑」「戻ってこなくていい」と冗談交じりに言ってしまう
  • 業務量が明らかに偏っているのに、「期待しているから」とフォローをしない

これらはすべて、本人や周囲の受け止め方次第で、 ハラスメントと捉えられかねない行為です。 しかも、中小企業では「多少きつく言わないと仕事が回らない」 「人間関係が近いから大丈夫」という思い込みから、 問題が長期間続いてしまう傾向があります。

リスクは、実際のトラブルだけではありません。 「何を言っても無駄だ」と感じた社員が、水面下で求人サイトを見始める。 心身の不調からパフォーマンスが落ちる。 「あの部署には関わりたくない」と社内での連携が悪くなる。 こうした“見えないコスト”は、決算書には表れにくいものの、 事業の足腰を確実に弱らせていきます。

経営視点で重要なのは、 「表面化したトラブル」ではなく「表面化していないリスク」をどう減らすか です。そのためには、法律の細かな条文より先に、 自社で起こりがちなパターンを見つけ、 「これはやめよう」「これは相談しよう」という共通認識をつくることが不可欠です。

3. 経営者がまず押さえるべき3つの視点

では、経営者・役員として、最初にどこを確認すべきでしょうか。 細かい制度設計に入る前に、次の3つの質問に答えられるかどうかをチェックしてみてください。

3-1. 「相談窓口」はありますか? 機能していますか?

「何かあったら言ってね」と口頭で伝えているだけでは、 実質的に相談窓口がないのと同じです。 社員の側から見ると、 「誰に」「どのような手段で」「どこまで話していいのか」が不明確な状態では、 相談する勇気は出てきません。

経営としては、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。

  • 社内の相談窓口(人事・上長とは別のルート)が明確に決まっているか
  • 可能であれば、社外の窓口(社労士・専門機関など)と連携できているか
  • 相談があったときの「最初の対応ステップ」が共有されているか

3-2. 実態を把握するための情報はありますか?

「うちではハラスメントは起きていない」と言い切れる会社は、 実はとても危うい状態です。 「起きていない」のか、「見えていないだけ」なのかを区別するためには、 最低限の情報が必要です。

例えば、次のようなものです。

  • 過去数年の退職理由(可能な範囲でのヒアリング結果を含む)
  • メンタル不調や長期休職の件数の推移
  • 「職場の雰囲気」「上司への信頼感」などを聞く簡易アンケート

これらを定期的に見直すことで、 「特定部署だけ離職が多い」「特定の上司のもとで不調者が多い」 といった傾向に気づくことができます。

3-3. 上司層に「共通ルール」を説明できますか?

最前線で部下と向き合うのは、現場の上司です。 経営がどれだけ危機感を持っていても、 上司層に共通ルールが伝わっていなければ、 現場での行動は変わりません。

ここで重要なのは、 法律の条文を一言一句覚えてもらうことではなく、 「これはやってはいけない」「迷ったらここに相談する」 というシンプルなルールを、経営の言葉で伝えることです。

例えば、次のようなものです。

  • 人格を否定する言い方・大勢の前での叱責はしない
  • お酒の席やオンライン上でも、公私の線を意識する
  • 妊娠・出産・育児・介護に関する発言は、相手の不安に寄り添う
  • 「これって大丈夫かな」と思ったら、ひとりで抱えずに相談する

経営者自身がこうしたメッセージを発信し、 上司層と対話する機会を持つことで、 「会社としてどういうスタンスなのか」が、少しずつ浸透していきます。

4. 今日から始めるための最初の一歩

ここまで読むと、 「やるべきことが多すぎて、どこから手をつければいいか分からない」 と感じられたかもしれません。 しかし、最初の一歩はそれほど複雑ではありません。

Day1のまとめとして、次の3つだけ、今日から検討してみてください。

  1. 経営としてのスタンスを言葉にする
    「ハラスメントはしない・させない・見過ごさない」といった シンプルなメッセージを経営者の口から伝えるだけでも、 社内の空気は変わり始めます。
  2. 相談窓口の現状を確認する
    「誰に・どうやって・どこまで」相談できるのかを、 経営自身が把握し、足りない部分があれば見直しの必要性をメモしておきます。
  3. 過去の退職・トラブルを振り返る
    「あれは今振り返ると、ハラスメントに近かったかもしれない」と思う出来事がないか、 幹部メンバーと一緒に棚卸ししてみてください。

こうした振り返りを通じて、 「自社のどこにリスクが埋まっているのか」がおぼろげに見えてきます。 次回以降の記事では、そのリスクをもう少し具体的に言語化し、 事例やロードマップの形で「どう対策するか」をご一緒に整理していきます。

まとめとNext Best Action

  • ハラスメント対策は採用・離職・評判・法務に関わる経営課題である。
  • 中小企業では“家族的”な文化の中でリスクが見過ごされがちである。
  • 経営者は「相談窓口・実態把握・共通ルール」の3点をまずチェックする。
  • 法律や社会の要請は強まっており、2026年前後の水準引き上げも視野に入れる必要がある。
  • 完璧を目指すのではなく、90日で土台をつくる発想への転換が重要である。

Next Best Action:まずは経営陣だけで30分時間を取り、「相談窓口の現状」と「過去3年の退職・トラブル事例」をざっくり棚卸しするミーティングを設定してみてください。

FAQ(よくあるご質問)

Q1. うちは社員数が少ないので、ここまで本格的な対策は不要では?

社員数が少ない会社ほど、一人の退職や不調の影響は大きくなります。 また、少人数だからこそ人間関係が密になり、線引きがあいまいになりやすい面もあります。 大掛かりな制度は不要ですが、 「相談できる人・ルート」と「やってはいけないこと」の最低限の整理は、 社員数に関わらず必要と考えていただくのが安心です。

Q2. 対策を進めると、上司が怖がって何も言えなくなりませんか?

大事なのは「叱ってはいけない」のではなく、 「やり方を変える」というスタンスです。 人格否定や大声での叱責は避けつつも、 事実や期待する行動を具体的に伝えるフィードバックは、 むしろ部下の成長につながります。 経営として「望ましい指導の仕方」を共有し、 上司をサポートする視点も忘れないことがポイントです。

Q3. 専門部署も担当者もいません。何から始めればいいでしょうか?

最初から専任担当や専用部署を置く必要はありません。 まずは経営陣の中から「窓口役」を一人決め、 必要に応じて外部の社労士や専門家に相談できる体制を用意するだけでも、 リスクは大きく下がります。 本シリーズのDay4では、 「90日でここまで」というロードマップもご紹介しますので、 それをもとに無理のない範囲で進めていくことをおすすめします。

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