
Day2:フリーランス受け入れ企業のための安全配慮チェックリスト
Executive Summary(TL;DR 5行)
- 企業側には、「危険な環境で働かせない」「無理な工期を避ける」などの配慮義務が広がっています。
- フリーランスは原則、自分で労災保険の特別加入などを行いますが、企業からの情報提供と案内が実務上は重要です。
- まず「どんな作業か」「どこが危険か」「誰が安全を見ているか」を整理することが、安全配慮の一丁目一番地です。
- 契約書に、安全面・保険・事故時の連絡体制など最低限の条項を入れておくことで、トラブルを大きく減らせます。
- 小さな会社でも、簡単なチェックリストとルールづくりから始めれば、労災リスクを着実に下げることができます。
はじめに
Day1では、「なぜ今フリーランスの労災リスクが問題なのか」という背景と法改正の流れを整理しました。では、実際にフリーランスや個人事業主に仕事をお願いしている企業は、何をどこまでやっておくべきなのでしょうか。この記事では、中小企業が現実的に取り組める範囲に絞り、「これだけは押さえたい最低ライン」をチェックリスト形式でまとめます。難しい法律用語はできるだけ避け、「契約前に確認すること」「契約書に書いておくこと」「現場で日々やること」の3つに分けて考えます。読み終えたあとには、自社の今のやり方と比べながら、すぐに見直しやすい状態になっていることを目指します。
目次
- 企業が押さえるべき3つの視点(法・現場・関係性)
- 契約前にやっておきたいリスクの棚卸し
- 契約書に入れておきたい安全・保険の条項
- 現場で実際に行うべき安全配慮のステップ
- 小さな会社でもすぐ始められる3つのアクション
企業が押さえるべき3つの視点(法・現場・関係性)
まず、「何を守らないといけないのか」を大きく3つの視点で整理しておきます。ここが曖昧なままだと、対策も場当たり的になりがちです。
1. 法(ルールの視点)
労働安全衛生法などの改正により、危険な作業を請け負う一人親方や、同じ現場で働くフリーランスに対しても、事業者が一定の安全措置をとることが求められるようになってきました。
また、無理な納期設定や、過度な長時間労働を強いるような発注をしないことも、「注文者の配慮」として重視されています。
ポイントは、「雇用している人だけ守ればよい」から、「同じ現場で働く人は立場にかかわらず守る」方向に変わっている、ということです。
2. 現場(安全そのものの視点)
法律の言葉は難しく感じられますが、現場でやることはシンプルです。
- どこが危ない場所なのかを、誰が見てもわかるようにしておく
- 危険な作業は、経験・知識がある人だけが行うようにする
- 体調不良やヒヤリハットを、そのまま放置しない雰囲気をつくる
フリーランスだからといって、危険な作業を丸投げしたり、「自己責任でお願いします」と片づけてしまうことは、これからますます通用しにくくなります。
3. 関係性(信頼の視点)
フリーランスとの関係は、「一時的な取引」で終わることもあれば、何年も続く「パートナー」になることもあります。
安全や健康に配慮してくれる企業かどうかは、取引を続けるうえでの大きな判断材料です。
安全配慮は、単なるコストではなく、「この会社となら安心して長く付き合える」という信頼をつくる投資でもあります。
契約前にやっておきたいリスクの棚卸し
次に、具体的なステップです。最初のポイントは、「契約を結ぶ前に、どんなリスクがありそうかをざっくり洗い出す」ことです。
ステップ1:業務内容を書き出す
まず、フリーランスにお願いしたい仕事を、できるだけ具体的に書き出します。
- どんな作業をするのか(例:撮影、設置作業、現場での点検など)
- どこで作業をするのか(自社オフィス、工事現場、客先など)
- いつ、どのくらいの期間行うのか(時間帯・回数・期間)
ステップ2:危険がありそうなポイントをチェック
次に、その業務の中で「ケガや事故につながりそうな場面」を洗い出します。
- 高所・重量物・機械・電気など、わかりやすい危険がないか
- 長時間の立ち仕事・夜間作業・移動が多いなど、身体への負担が大きくないか
- お客様とのやり取りで、トラブルやハラスメントの可能性がないか
ステップ3:誰がどこまで責任を持つか仮置きする
最後に、「このリスクについては、会社としてここまでは必ずやる」「ここから先はフリーランス本人と話し合いながら決める」といった線引きを、いったん社内で決めておきます。
ここでの仮置きが、あとで契約書の条文や現場ルールにつながっていきます。
契約書に入れておきたい安全・保険の条項
リスクの棚卸しをしたら、その内容を契約書にも落とし込んでおくことが大切です。
ここでは、「最低限これだけは入れておきたい」という項目を挙げます。
1. 業務内容・作業範囲
口頭だけでなく、契約書に「どんな作業を、どこで、どこまで行うのか」を書いておきます。
これが曖昧だと、想定していない危険な作業まで依頼してしまうリスクが高まります。
2. 作業場所と安全ルール
- 作業場所(住所、現場名、フロアなど)
- 現場で守ってほしい安全ルール(立入禁止エリア、保護具の有無など)
- 現場責任者や、指示・相談を受ける担当者
これらを書いておくことで、「誰に何を聞けばいいのか」が明確になり、迷いからくる事故を減らせます。
3. 保険(労災・民間保険)の扱い
多くの場合、業務委託のフリーランスは、企業の労災保険の対象外です。
フリーランス本人が、労災保険の特別加入や民間の所得補償保険に加入するのが基本となります。
契約書では、次のような点を明確にしておくとよいでしょう。
- フリーランス本人が、どのような保険に加入しているか(任意)
- 企業側が、労災特別加入の案内や代理手続きなどを行うかどうか
- 事故が起きた場合の連絡フローと、初動で会社が行うサポート範囲
ここで大切なのは、「保険に入っているから安全対策は不要」という発想にならないようにすることです。保険はあくまで「最悪の場合の備え」であり、「事故を起こさない工夫」とセットで考える必要があります。
4. 就業環境・ハラスメントに関する取り決め
フリーランスとの取引に関しては、取引条件の明示やハラスメント相談体制の整備など、就業環境に配慮することも求められています。
- 業務内容・報酬・納期などの条件を、書面やメールで明確にする
- 社内メンバーとのやり取りで問題があったときの相談窓口を決めておく
- 不適切な言動やハラスメントをしないことを、社内にも周知する
現場で実際に行うべき安全配慮のステップ
契約で決めたことを、現場で形にしていくステップです。ここでは、中小企業でも無理なく実行しやすい内容に絞ります。
ステップ1:初回オリエンテーション
フリーランスが初めて現場に入るときは、短時間でも構わないので、次のような説明を行います。
- 現場の全体像(どこで何が行われているか)
- 危険なエリアや、立入禁止の場所
- 緊急時の避難経路と集合場所
- 体調不良やヒヤリハットがあったときの報告先
ステップ2:危険作業前の「ひとこと確認」
高所作業や重量物の運搬など、危険度が高い作業をお願いする前には、次のような確認を習慣化します。
- 今日の作業内容と手順の最終確認
- 使用する道具・機械に不安がないか
- 体調や睡眠不足など、コンディションに問題がないか
たった数分の会話でも、「無理そうなら今日はやめましょう」と言いやすい雰囲気を作ることで、大きな事故を防ぐことができます。
ステップ3:無理な納期・働き方の見直し
見落とされがちですが、心身への負担を高める「無理な納期」「休みを前提としないスケジュール」も、重大なリスク要因です。
- 夜間や休日を前提とした発注になっていないか
- 急な仕様変更で、作業時間が極端に伸びていないか
- 複数の案件を抱えるフリーランスの立場を考慮できているか
「どうしても急ぎが必要なときは、それ相応の対価と、作業方法の見直しも一緒に相談する」姿勢が、信頼につながります。
ステップ4:振り返りと改善
一度やり取りしたら終わりではなく、ときどき次のような振り返りをすることで、事故の芽を早めにつぶすことができます。
- 危なかった場面や、やりにくかった点はなかったか
- 安全上、変えたほうがよいルールや動線はないか
- フリーランス側から出た提案を、次回の契約や現場ルールに反映できないか
小さな会社でもすぐ始められる3つのアクション
最後に、「全部いきなりやるのは大変」という会社でも、今日から始めやすい3つのアクションをご紹介します。
-
フリーランス業務の一覧表を作る
誰に、どんな仕事を、どこでお願いしているかを1枚の表にまとめます。まずは現状の見える化からです。 -
簡単な「受け入れチェックリスト」を作る
本文中の項目を参考に、「業務内容」「危険ポイント」「現場責任者」「保険の扱い」などを1枚にまとめたチェックシートを用意します。 -
次の契約から1項目ずつ見直す
いきなり完璧な契約書を目指すのではなく、「次の業務委託契約から、この条文だけは必ず入れる」と決めて、少しずつ改善していきます。
まとめ+Next Best Action
要点(5つ)
- 企業には、フリーランスに対しても「危険な環境で働かせない」「無理な納期を強いない」といった配慮が求められている。
- 契約前に、業務内容と危険ポイントを棚卸しし、「誰がどこまで責任を持つか」を社内で整理しておくことが重要。
- 契約書には、業務範囲・作業場所・安全ルール・保険の扱い・事故時の連絡体制などの最低限の項目を明記しておきたい。
- 現場では、初回オリエンテーションや危険作業前の確認、無理な働き方の見直し、定期的な振り返りが効果的。
- 小さな会社でも、「一覧表づくり」「チェックリスト化」「契約条項の一つずつの改善」から始めれば十分前進できる。
Next Best Action(次の一手)
いま取引しているフリーランス・個人事業主を1名だけ選び、その人との仕事を思い浮かべながら、「業務内容・危険ポイント・現場責任者・保険の扱い」の4項目を書き出してみてください。これが、自社版チェックリストづくりの第一歩になります。
FAQ(よくある質問)
Q1. フリーランスのために、会社が労災保険に入らないといけないのですか?
A. 原則として、業務委託のフリーランスは会社の労災保険の対象外であり、労災保険の特別加入などはフリーランス本人が行う形になります。ただし、だからといって企業側の安全配慮が不要になるわけではありません。危険な作業をさせない・無理な納期を避ける・現場の安全ルールを整えるといった対応は、企業側の重要な役割です。
Q2. オフィス内でのデザインや開発など、あまり危険がなさそうな仕事でも対策が必要ですか?
A. はい。転倒・過労・メンタル不調・ハラスメントなど、オフィス内にも見えにくいリスクがあります。入退室ルールや情報セキュリティとあわせて、長時間労働にならないか、コミュニケーションに無理が出ていないか、といった点を確認することも大切です。
Q3. あまり細かいルールを決めると、フリーランスに嫌がられませんか?
A. 「守るためのルール」であることを最初にしっかり伝えれば、多くのフリーランスはむしろ安心します。ポイントは、必要なことに絞って、理由とあわせて説明することです。「会社の都合で縛る」のではなく、「お互いが安全に気持ちよく働くため」として共有することが、信頼を高める近道です。
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