
Executive Summary(TL;DR 5行)
- フリーランスの労災事故が増え、従来の「自己責任」では済まない状況になっています。
- 2025年の法改正により、安全配慮の対象がフリーランスにも広がる方向が明確になりました。
- 企業側にも「危険な環境で働かせない」「教育する」といった義務が段階的に求められます。
- フリーランス自身にも「安全に働くための準備と学び」が義務・責任として問われていきます。
- これらを理解したうえで、Day2以降で「企業」「フリーランス」「一緒の仕組み」を順に整理していきます。
導入
ここ数年、「フリーランスも労災の対象にすべきではないか」という議論が一気に進み、2025年の法改正で、いよいよ現実のルールが大きく変わろうとしています。これまで「会社の従業員」を守ることを前提としていた安全の仕組みが、「同じ現場で働くフリーランスや個人事業主」まで広がっていく流れです。この記事では、フリーランスの労災リスクがなぜ深刻になっているのか、その背景と法改正のポイントを、できるだけ専門用語を使わずに整理します。まず「どんなリスクが見落とされてきたのか」と「国の方向性」を押さえたうえで、企業とフリーランスの双方にどんな影響が出そうかを確認します。ここを押さえておくことで、次回以降の記事でご紹介する「企業側の備え」「フリーランス側の備え」を、自社と自分ごととして検討しやすくなるはずです。
目次
- フリーランスの労災リスクが問題になっている背景
- 法改正で何が変わるのか(ざっくり整理)
- 企業側にとっての意味合い
- フリーランス側にとっての意味合い
- 次回(Day2)につながる視点
フリーランスの労災リスクが問題になっている背景
最近は、社員ではなくフリーランスや個人事業主に仕事を依頼するケースが、建設・IT・クリエイティブなど多くの業界で増えています。
一方で、フリーランスは「労働者」とはみなされないことが多く、これまで労働基準法や労働安全衛生法の守りの外に置かれてきました。
その結果として、
- 現場で事故やケガが起きても、企業側の責任を問いづらい
- 労災保険の対象外となり、治療費・生活費を自力で何とかせざるを得ない
- 誰も「安全をチェックする役割」を担っていない
という「すき間」が生まれてしまっていました。
国の資料でも、1960年代には年間6,000人を超えていた労働災害死亡者数が、2023年には750人前後まで減った一方で、フリーランスなど保護の外側にいる人たちのリスクが問題視されるようになったとされています。
法改正で何が変わるのか(ざっくり整理)
2025年5月に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が公布され、2026〜2027年にかけて段階的に施行されます。
ポイントだけをやさしくまとめると、次のような流れです。
これまで
- 安全に関する義務の中心は「企業(事業者)」と「そこで働く労働者」
- フリーランス・個人事業主は、同じ現場で働いていても対象外になりがち
これから(改正後)
- 同じ現場で働くフリーランスや一人親方も「守るべき対象」として位置づけられる
- 元請けなどの企業は、フリーランスに対しても一定の安全配慮を求められる
- 個人事業主自身にも「危険な作業を避ける」「安全について学ぶ」義務が課されるタイミングが来る
また、別の法律として「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が2024年11月に施行され、取引条件の明示や報酬の支払期限、ハラスメント対策なども整えられつつあります。安全面と取引面の両方から、「フリーランスを守るルール」が強化されているといえます。
企業側にとっての意味合い
中小企業にとって、今回の流れは「コストが増える話」に見えがちです。
しかし、視点を変えると次のような意味合いがあります。
-
重大事故・訴訟リスクの低減
フリーランスが現場で重大事故に遭った場合でも、「一定の安全配慮をしていたかどうか」が大きな争点になります。最低限やるべきことを事前に整理しておくことで、リスクを抑えられます。 -
採用・取引上の魅力向上
「フリーランスの安全や健康もきちんと考えている会社」は、今後ますます選ばれやすくなります。特に人手不足の業界では、優秀なフリーランスほど発注先を選びます。 -
社内の安全文化の底上げ
「社員だけ安全ならいい」という発想ではなく、「同じ現場で働く人は全員守る」という考え方にシフトすることが、結果的に社員の安全レベルも引き上げます。
フリーランス側にとっての意味合い
フリーランスにとっても、「守られる」だけではなく、「自分も一緒に守りの輪を作る」ことが必要になります。
- 現場の危険や体調の変化を、自分から発注者に伝える
- 「危険だな」と感じる仕事の受け方・働き方を見直す
- 労災保険の特別加入や、民間の所得補償保険などを検討する
- 安全教育やメンタルヘルスに関する情報に、意識的にアクセスする
これまで以上に「自分の身は自分でも守る」ことが、法律の流れとしても求められつつあります。
次回(Day2)につながる視点
ここまで見てきたように、フリーランスの労災リスクは「個人の問題」ではなく、「企業とフリーランスが一緒に向き合う社会課題」に変わりつつあります。
次回のDay2では、
「企業側の備え:フリーランスを受け入れる発注者の『最低ライン』」
として、中小企業がまず押さえておきたい安全配慮・契約・現場マネジメントのポイントを整理します。
まとめ+Next Best Action
要点(5つ)
- フリーランスの労災リスクは、法のすき間にいた人たちの事故・健康被害が増えたことから注目されている。
- 労働安全衛生法などの改正により、フリーランスも「守る対象」として位置づけられる方向が明確になった。
- 企業には、フリーランスに対する安全配慮や教育の責任が段階的に広がっていく。
- フリーランス自身にも、安全に働くための行動・学び・加入制度の検討が求められる。
- 安全と取引ルールの両面から、「フリーランスとどう付き合うか」は経営テーマになっている。
Next Best Action(次の一手)
まず、自社が関わっているフリーランス・個人事業主のリストを作り、「どんな現場で、どんな危険があり得るか」をざっくり棚卸ししてみてください。
FAQ(よくある質問)
Q1. うちは小さな会社なので、法改正の影響はあまり関係ないのでは?
A. 規模を問わず、「危険な環境で働かせない」「安全に配慮する」という考え方は共通です。むしろ人手も予算も限られる中小企業こそ、最低限のラインを決めておくことが大切です。
Q2. フリーランスにも責任があるなら、企業側はあまり気にしなくても良い?
A. いいえ。企業側にも、フリーランスにも、それぞれの役割があります。「相手の自己責任だから」と考えると、事故が起きた際に信頼も法的リスクも大きくなってしまいます。
Q3. まず何から始めればいいのかわかりません。
A. 最初の一歩は、「誰が、どこで、どんな危険を抱えながら働いているか」を見える化することです。そのうえで、Day2の記事で紹介するチェックリストを使って、優先度の高い対策を決めていきましょう。
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